9 妖精猫グレイはライに憑く
一人になると、風で木々や葉の擦れる音が大きく聞こえる。この林には大きな動物はいないのかもしれない。
小さなライトを出して手元を明るくする。お婆の手紙をもう一度開こうとしたらガサっと音がした。
「わりーちょっと水貰えないか」
誰もいないのに声を掛けられた。盗賊か?鞄からナイフを取り出す。
「物騒な物出さないでよ」
ライの目の高さに猫が現れた。ニャッと笑いながら話しかけている。
「街の猫は空に浮かぶのか⁉」
お婆の所にネズミ除けの年寄りの三毛猫がいた。ミャーミャー鳴いたが喋らなかった。素早く動けなかったが浮いてはいなかった。驚きすぎてじっと見つめた。
「猫は空に浮かばない。それに俺は猫じゃないから。俺、腹空いているんだ。お前の作ったスープは美味しそうだから、俺にくれ」
遠慮することなく目の前の猫は、自前のカップと匙を取り出していた。
ライを襲うようなことが無いようなので、とりあえずスープをカップによそって手渡した。
「いくら俺でも浮きながらは食べられない。お前の膝を借りるよ。パンを入れるともっとおいしいんだろ。パンもくれ」
そう言って膝にちょこんと乗る。カップを持って匙を使って器用に食べ始めた。
「猫が匙を使うなんて、村と街ではこんなに違うのか?」
お婆がライは世間知らずだから騙されないように、気をつけろと言っていた。
「お前、馬鹿だろう。どこに匙を使う猫がいる。それに俺は猫でない。さっきから言っているだろう。お前何も知らないんだな・・・・・・」
ブツブツと文句を言いながら、お代わりのパンとスープを要求してきた。猫はお腹いっぱいになったのか膨らんだお腹をさすりながら、そのままウトウトと膝の上で寝始めてしまった。
ライはどうしてよいのか分からず、そのまま動けなくなった。綺麗な灰色の背の毛に対してお腹と四肢の足先は真っ白な毛におおわれている。お婆の手紙を読み返すことが出来ない。仕方なく猫を落とさないようにそっと抱きかかえた。
「おい、その猫どうした?」
どれくらい時間経ったのか分からない。ボブさんの声に驚いた。うとうとしてた。
「ミャー」
何故か猫は、猫の声で返事をした。もちろんライの腕の中で。
「お前人の言葉がわかるのか?利口な猫だな」
そう言いながらボブさんは、猫の頭を撫でた。
「猫じゃねえよ。妖精だ。ライの魔力が入った飯は美味しそうだから寄らせてもらった」
ボブさんは、驚いてはいるけど落ち着いた声でこの不思議な猫と話をしている。
「妖精猫っているんだ。初めて見た。お伽噺の世界の話だからな・・・」
ボブさんは思案気にもう一度猫の頭を撫でた。
「俺は、旅が好きだからあちこちふらふらしていたんだ。今も旅の途中。今までも、気に入った人を見つけると、一緒に過ごしたこともあった。人の寿命は短いからな、別れは淋しいけど色々な所に行けたな・・・」
「ほー・・・今回はどうしたのですか」
「北の精霊の森に久しぶりに帰ろうかと思ったら、甘い美味しそうな魔力があったから声かけた。夕飯、美味しかった。魔力の入った食べ物がこんなに美味しいなんて。500年生きてきて、初めて知った。
まだまだ知らないことがあるんだな」
口髭を擦りながらボブと会話をしている。
「お前ちょっと変わってるし世間知らずだろう。普通魔物かと思って警戒するのに、夕飯くれるし膝の上で寝かせてくれる。変わり者だな」
随分失礼なことを言っている。一応ナイフを取り出したのに。文句を言いたい。
「ああ、ライは身売りされる前に家出してきたんだ。
外に出たことないから知らないことばかりで心配なやつなんだ。街に行ったら、孤児院に預ける予定なんだ」
ボブさんまで猫と意見があっている。
「そうか・・・おいライ。俺に美味しいものを食べさせてくれたら、おまえの面倒見てやる」
「えっ、猫に面倒見てもらう子供っておかしくない?」
「おまえ、俺は猫じゃない。妖精!魔法も使えるし空も飛べるし消えることもできる。お前よりずっと長生きしてる。
お前より世間のことを知っているぞ。なんせ俺500歳だからな、仲良く旅をしようぜ」
「僕は旅はしないよ。街で独り立ちできるように頑張るだけだ」
「まぁそれでもいいよ。俺に名前をつけろ」
ボブさんに助けを求めるも、面倒見てもらえと言い出した。
「ポチ ミャー ミケ グレイ シロ・・・・・・」
「名付けのセンスないよなグレイでいい」
ライの腕から飛び立ちライの目の前に立つ。杖を出し唱えた。
「 我は妖精猫グレイ ライシーヌを主として人生の旅を
命別つまでともに生きることを誓う 」
グレイとライはともに淡い光に包まれた。偉そうに胸を張るグレイ。驚いているうちライの腕に飛び込む。
「ライ眠いよ」
グレイは目をこすり始めた。
「いいもん見させてもらった。ライ、妖精に憑かれることはとても幸運なことだ。ありがたくグレイのお世話になりな。
グレイは眠そうだ。俺が起きてるからグレイと一緒に荷馬車で寝ておいで」
ライは、のそのそとグレイを抱いて荷馬車に入った。
なれない馬車移動に夜営に気を張っていて疲れも出てきたし、抱いたグレイは温かい。ライは、荷馬車の中でグレイを抱きしめて横になるとすぐに眠りについた。
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