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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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96  西の公爵領  2 フリボロスと三人の妻の胸の内

フリボロスと三人の妻の視点変更があります

 西の公爵フリボロス・フライトには、三人の妻がいる。正妻は侯爵家の長女マーガレットで、息子は継承権一位だが次男だ。

 第二夫人は同じ侯爵家の次女ミリシャー、息子は長男だが継承権二位だ。姉の夫を寝取って先に子供が出来たという曰く付き。

 第三夫人は公爵家で事務官をしていた伯爵令嬢クリアールで娘が一人いる。他にも数人の妾や愛人がいて子供もいるが、幾人いるかはフリボロス本人にも定かでない。


 フリボロスの父親、前公爵は口うるさかった。勉強しろ。民を見ろ。良政を!と、ことあるごとにフリボロスに勉強を強いた。フリボロスの母親はそんなことは言わず、自由に気ままに暮らしていた。そんな母親を見本に育ったフリボロスが、真面目に勉学することはなかった。要領の良いフリボロスは人を使うのが上手かったので、己が出来ないことはどんどん人に任せた。


 それでも公爵家が落ちぶれることはなく父親の急死後、一人息子のフリボロスが公爵位を継いだ。二人の妻をめとって二人の男の子がいる。後継者の心配がないことで、箍が外れた。領政など放っておいても官僚が滞りなく行うものと認識していた。


 確かにすべてを背負い込むのは不可能だが、すべての仕事を妻や官僚に任せていいことはない。それなりの税収がある公爵家だからまだ危機は生まれていないが、確実に危機の芽が生えている。


 正妻のマーガレットは、本当にできた妻だった。政の能力も社交の能力も申し分なかったが、夫が実の妹を第二夫人にめとってからは、体調を崩し表に出てこなくなった。領政にも手も口も出さなくなった。社交など出られる状態でなかった。



 脂ぎった男盛りのフリボロスは、三人目の妻をめとって、女の子が生まれた。子をはらめば女は終わりと思っているのか、妻や子を気に掛けることはなかった。

 そのために水面下で継承権問題が上がっていることに気が付いていない。悪政までいかないが尻すぼみになりつつある西の公爵領を、どうにかしたいと悩んでいる者は多い。そのほとんどが前公爵につかえた者達だった。



 腹違いのほぼ同い年の息子達は、お互い心の中では犬猿の仲だ。親子の関係も希薄で良い家庭環境などない。三人の妻は全員見目麗しいときてるから、生まれた子供も見た目がとても良い。褒められることがあっても貶されることがない生活が続けば人は堕落する。父親によく似た二人の息子だった。


「お姉様ごめんなさい。愛してはいけないと思っていたのに・・フリボロス様の愛を受け入れてしまいました。ここに愛の結晶がいるのです」


 マーガレットは、慣れぬ公爵家の仕事に緊張して月の物も乱れがちであった。フリボロスは「苦労を掛ける」とマーガレットを優しく抱きしめてくれていたのに、その手でミリシャーも抱きしめていた。今日、ミリシャーが戯言を言わなければ夜には、マーガレットは夫に子が出来たと伝えるつもりだった。


「二人とも俺の妻になればいい。表の妻は正妻のマーガレットで変わりない。不安に思うな」


 この一言で夫と妹の婚姻が決まった。さすがに一つの家から二人が嫁ぐのには問題があると、別の侯爵家に一度籍を移してからの婚姻だった。


 ミリシャーは姉と違って、社交的と言えば聞こえがいいが自由奔放で、女友達より男友達の方が多い。出るところはしっかり出ている妖艶さを武器に男に貢がせる女だ。ミリシャーは昔から何も考えてない。享楽的で、ちやほやされればそれで幸せだった。そこがフリボロスと合ったのだろう。共に遊び歩ける存在になった。


 ただ姉のマーガレットが公爵家に嫁いだ時、両親があまりに自慢するので、少しだけマーガレットに意趣返しがしたくなった。マーガレットの夫はあっという間に陥落した。少ししなだれて、豊満な胸を見せればすぐだった。べつに結婚する気はなかったが、妊娠したので仕方がなかった。


 フリボロスが表の仕事は姉がすると言ったのでミリシャーは、今まで通り遊んで暮らせると安堵した。子育てなど乳母がすればいい。授乳などしたら胸の形が悪くなる。ミリシャーは妊娠線の一つでさえ赦せず、子供が恨めしく思えた。


 マーガレットは幼少期に前公爵の願いで、婚約をした。遊ぶ時間があるなら勉強しろと家庭教師をつけられ、行儀作法さえ諸外国のものまで学ばされた。王都の学園まで出向いて、学園の勉強から国内の情勢、四公の歴史まで知識を身に付けた。フリボロスの足りない分を補うようにと詰め込まれた教育だった。


 その間、フリボロスは領内で過ごしていた。その結果がミリシャーとの浮気。マーガレットを守っていてくれていた前公爵の死が、さらに重圧としてマーガレットの精神に追い打ちをかけた。


 正妻のマーガレットはいつも不安だった。夫であるフリボロスがいつ心変わりするか分からない。結婚していたとて、その不安は消えることがなかった。それなのに領政はすべてマーガレットに圧し掛かる。本当なら四公爵の一角をなす西の公爵の妻と言えば、押しも押されもせぬ優雅な立場であったのに。


 夫が出来ない仕事がすべて正妻という理由でマーガレットに押し寄せてきた。子供などはぐくむ時間などなかった。それがやっと子が出来たと思ったら妹の妊娠。あの日妹のミリシャーが妊娠を告げなければ。『二人とも妻になれ。表の仕事は今まで通り私に・・・』という夫の言葉がマーガレットの心を砕いた。


 マーガレットの緊張の糸は切れ意識を失う。その後マーガレットは部屋にこもることにした。マーガレットは自分ばかりが頑張って二人が遊んで暮らすなど納得できなかった。まして第二夫人の子が長男で正妻の子が次男など、公爵家の継承で揉めないわけがない。


「スリネス、貴方は公爵になりたいの?」

「お父様のように毎日が楽しいならなりたいです」


「きっと毎日は楽しくないと思うわ」

「でも、フィギネス兄様が僕は公爵になれないって言っていました」


「あら?どうして?」

「お父様が一番愛してるのはミリシャー様だからだそうです」


「誰が言ったの?」

「ミリシャー様とフィギネス兄様です」


 まだ幼子に言い聞かせるように刷り込ませる妹の所業に、とても耐えられなかった。賢く育てばこの子が排除される。それなら夫のように気楽に軽薄に育てばよいとマーガレットは思った。すでにマーガレットの心は壊れていた。その結果、スリネスは優しい虐待を受けて育つことになった。成長に合わせた教育を与えられず、いつまでも赤子のように世話を焼かれた。マーガレットはスリネスを失うことが怖かった。


 表立った仕事が出来ないマーガレット、表に出せないミリシャーの穴を埋めるために第三夫人として迎えられたのがクリアールだ。


 クリアールはマーガレットと同時期に王都の学院に在籍していて、マーガレットの一つ下だった。公爵家の事務官として働いているところで目を付けられ懐妊を理由に嫁がされた。

 クリアールは公爵に何も望んでいなかった。それより、知的で淑女の中の淑女と言われたマーガレットを慕っていた。これからの公爵の治世の助けになればと事務官になっただけだった。


 しかし宿ってしまった子供に罪はなく、泣く泣く公爵家に嫁いだ。第三夫人になっても仕事は変わらずどころか、重責を伴って山ほど回ってきていた。妻二人が放棄した仕事が、夫の所で処理されず山となっていたからだ。


 クリアールはフリボロスなど相手にしている暇はなかった。公爵家の実印はマーガレットからクリアールの手に渡っていた。すべての書類に目を通し、大臣たちとの折衝も妊婦のクリアールが一人で当たった。それでも停滞し淀んだ池の水が少し流れ出したに過ぎなかった。


 マーガレットが政から手を放した時から、いや、フリボロスが公爵になった時から淀み始めたのかもしれない。

 過去に戻って調べてみれば、農作物は徐々に収穫量を減らしていて、納税額も減ってきている。一年中温暖と言っても、長雨が降ったりその反対に雨が少なかったりした季節が増えていた。


 フリボロスは農地改革など頭の端にもなく、領地を富ませる産業もない。第三夫人は西の公爵領が、その日暮らしの治世だと知った。

 第三夫人クリアールは領政を預かる事務官として、この身を捧げるのはやぶさかでない。だが娘だけは幸せであって欲しいと願った。


「フィギネス兄様、今街では熱病が流行っているそうです。それでも森に狩りに行くのですか?」

「怖いのか?弱虫だなスリネス。熱病など薬さえ飲めばすぐ治る。お父様も言っていた」


「王都からの命令で東の公爵様の治療応援が来てるとクリアール母様が言っていました」


「王都が心配し過ぎなんだ。その公爵が株を上げようと手を挙げただけだ。なんの役にも立っていないと事務官が言っていた。町はずれの壊れかけの宿屋をあてがったんだって。笑えるよ」


「僕も森に行ってもいいですか?」

「お前は馬に乗れるか?」

「乗れます」

「明日早朝仲間と出かける。母様達には秘密に。獲物をとって、昼前に凱旋だ」


 西の公爵家はそれぞれが別の方向を見ている。正しい方向を見ている者がいるのかは分からない。

 

誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前公爵はマーガレットにフォローしなかったんかあ亡くなる前にしていれば壊れはしなかったかもしれんが
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