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短編まとめ

小さな親切、大きな恩返し

作者: よもぎ

わたしは大変困惑していたし緊張していた。

貴族の通う学園に入学して一年と半年。男爵家の次女という平凡も平凡な生まれのわたしにとって、高位貴族の方々というのは遠い存在だった。

物理的にも。精神的にも。


低位貴族と高位貴族の校舎は分かれているし、共通科目もスキル修練くらいで他は学習内容が違うと入学当時聞いてもいる。

だから本当に交わることがないはず、なんだけどな。

しかし今、わたしはその高位貴族の令嬢がたに呼びつけられてサロンで縮こまっている。


寮の寮母さんに渡された招待状のせいだ。

少し話がしたいので指定日に指定したサロンに来て欲しい――こんな文面のものがわたしにだけ。他の子には届いていなかった。

この文面で、届いたのがわたしだけという状況で、クラスメイトに一緒に行って欲しいと言えるはずがない。

目を付けられるようなことをしでかしたろうか、領地のお父さんお母さんごめんなさいわたしはここまでかも、と思いながらやってきたのだ。



だけど、ご令嬢がたは悪意とかなくのんびりとしたご様子。

サロン専属の給仕がお茶とお茶菓子を置いていったのを確認してから、少しの間はお茶を一口飲むとかその程度。

わたしはおっかなくって身動き出来ない。

そんななのを見て、上座のお方が口を開く。



「そんなに緊張なさらないで。少しお話を聞いてみたかっただけなの」

「は、はい」

「タンブル男爵家は中立派だったわよね?

 それにあなた自身も平等な人物だと伺ってるわ。

 だから、政治的にもお話がしやすいと思ってお呼びしたの」



え、そういう理由……私に問題があるとかじゃないんだ。

少し希望を持つ。



「同じクラスにフィガロ子爵家のエミナ様っていらっしゃるでしょう?

 その方に関してとか、ね」



エミナ……ああ、あの子!

もうその名前聞いただけでわたしは用件を察したくらいだ。

だってあの子ってばとんでもないし。

沈黙で先を促すと、ご令嬢はゆったり頷いた。



「婚約者のいる殿方にベタベタしたり、腕に絡みついたりする行為は低位貴族でも有り得ないと思うのだけど。どうかしら」

「恐れながら、その通りでございます」

「手作りなのでと出どころ不明の菓子を差し出すのも一種の攻撃行為だと思うのだけど、どう?」

「場合によっては一家断絶も視野に入りますね」



高位貴族にもやってんだあの女!?

わたしは頭がクラクラしてきてしまった。

独り身の令息にアピールするくらいならいいけど、この場にいる方々……どう考えても高位の更に上位じゃない?

もしかしてこちらにおいでの方々の婚約者に言い寄って怒りを買ってる?

バカじゃないの!?



「彼女は……その、入学当初は低位貴族舎の令息にも同じようなことをしておりましたの。

 不意にぱたりと止めて関係を断ったようだったので、落ち着いたと周囲は納得していたのですが……まさか……?」

「ええ。部活動やスキル修練の授業などを通じて知り合ったわたくしどもの婚約者に……ね。

 ですから、流儀が違うのかと確認がしたかったのですわ」



多分私の顔からは血の気が失せてると思う。

アレが普通だと思われたら低位貴族の立場がないわ!?さすがに!?

平民のことも知ってるけど平民だってあそこまでふしだらじゃないんだけど!?


というかまさかと思うけど、わたしたちの校舎の方で男を漁ってたのって自分がどこまで通用するか試してたんじゃないでしょうね?

それでアホが引っかかったからイケる!と思って上の男を……?



ふつふつ湧き上がる怒りをなんとか抑えていると、上座のご令嬢が困ったように微笑む。



「流儀はそう大きく変わらないと分かって安心しましたわ。

 このまま少し相談させていただいてもよろしくて?」

「もちろんです」

「ありがとう。……家へ抗議の手紙を送るのはやりすぎだと思って?」

「いいえ。本人に話は通じないと判断してよろしいと思われます。

 彼女は寮暮らしなので、実家に速達で送るとよいかと」



そう、あの子も寮生活してる。

深夜に勝手に厨房に潜り込んでクッキー焼いたりしてて迷惑なのよね、いきなり匂いがし始めてそれで起こされるんだもの。

寮母さんも毎回説教しているけど聞いちゃいないし。



しかし抗議かぁ。うーん。



「もし被害にあわれている方が複数なのなら、連名ではなく家々で送るのが効果的だと思われます。

 フィガロ子爵家と直接付き合いがあるわけではありませんが、あの家は少々楽観的な当主だったはずです。

 手紙一枚なら重要視しなくても複数となれば現実が見えると思われます」

「まあ。では、そのように致しますわ。他に気を付けることはありますかしら?」

「楽観的なお方でも恐怖を感じればきちんと行動なさるはずですので、冷静な中にも怒りを滲ませた文面が効果的だと思われます。

 こちらで処分する一歩手前だと思わせれば勝ちでございます。

 本人のみならず家にも影響が出るとまで思わせられたら完全勝利です」



フィガロ子爵家とは馬車で四日ほど行った距離の関係。具体的に言うと間に別の家の領地が挟まってるのでそんなに交流がない。

けど商人は知ったこっちゃなく、あっちにもこっちにも来るからいろんな話が聞ける。

だからご当主の人柄は知ってる。多分あっちもこっちのこと知ってる。


ちなみに楽観的というか何も考えずに父祖がやってきた通りにやってれば安泰だろ、ってタイプ。

だから嫡男の方にはきちんと教育しているけれど残りの子供は適当に育ってると聞いてたわ。

だから入学した時「確かに適当だわ!」ってなったんだけど。

その後は「教育受けたことないサルだわ!」だけど。


ふむふむと左手に座っておいでのご令嬢がメモを取っている。

右手のご令嬢は少し考えてから、



「では、あなたの意見でよいのだけど、ちょうどいい落としどころってどんなものかしら?」

「自主退学の上で修道院行きか、有無を言わせぬ婚姻が落としどころでしょうか。

 彼女、スキルの使い方はもう体得していますし。

 子爵家なので無理に貴族と結婚させなくても、適当に貴族との縁が欲しい商家に差し出させれば十分かと」

「なるほど……取り潰しになるよう働きかけるつもりだったのですけれど、やりすぎかしら?」

「皆様のお心次第かと。

 婚約を見直し新たな婚約が必要となるほどでしたらそれでも生温いですが、まだお互いにぎくしゃくし始めている程度でしたら、二度と近寄れないような処遇にするだけで十分ではないでしょうか?」



おっと、やはり家ごとぷちっとしちゃえばいいじゃん!思想がありました。

確かにそれはデメリットも少ないんですけど、そうすると小さいとはいえ貴族の統治していた領地が浮いちゃって扱いに困るんだよね。王家の直轄地には不適格だし。

なのであくまでエミナ様一人にだけ集中的に責任取らせるのがベター。

しかも高位貴族に付き纏いできなくなるようにって形が最適。



この国では離婚ってよほどの事情がないと出来ない。

不貞行為のあった場合と、世継ぎが出来なかった場合、あとは家庭内暴力が行き過ぎた場合の三点のみ。

好き嫌いでの離婚はよほどのことがないと……殺し合いに発展でもしないと無理ね。この場合は離婚じゃなくて婚姻無効の上、両者を引っ越させてその後関係がないように神殿が面倒見る。


神殿は契約と癒しのスキルを持つもので構成されている。

国からは婚姻に纏わる司法の権限を与えられてるって寸法。

なので神殿は大抵の街にある。規模によっては村にも支部を置いている。

そうして結婚に関する契約を遵守させるべく働きかけているし、治癒の力で収入を得ている。


その神殿が間に挟まってくるので、結婚はとてつもなく厳格な契約になる。

貴族が関係する結婚はきちんと管理される。

平民同士ならそこまできつくない契約だけど、ある程度身分がしっかりしている層はかっちりあれこれ型にはめられるのだ。

王族にのみ一夫多妻が認められているこの国では、性交渉は伴侶としか認められない。娼婦や男娼がギリギリ範囲内に入るか?ってくらい。

そのため、契約には勿論そこの取り決めが必ず入る。

入るとどうなるか。



不貞しよう!と思った瞬間頭痛で死にかける。



これがなかなか厳しいそうで、恋愛小説や演劇を見て感動するのは全然セーフ。

だけどそれで私もこんな恋を「特定の誰か、伴侶でない人」としてみたいと思った時点で頭痛が襲撃してくる。遠慮躊躇なく。

もちろん、異性に粉を掛けようとしてもその時点で蹲って七転八倒するような頭痛だ。

男娼や娼婦と恋愛関係に至ろうと思うのもダメ。ほんのり恋慕を抱きかけた瞬間に頭痛なので、それ以上先にはいけないようになっている。


エミナ様が結婚した場合、もちろんこの契約を結ばされる。

ので、地獄のような頭痛を乗り越えなければ男漁りが出来ないということになる。

ちなみにこの頭痛、鎮痛剤効かないそう。

気の迷いでしたごめんなさいやりませ~ん!って心の底から思って反省すれば止むけど、またやろうと思ったら以下省略。



と、まあ、エミナ様は女なので王族であっても愛人とかは持てないわけ。

だから多分、ご令嬢がたは知っている商家のいずれかにエミナ様を引き取らせるだろう。

エミナ様に価値はなくとも、この方々のうちどこかと、一度だけでもドカンと大きめの商売をしてもらえるとあれば、と考える商家などいくらでもいる。


よかったね、エミナ様。結婚先決まって。


そんな気持ちでやっと気持ちを落ち着けてお茶を飲める。

あ、おいしい。高級なお茶に白い砂糖、たまらんです。

普段飲むのは味が落ちて庶民にも手が届くお値段になったお茶だし。お砂糖も入れられない。入れられても黒砂糖だ。

王族も通う学園だからと言ってお茶のランクが急上昇するわけじゃないのでこれは本当に幸運。

……あれ?

そういえば今この学園って確か王子様も通っておられたような。



「あの、不躾なのですけれど」

「あら、よろしくってよ」

「エミナ嬢が言い寄った殿方に、よもや王子殿下がいたり……」

「ええ、はしたなく絡んでおられましたわ」



やべーッ!!



「もうお家断絶でよいのでは!?前言撤回いたしますけれど!」



淑女らしからぬ大声が出てしまうくらい大層なことである。

弱小子爵家のおサルさんが、王子様に言い寄るとか、もう刎ねるクビが一つじゃ足りないんですけど!?

一応跡取りがいてその人はマトモそうだけど、その妹がそんなヤベーことやってるとか、もう、もう、言い逃れ出来ないくらい国家に歯向かってるんですけど!

ってことは上座のご令嬢って婚約者様よね?公爵家の至宝と言われたカルミナ様よね!?とんでもなく美しくて所作も整ってるわけだわ。未来の王妃様だもん。


ああどうしよう。クラス丸ごと連座でも文句言えない。

子爵家だけでクビ足りるかな。


内心頭を抱えてぐーるぐるだったけど、カルミナ様はおっとり微笑んでおられる。



「安心なさって。当家が問題なく処理いたします。

 妥当な落としどころを教えていただいたのですもの。

 わたくしどもの流儀を貫いてもよかったのですけれど、あの家の領地の出であるワインは気に入っておりましたし」



ワインで首の皮一枚繋がったってよ、良かったな子爵家!

領民の頑張りで生存できるぞ!



「さあ、お顔が真っ青ですわ。よろしければクッキーも召し上がって?

 ちょうど時期のオレンジをジャムにして乗せたものですから、甘酸っぱくて美味ですわ」

「は、はい、賜ります」



さくさく。あ、おいしい。

リスのように一枚ずつ丁寧に食べるわたしを、お嬢様がたはほほえましい生き物を見るように眺めておられる。



「と、とっても美味しいです。うちの領地にも、オレンジではないですがユズが生ってるのですが、同じように作れるものでしょうか」

「あら。ユズとはまた珍しいものを」

「ユズはお茶にするとおいしいと聞きましたわ。出荷や加工はされておいで?」

「いえ。たくさん生るのですが、商人が引き取ってくれないので…」



きょとん、としてから、カルミナ様がふうわり笑んで、



「お礼に当家の知識ある分家のものを送りますわ。

 加工すれば高位貴族も欲する品だと思いますから、経済は随分上向くのじゃなくて?」








あのお嬢様、分かってて送ってきたな?

分家の子爵家から送られてきたのは、私より三歳上の独身美男子であった。

つまりそれって私のお婿さんにしてみない?ってヤツだった。


美男子は大量に生るユズの加工方法を領民に教え、販売先まで準備していた。

ジャムにするために必要な砂糖は同じ中立派で交流のある家から入荷できた。

そしてジャムにすれば一シーズンほどは持つ。馬車でガタゴト輸送しても、容器が頑丈なら中身に影響はない。

よその領地ではここまでいっぱい実るものではないそうで、我が家はユズジャムとユズ茶の一大生産地として有名になった。

代々、乾燥のスキル持ちが産まれてるので、ユズ茶の生産は家が潰えるまで続けられるだろう。


そしてわたしは子爵家に嫁にいくことになった。

いえ、いいんですけどね。学園の卒業まで待ってくださったし。

割と珍しめで、夫の研究や生活に役立つ、熱操作のスキルを見初められた気がしなくもないけど。



ちなみにエミナ様は、あのお茶会が終わったひと月後に退学した。寿退学である。

嫁ぎ先は最近名前が売れ始めた商家の次男坊。よほどいい商売を結べれば当主も有り得るけど、多分兄のサポートで一生を終える雇われ人。


地方をメインに回る商家で、王都にはそこまで重きを置いていないし本店も地方という家なので、華やかさとは無縁。

王子殿下や高位貴族にあわよくば嫁いで、みたいに考えていただろうエミナ様からすれば不満しかないでしょうね。

けどご実家からすれば、遥か高みの高位貴族に睨まれた娘の出荷先があっただけで御の字。

納得いこうがいかまいがどうでもいい、とりあえず処分しよう、と、言われるがままエミナ様を嫁がせたというわけ。

下手にかばうと、やってもない横領とか違法な増税の証拠が生えてきて、家が潰れる恐れがあるものね。



そんなことを考えながらお風呂の準備を終えて、試作品のユズ入浴剤を入れる。

徹底的に乾燥させて粉にしてあれこれ混ぜたこの入浴剤は、肌によし匂いもよしで、ついでに体がよく温まる。

効能がそれなりに続くようなら北方に出荷して長く厳しい冬を乗り切るアイテムにしてもらおうと考えている。


思えば、エミナ様がやらかさなければユズジャムやユズ茶の産地としてタンブル家が有名になることはなかった。

最近では香りづけに皮が使えると分かって、領民たちはユズの木をそれはもう大事に扱い世話していると聞くわ。

まあほっといても大量に良質のユズを実らせるんだけど。



結果としてエミナ様のおかげでハニートラップに引っかかりやすそうな殿方が炙り出されて、あの時サロンにいた方々は夫となった方々を尻に敷いておられるとか。

そのほうが幸せよ、良かったわね、としか言えない。


旦那様を実質あっせんしてくださったカルミナ様も、今年の健国祭がある月に結婚する。

その時のパーティーで、きちんとお礼を言わなくちゃ。

なんてことないアドバイスの対価が大きすぎるのだもの。

素敵な夫と、実家の繁栄よ?たったあれだけしか言えなかったのに。

……いえ、まあ、皆様がたが良質なユズを求めておいでだっただけかもしれないけど。




しかしエミナ様、逆恨みしてそうよね。

でもやらかしてた事、そこから発展したかもな可能性から考えたら、ものすごく穏便に済ませてくださってるんだよね。

たかが低位貴族の跡取りでもない娘が高位貴族の婚約に横入りしかけてたんだもん、しかも複数。

物理的か、爵位的にか、ぷちっとイかれても文句言えなかったと思うけど、どうなんだろう。


わたしはもっといい暮らしするはずだったのに、とか思ってるのかな?

でもそうはならないと思うんだよねえ。

一人と結婚できたとしても、多分平民に落ちてると思うし。


だって、契約ひとつマトモにこなせなかった男だよ?

当主がそんなのを跡継ぎとして置いてくれて、許してくれるわけないじゃん。

温情があればそのまま放逐、ちょっとイラッときてたら断種して放逐だよね。

要らないもん。家に。



ということはエミナ様は?となると、一つの契約をぶち壊したんだから当然放逐コースよね。

修道院だって入るのにお金かかるもん。

そもそも修道院って静かに暮らしたい人が家にお願いして入れてもらって、労働しながら暮らす場所だよ?ワケあり貴族を匿う場所じゃないし。

親が愛情深ければほとぼりが冷めるまでって入れてもらえるかもだけど、あの人信仰心なかったみたいだから無理かも。


しかも学園で男漁りを盛大にしてたってなると純潔も怪しいから初物狙いのウブな乙女好きな下衆にも売れない。

じゃあ捨てるしかないね。ってなるじゃん。

本人の持ってるスキルも別に珍しくないから価値がないのよね。しかも火魔法。使いどころが難しい癖に所持者だけは多いあの火魔法。

完全記憶とか読心みたいな、貴重も貴重なスキル持ちならスキル目当てでどっかが拾ってくれたかもだけど、ねぇ?




まあ、そういうの分かってないから、ものすごく穏便な寿退学にも暴れてたんだろうけどね。

私は現場見てないけど、低位貴族寮に即日噂が回り切ったもん。

手続きと同時に連れ帰りに来た親御さんに、帰らない!!って喚いて暴れた結果、茣蓙と縄でロールケーキにされて猿轡までかまされて従者に担がれてお持ち帰りされたって。

普通に恥よね。

というか暴れた時のこと考えてそれだけの準備してきた親御さん、娘の理解度高いの?低いの?


というかあのひと、結局クッキーとかも寮の在庫勝手に使ってたんだっけね。

確かに寮の部屋で保管できるものじゃないけど、普通に窃盗じゃない?

私でもしないよ、夜中に寮の保管庫から食材持ち出して料理とか。

その方面でもとんでもなさすぎ。




ま、どれだけ恨めど呪えど、カルミナ様がたには届かないだろうし効かないだろうし。

無論わたしが取りなしたとか知らないだろうからわたしも安全圏。

しかもわたしは結婚して姓が変わってるし、あっちが顔を認識してたかどうか怪しい程度の関係性だったので尚更ね。


と、浴室のドアがノックされた。

さすがに考え事をが長すぎたみたい。反省反省。



「おーい、長いよ……って、まだ入ってもないのかい?」

「あ、うん。ちょっと考え事してた」

「そんなに考えることある?…いや、僕が増やしてる自覚はあるけど」

「ああ、家のことじゃなくって。昔のクラスメイト元気かな~って」



ああ、と、入ってきた夫は納得いったような顔をした。

ちなみに夫もクラスメイトが誰を示すか理解はしているし、エミナ様の話も一通りは知ってる。

だって、本家のご令嬢たるカルミナ様にその辺は説明されてるらしいし。

そういう経緯で行ってもらうからね、くらいはそりゃ言われるよねえ。


で、送り付けられた先でこうして学者業してるわけだけど、本人は幸せそうなのよねえ。

わたしも十分幸せだからお互い得しかしてない。

熱烈な夫婦関係ってわけじゃないけど、今のこの浴室みたいに柔らかく温かい関係を築けていると思うしね。

それって結構貴重なんじゃない?



「試作のユズ湯か。効果の程はいかほどかな」

「まだ入ってないから分かんない。さ、私が先なんだからちょっと待ってて」

「はいはい。じゃあ僕は飲み物でも準備しておこうかな」



浴室から夫を追い出して、入浴の準備をしながら、わたしは既に終わったことを考えるのをやめた。

わたしも、エミナ様も、カルミナ様も、なんだかんだ収まるところに収まったのだから。




エミナちゃんが転生者なのか生粋の地元民かは想像におまかせ

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