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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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97  西の公爵領  3

 ライたち東の治療応援は、毒のアス草の熱さまし薬を飲んだ患者に解毒薬の服用で軽症化を図ることにした。


「ここにきても新しいことを知るとは思わなかった」

「わたくしもです。アーツさん。東では無我夢中でしたが、ここでは落ち着いて治療にあたれます。魔力枯渇は熱が下がる前から徐々に表れることが分かりました」


「ライさんのアス草の毒の解毒が確認できてよかった。高濃度になった錬金薬にも効果があるだろうか?こればかりは、対象の患者がいないから分からないな。それにしても今でも毒草で薬を作っている薬師がいるのか?」


「連絡はいっているだろうに。街に出回っていないとよいが」

「一応報告あげとくけど、読むか分からないな」


 部屋の隅でアーツさんとハイラさんが話している。ライは体を拭き終わった人にクリーンをかける。その横から魔力ポーションが現れた。


「ラ、ライさん、魔法の使い過ぎです。顔色が悪いです。これ飲んでください」

「ストーンさんだって、患者の移動で結構魔力を使っているでしょ?」


「わたしは男ですから」

「ウフフ、魔力量に男も女もないわ。これは私が作った魔力ポーションです。これを差し上げます。二人で飲みましょう」


「ありがとう」

 二人してポーションを飲み干し笑いあってしまった。それだけ一時の緊迫感が落ち着いたとこだった。


「大変だ!森にはいった奴がいる」

「えー!ギルドが止めていたのではないのか」


「公爵子息二人が先頭切って森に駆け込んだらしい」

「、、、、」


「貴き方はこちらには回ってこないが、連れがいるだろうな。回復が進んでいる者を2階の大部屋に移そう。熱は下がっているし、食事もとれている。もう大丈夫だろう。さすがに家に帰すには早いが、見守り程度で大丈夫だ」


「わたしが抱きかかえて移動します。2階の大部屋の寝台は6台です。アーツ様。指名して下さい」


「二つの大部屋の寝台を三台ずつにしてその横に家人の休む場所を作りませんか?2階の一つの個室に寝台を詰め込めば皆さんの仮眠に支障が出ないと思います。会議室はなくなりますが、一時のことですから」


「さすがライさん良い考えだ。無駄になっても良いので先に手配しましょう」


 男達はすぐに2階に寝台を移した。ストーンさんが軽々と冒険者の男性を2階に運ぶ。歩くと言い出す者も力のあるストーンさんに抑え込まれ運ばれていった。


 皆が抵抗したのがお嬢様抱っこと言われる形の移動姿だった。男はされるよりしたいと願うらしい。だが安全が第一と、文句を言わせない所がストーンさんらしい。緊張の中にも笑いがこみ上げる。付き添いの家族は自分たちの荷物と水差し、コップをもって2階に上がっていった。


 この時間にアーツさんとハイラさんに、食事とかけ湯を済ませて仮眠を取ってもらうことにした。渋る二人を食堂に送り出した。


 ライは解毒薬入りの水と回復薬入りの水、それと二つを合わせた水を作る。今まで使っていたシーツをはぎ取り、寝台の薄布団にクリーンを掛けた。手の空いたものが新しいシーツを寝台にかける。


 寒い季節でなかったことがありがたい。大量の洗濯物はストーンさんの力で絞られ、風魔法ですぐに乾かされる。身体を拭く布も予備が沢山あるので、使い古したら雑巾にして掃除に回している。


 公爵の子息が森にはいったと聞いた翌日、治療宿に貴人が現れた。


「どうか息子を助けてください。領主子息の誘いを断れず、ついて行ったバカ息子ですが、わたしにとって大切な一人息子です」


 貴人担当の西の治療者は、公爵子息にかかりきりで他の貴族は見れないと断った。さらに治療中の高熱病の患者を無理やり家族のもとに帰した。驚いたアーツさんは、訪れた人は貴人も平民も区別なく治療が受けられるなら受け入れると告げた。


 高熱病の患者にも家族にも選択肢はない。治療宿の1階の大部屋が彼らの治療室になった。発症したばかりで何も薬を飲んでいないので治療は定石どおりに進む。2階の回復期の家族が下りてきて貴人の付き添いに介護の仕方を教えて行く。命のかかわった場で、我が儘を言う者は現れなかった。


 最初に飛び込んできた貴人は財務部門の長、コイネインであった。彼はすぐに共に出かけた子供の親に声を掛けた。まさか公爵邸で、治療を断られるとは思いもしなかった家族は困惑していた。当然手厚い治療を受けられると思っていたからだ。


 治療宿の話を聞くも、疑心暗鬼であったが子の命に代えられず治療宿に向かった。さらに治療途中の者の中には意識がない者もいる。コイネインはアーツ医師に指示を仰ぎ重症の者をコイネインの屋敷の別邸に集めた。


 西の医師や治療師は熱さましの薬と水分を無理やり意識のない患者に飲ませたために誤嚥を起こし肺を患っている人まで出ていた。発症して5日目で解熱しなかったのはそのためだった。意識が戻らないのは魔力枯渇が進んでいるせいだ。アーツとハイラ、ライは2か所を行ったり来たりと忙しく働いた。


 2階で回復待ちだった者たちが元気になり、下に降りて介護に加わってくれている。財務部長のコイネインは屋敷の料理長を治療宿の厨房に向かわせ、治療宿の料理人から治療中の食事の指導を受けさせる。その後別邸に向かわせ患者の食事を作らせるようにした。薄塩のコメのスープから徐々に食事量を増やしていく。


 発病から7日過ぎている。ここまで来ると熱病だけの治療ではなくなる。コイネインの屋敷のかかりつけ医に治療方法を伝える。

 肺の病に効く薬草から作られた薬と熱さましの内服をさせ、熱さましは東から持ち込んだものしか飲ませないように説明した。冷却材を使って熱を下げて、咳の出る者には咳を無理に止めず痰を吐き出す。その際背中を軽くたたいて痰を吐き出させる。


 意識を確認して、体を起こし、口をゆすいでから、ライの作った樽に入っている水を頻回に飲ませるよう伝えた。あせって、無理に食事を与えないように、魔力枯渇の治療は時間をかけるよう説明した。


 治療宿には6人の貴族と4人の従者が担ぎ込まれた。それぞれの家の主や主治医は王都から出された高熱病の報告書を読んでいた。たった40年前の忌まわしい流行り病を忘れていない者も多かったからだ。手持ちの熱さましを飲ませるも高熱がつづき、家族もかかりつけ医も意識が朦朧とする姿になすすべがなかった。


 見た目みすぼらしい宿屋の中は、整然としていた。誰一人騒ぐ者はいない。着ていた貴族服を脱がせ、声かけながら水分を取らせて、冷却材で体を冷やす。治療魔法で苦痛を緩和させ、焦る家族や付き添いの医師たちに高熱が出るが体をしっかり冷やせば頭に障害は出ないと説明し、薬の乱用を防いだ。付添ってきたかかりつけ医は、そのまま治療に参加した。


 水分が取れるようになると患者の体から汗が噴き出す。冷水で絞った布で体を拭き清め、冷却材の交換をする。それの繰り返しだった。息の詰まる3日を過ぎたころから会話ができ、スープが飲めるようになった。治療師が魔力量を頻回に測る。


 5日目には熱が下がり意識もしっかりしてきた。もともとの魔力量の多い者は魔力ポーションの使用量が多い。一気に魔力を上げると弱った魔力器官に障害が出る。コイネインが連れてきた医者や治療師は真摯に治療経過を観察し医師アーツや治療師ハイラに指導を仰いだ。


 ライが隠れてクリーンをかけているのも知っていた。途中参加の医師や治療師は馬車で仮眠を取っていた。風呂でかけ湯をするのは、疲れも取れるが汚れを持ち込まないためだと風呂場に放り込まれた。食事は健康の源と消化の良い食事も出されたが、さすがに部屋数がないので、馬車で寝てもらっている。


 発症7日目さすがに若い子息や従者は全員回復して自宅に帰った。自宅でこんこんと叱られているだろう。コイネインとともに来た医者や治療師は数人残り、治療の実践に入っていった。


『ライ、ここの薬師ギルドは異常発生のアス草で薬を作っていた。今慌てて処分している』

 グレイからの念話だ。アーツさんからコイネインさんに伝えてもらいたい。


「ライさん、気にかかることがありますか」

「アーツさん、何も聞かずコイネインさんに薬師ギルドの捜査をして欲しいと伝えてください。毒のアス草で薬を作り売っています。今慌てて処分しようとしています」


 目を剥いたアーツさんはすぐに、コイネインさんに連絡を取り調査後に薬師ギルド長を取り押さえた。西の薬師ギルド長は、毒アス草を無料で手に入れ濃度を弱めて薬として販売していた。


 毒はあるわ効能がないわでほぼ毒薬だった。薬の形になれば薬師を信頼するしかないのに、その信頼さえ金儲けでなくすなど情けない。ライは東の薬師ギルドがいかに素晴らしいか実感した。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まさか「王宮」で、 公爵邸で、 でしょうか [一言] いつも素晴らしいお話をありがとうございます。
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