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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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89 ライとグレイの報告会

 久しぶりの我が家に戻りました。今日はお風呂に入って、ゆったりするぞと思っています。グレイもあちこち転移して、物を運んだり連絡係を務め、流石に疲れたと思う。


「グレイ、リリー、お疲れ様。グレイは荷物運びに頻回の転移、リリーは、空気の入れ換えやお菓子や料理を沢山作ってくれて、ありがとう。とても助かったし。二人ともゆっくり休んで」


「ライも疲れただろう。随分気を張っていたからな。それに魔法使っていただろう」


「急ごしらえの集中治療部屋だから仕方ないよ。気づかれないよう注意したから。わたしは大丈夫。それよりグレイは転移が頻回だったから魔力切れ起こさなかった?渡しておいたポーション使った?」


「俺を甘く見るな。あんなの森奥に行った時に比べれば、たいしたことはない。それより死人が出なくて良かった」


「本当に良かった。グレイのお陰よ。グレイが『 どんな薬も使い方を誤れば毒になる 』と言ってくれた言葉に凄く助けられた。それに師匠の日誌と残してくれた本。それにアス草の鑑定、まさか『アス草・・解熱効果のある薬草・・迷いの森産・・軽微毒あり』と、表示された時は凄く驚いた」


「あれは俺も驚いた。ライの鑑定は祝福で得られたスキルじゃないから、そこまで育つわけがない」


「そうなのよね。女神様かしら、、、」

思案顔のグレイ。ライはきっと女神様が助けてくれたような気がする。


「各ギルドの連携に医師や治療師の共闘。多くの助けがないと今回の結果は出なかったと思う。もちろんグレイやリリーのおかげもあるわ」


 リリーが淑女の礼をしている。高熱の部屋の中は蒸し暑く疲労も増す。リリーのお陰で皆が過ごしやすかった。


「ライ、夫人にもお礼をしたほうが良い」


 ミリエッタ叔母様はグレイから得た情報から、ライのために調理助手や部屋の掃除、洗濯などの裏方を一手に引き受け、人を募りこの数か月を支えてくれていた。ライの目は高熱病の患者に向いていた。そこまで思いつかなかない。オズのことや工房の仕事もあっただろうに、大変な思いをしたと思う。感謝しなければならない。


「ところで公爵は二人の妻に逃げられた」

「えっ、逃げられた?」


「一人は公爵の子供でなかったから離婚。オズの母親はオズを廃摘にしろ。病死にしろなど言ったから離婚」


「オズを病死って?オズの母親だよね?」

「人は子を産んだとしても母親にはなれないらしい」


「ふーん。そんなもんなんだ。オズは可愛いよ。それに賢いし優しい。何が不満なんだろう?」


 グレイは答えなかった。ライには親はいない。それでも困ることはなかったと思う。ライは親がいても良いことばかりでないと知っている。

 親に死を願われる。きっととてもつらい事だろう。オズは知っているのか心配になった。公爵様は父親だからそんなことは言わないだろう。やっと、声の出る楽しさを知ったばかり、のびのび育って欲しい。


「お腹に子供がいたよね?」


「おお、女の子が生まれた。オズそっくりだ。母親が女の子などいらないと叫んだらしい。公爵が赤子だけ引き取った」


 怒涛の展開だ。オズに似ているなら可愛いだろうに。母親にいらないと言われるなら大切にしてくれる父親のもと、乳母に育てられた方が安泰。


「公爵様は家のごたごたに、高熱病対策に大変だったね」


「オズのとこに来ては、夫人に愚痴っていたよ。最後には夫人に活入れられていた。まあ、公爵は弱音を吐くところないからな。まあ甘えだな」


 あの立派な体格の圧の強い人が弱音を吐くなど考えられない。まして、優しいミリエッタ叔母様が公爵様に活を入れるなどあり得るのか不思議に思う。


「夫人も公爵を色々手助けしていた。今までの妻たちが公爵夫人の仕事していないから結構抜けていたようだ」


 人が立場を作るのか、立場が人を作るのか。公爵様の妻たちはきっと偉い貴族の子女だったろうに、どうしてそんななんだ。治療師や医師、ギルドの関係者は、皆自分のできることを必死で考え行動しているのに。


「考える力と行動を起こす勇気、、」

「それも正しくだな」


 立場が違えば正しさも違う。身分が違えば親子の間も違う。ライは考えることを放棄した。


「ミケ、転移できるようになったね」


「話が飛ぶな。まあ、答えは出ないから仕方ないか。ミケは、随分頑張ってた。ストーンがいないだろ。オズの護衛もしているんだ。狭いけど結界が使えるようになった。『一念岩をも通す』だ」


「なに?その言葉?」


「一心に集中してやれば、いかなることも不可能ということはないという意味らしい。昔の仲間が言っていた」


「無理でしょう。どんなに願ってもできないことはある」


 グレイに呆れられた。ライだって、高熱病に対してそうではなかったかと言われた。その心意気が大切だと諭された。グレイはいつまでもライの先輩。


「そうだ、古竜が森が落ち着いたと言っていた。ただ異常繁殖のアス草の枯れた周りに虫の死骸が凄かったらしい。でもすぐに森の掃除屋が片付けて、きれいさっぱり虫の死骸はなくなった」


「アス草の毒にやられたのかな?」

「そうだろうな」


 ライは薬師のお婆の日誌を思い出した。大量の虫が多くの農作物を食べつくす。民の食糧を失わし大飢餓を起こす『コウガイ』という大災害の話があった。もしかしたら、アス草の毒は『コウガイ』を防ぐために生えたのかもしれない。


 森から多量の虫が農地や街に下りて行かないように。森の植物を食べつくさないように、異常繁殖したアス草は、『森の守り』の一つかもしれない。


 どんなものも意味がないものはない。薬師のお婆が雑草さえ育たなければ森にならないと言っていた。雑草にも調べれば名前があり、それぞれが何かの糧になっている。人もそれぞれが、同じ人ではない。違うからこそいろいろな考えが生まれる。自分の足で、移動できるだけ植物より自由かもしれない。グレイには負けてしまうけど。


「ところでライ、ライが不在の間アレフが頻回に来ていたぞ」

「何かしら?仕事はできないと伝えてあったはずだけど」


「花を持ってきていたぞ」

「花?ここに飾ってあるの?」


グレイはにやにやしながら笑っている。


「なんで花を?それなら替えのシーツやタオル、食料を差し入れしてくれればいいのに。この花は病室には臭いがきついから置けない。時と場合を考えて欲しい。グレイが花を届けに来なくて良かった」


「ライはそうとるか、、」


 他の意味なんてあるのか。必死で高熱病と戦っているときに。あっ、モズ商会に伝えてなかった?でもモズ商会は大きいから知らないわけないと思う。情報は大切。彼もまだまだね。


「今度花持ってきたら私がきっぱり断るから。みんなが育てた花に勝るものはない」


 鮮やかな赤い花より、飾棚の小花の方が可愛い。飾り棚はライがいない間に花が増え、木々が増え森が出来ていた。そして本の主人公でなくライとグレイが登場していた。癒されの空間になっている。


「そうそうこんなもの留守の間に届いた」

「釣書、なに?」


「釣書とは、婚約したいが私はこういう者だという説明書き、かな?」

「誰が婚約?」


「ライだよ。ライは今回大活躍だ。知っている人は知っている。それに商業ギルドの登録商品の収益。うるさい親族がいない。まあ若いし可愛い。良い物件だな」

「私は家ですか?」


 困ったことに各ギルド経由からの問い合わせもきている。結婚などする気もないし結婚自体が分からない。今はこの家の仲間を守るので精一杯。薬師の仕事もまだまだだ。この家を捨てて他所へはいけない。


「古竜が家の周りに結界張っている。出かける時は、俺とジルが付添う。それでも問題が起きれば馬車移動だな」

「貴族でないのに。と言って引き籠るのも疲れる」


「そこで、今回の働きの褒章、、」

「わたし、断った」


「断ったけど、それで良しにはならない。公爵にライの後見人になってもらった」

グレイはちょっと自慢気に話し出した。


「後見人て何?」

「法的な支援、経済的支援。まあ今回は子供のライが貴族や強者に無理強いされないよう守ってくれるということ」


「こんな沢山の釣書を断ってくれるの?」

「まあそうだな。公爵が断るというより、夫人だな」


 ミリエッタ叔母様にそこまでしてもらうのは申し訳ないが、釣書などライには対応できない。美味しい新作のお菓子とレシピをもっていこう。新しい糸も考えていかないと。


 オズはもう公爵邸に帰っただろうか。ストーンさんは元気に護衛しているだろうか。肉入りパンも作っていこう。ライの日常が戻る。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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