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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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94  西の公爵領の高熱病

 ロッキング公爵領地の高熱病が治療、研究により収束した。公爵は王都に高熱病発生と収束の報告を行った。王都からは40年前の高熱病の大災害の治療方法が解明されたことを高く評価された。


 東の公爵領の全体が一息ついた頃、四公爵の一つ、西の公爵フライトからの高熱病の発症の知らせが届いた。王都から西の公爵領の高熱病への治療の応援要請が東の公爵に出された。


 40年前の高熱病の発生は西からだと言われている。もちろん西の公爵フライトは認めていない。40年前の再来になってはと、王都側から緊急要請が出されたのも分からなくない。しかし、西の公爵フライトは応援要請を出していない。

 だからと言って、王都からの要請を東の公爵が拒むことなど出来ない。治療応援に行っても待遇が悪いのは目に見えてる。


「公爵、西の薬師ギルド長はきっと協力的ではないと思います」


「公爵、西の治療院と医師は上手くいっていません。腕利きの治療師は出さないでしょう」


「公爵、今医師会を牛耳っているのはアロガンスと言いますが、傲慢を絵にかいたような人柄です。今回のことに彼は嬉々として、陣頭指揮を執ります。我々東の者が行っても邪険にされるだけです」


 公爵の重鎮たちは、王都からの依頼よりも西の公爵側の対応を心配していた。こちらから応援を出しても仕事をさせてもらえないどころか、何もしなかったと王都に報告されることさえ考えられた。


「分かっている。君たちの心配は我もしている。西の公爵は物事を深く考えない。領政さえほとんど妻や重鎮に任せきりと聞いている。

 領地は豊かで、温暖な気候、王都に繋がる道は短く行き来もしやすい。それほど手を掛けなくても領民は豊かに暮らしている。


 豊かというのと違うか?家がなくても道端で寝ても凍死はしない。森に入れば野生の果物がある。空腹を満たすには十分。目先に囚われ先を見ないのが西の気質だ。それに貴族と貴族でない者の差が激しい」


 王都からの要請を拒絶できないのはここに集まった者は皆分かっている。高熱病の論文を出したアーツ医師と治療師のハイラの2名を中心に高熱病治療応援を派遣するしかない。あくまで王都からの要請に合わせるしかない。


 無理な要請はロッキング公爵の名で拒否してよいと伝えられた。執事のストロング・ラシェッドが公爵代理として随行する。西の領地での高熱病の治療に関しては、現地の指示に従うことになる。


「公爵様、出来れば薬師ライを一緒に連れていけませんでしょうか?」

「ライを?」


「あの者は私たちの堅い頭では気が付かないとこに、よく気が付きます。今回の魔力枯渇も彼女が気づいてくれました。論文に名を出すのを拒否したので載せられませんでしたが、本来は彼女の名が一番に載せられるべきでした」


「アーツさんの言う通りです。彼女の生活魔法は普通の生活魔法を超えています。患者がいつも清潔であるのも、食事や水分補給に関しても我々の目では気付かないことに気が付いて動いてくれます。それに彼女が移動するのであれば商業ギルド、薬師ギルド、冒険者ギルドが動いてくれます」



「てな話が、今公爵邸で聞かれている。ライはどうするんだ」

「行かないとは言えないよね。わたしの思い付きを拾い上げてくれた人たちだから協力はするけど・・・」


「違う土地に向かうのが心配か?」

「ここはみんなが協力的だった。ミリエッタ叔母様もいたから成果が上がった。でも西はもともと応援要請する気がないんでしょ?」


「まあな、40年前の再来が怖い王都は、早めに動いた。王都の命令に西も東も逆らえない。西は貴族至上主義的なとこだから、平民の医師や治療師、薬師は動きづらいかもな。それに最近長雨が続いたり、日照りが続いたりと気候が変わりつつある。昔ほど豊かでなくなっている。公爵は分かっていないな」


「西は精霊や妖精は少ない?」

グレイは昔を思い出すように遠くを見る。


「おお、徐々に減っている。無計画な森の開墾、何もしなくても収穫できる土地なんてあるわけない。徐々に地力が下がっている。貧しいものがそれなりに暮らしていたのは過去の話だ。


 今の西の公爵が状況を分かればいいが無理だろうな。西は休耕地を作ったり肥料の改良などしていない。東は森が隣国から自国を守る砦であると分かっているから無計画な開墾はしない」


「どうせ公爵から要請が来るだろうから、今から準備しないといけないね」

「さすが前向きなライだ。まだ時間はある。色々作り置きしよう。西ぐらいなら俺が転移できる。取りに来ることもできる」


 ライは必要になる薬品類から食料、布製品、冷却材を作り始めた。患者数はまだ少ない。東のように早めに収束して欲しい。異常繁殖したアス草で薬は作っていないだろうか。森の出入りは止めてくれているだろうか。まさかアス草を刈り取っていないよね。虫よけの薬も必要かな?コウガイ対策にはならないが虫は嫌いだ。


 アス草の毒の解毒が少しでもできれば万が一毒入り薬を飲んでも体の負担が少なくなる。元は軽微毒だから、解毒力は弱いが、万能解毒薬を利用するも良いかもしれない。


 リリーは付いていけないことが残念でならない。グレイの転移に乗ることができない。役立たずだと泣くリリーを慰めるのが大変だった。グレイが転移して物資を運ぶので、ライのいない間の家の管理と食料品の増産を依頼して納得してもらった。ライだって、リリーの空調管理は最高だったから連れて行きたいけど我慢してと説得した。


 公爵からの要請で、各ギルドは高熱病対策の支援を惜しみなく手伝ってくれた。冷却材や布製品の準備は商業ギルドが。回復薬から魔力ポーション、熱さまし、に至る薬品関係は薬師ギルドが。移動の護衛、森の変化を記録した冒険者が一緒に行ってくれることになった。

 また今回の高熱病の看護の協力者の中から希望者が加わってくれたことで、万が一西の協力がなくても治療ができる形が取れることになった。


 各ギルドはすべての荷物を魔法袋に入れ公爵邸に集めた。当然ライも魔法袋をパンパンにしている。冒険者と同じように髪をまとめる。シャツに茶色のパンツ、皮の編み込みの靴。背負い鞄には投げナイフ数本が挟んである。自衛の準備は多いに越したことはない。


「ライちゃん、無理はしないで。本当なら行かせたくないけど。止めても無駄なことは分かっているわ。この腕輪は防御の魔法陣が刻んであるから、必ず身に着けておいて。いつもグレイが側にいることはできないでしょ。魔法が使えても他の方法もあったほうが良いから身につけてね」


今生の別れではないのにミリエッタ叔母様は涙ぐんでいる。


「ライちゃん、必ず元気で戻ってきてね」

「ライねえー、ストーンをよろしくお願いします」

「ストーンさん?」


「オズが頼んだんだ。ライねえを守る人が必要だから僕の護衛の中で一番強いストーンを貸し出す」

「オズ、人は物でないから、貸し出すは良くないよ。それでも頼りになる護衛騎士は大歓迎」

忠告に少し頭を下げるもすぐにライに向かってオズは叫んだ。


「だって!だって、僕心配だから、それにストーンも凄く心配してたから。遠くで心配するより近くの方が安心だよ。ストーンには肉パンあげたらよく働くから」


「「フフフ」」

 本人のいない所での秘密の話。ライはこの街に来て多くの知り合いが出来た。自分のことを心配してくれる人がいることが嬉しかった。しばらくすると噂の護衛騎士が現れた。


「ライ様、この度の高熱病対策に参加のことお疲れ様です。ライ様の護衛を承っていますが、高熱病経験者として、手足として使ってください。護衛がただ立って護衛者を見ているのが仕事ではないと知りました。若輩者ですがよろしくお願いします」


「ええ、オズが我が儘を言ったようで申し訳ありません」


「そんなことはありません。オズ様はライ様を姉のようにお慕いしています。つらい日々から救っていただいたと伺っています。わたしももう少しで、虹の橋を渡りかけました。貴女の声掛けがなければ生きていません。ちゃんとお礼をするべきでしたがお会いする機会がなく残念に思っていました。貴女様が自由に動けるようお助けします。猫殿が現れても驚きはしません」


 グレイとミケから教育的指導を受けたようだ。堅さは取れていないが以前よりは、話しやすくなったようだ。最後に公爵の言葉があり出立となった。馬車移動5日間が始まる。


 王都までは緊急時ということで転移陣を使って移動する。王都で王様との謁見後、西に転移陣で移動する。医師のアーツさんや治療師のハイラさんは代表として執事のストロングさんと共に謁見に向かう。ライは薬師の一人としての参加だから待機組になる。グレイは謁見の見学に出かけた。


「王様は、偉そうだった。村の長老より若いせいか威厳がない」

「グレイそれは、不敬罪だからね」

「俺は妖精だから、関係ないな」 


 呑気にライとグレイは軽口を叩いていた。ライたちが向かう西に暗雲が立ち込めていた。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王宮からの命令なんだから王宮からも人を派遣するよう要求して嘘の報告されないように出来ないのかな
[一言] 貴族は西の…にお任せして、それ以外を受け持てば、ある程度の横やりや責任の押し付けはないのかな? 西の人達の気質?性格?によるのかな? 王都からも監督する人がくるといいですね。 どんな展開…
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