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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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88 熱病と魔力枯渇

 医師のアーツさんの指示のもと、治療はどんどん進められていく。熱が下がらなくとも熱さましの薬は、毒なしの鑑定を受けた物を3日おきの計2回から3回飲ませる。


 家族の中には、こんなに苦しがっているのにと、隠れて薬を飲まそうとするものがいた。『殺したいのか』とアーツさんに怒鳴られた。普段穏やかなアーツさんが怒るとすごい効果が生まれる。


 付き添いの厳つい冒険者さえ震えあがった。その後は、文句も言わず他の介護者の手を借り介護に精を出した。誰もが大切な人を失いたくないと思っている。


 患者は毒の薬を服用していないためか、高熱でも意識が混濁して不穏になる人はいない。声掛けすると目を開ける。手助けして体を起こし、回復ポーション入りの冷水が入ったコップを口元に持っていく。喉が渇いているので、好んで飲んでくれる。


 中には塩入りのコメスープを飲んでいる者もいる。飲みやすく消化が良く、食事をした気がするという。水分の多い果物もよく食べている。


 受け入れた患者は最初に8人。ライは毎日、朝と夜、隠れて患者にクリーンをかけていた。多量の汗を頻回にかいている患者は、拭きとるだけでは汗臭さは取れない。


 リリーは空気の換気と室温調節。治療師のハイラさんは意識が浮上した人に治療魔法をかけ、頭痛や息苦しさの改善に努めた。


 商業ギルドからは冷却材が大量に届く。体温が高いため、冷却材は熱を吸収して溶けてしまう。入れ替えに忙しい。しかし冷たい水で体を冷やすには氷が足りない。冷却材はとても便利だった。


 屋敷の2階の個室は仮眠室や休憩室、会議室とした。感染経路が不明なので、治療側も身を守るため、自身の体を清潔に保つように心がけた。患者に触ったあとは手を洗う。2階の部屋で休む前に必ず、風呂でかけ湯、体と髪を洗い、新しい服に着替える。


 さすがに風呂に入る余裕はない。入浴剤入りのお湯のかけ浴だけでも気持ちが良い。最初はめんどくさいと言っていた者も、率先してお湯を浴びるようになった。疲れを取ることにもつながり、睡眠もとりやすいようだ。


 ストーンさんは、体を鍛えているだけあって、高熱に耐え、水を飲みスープを飲む。ことのほか塩入りのコメスープを美味しいと喜んで飲んでいた。飲んで食べてそのまま眠り込むを繰り返した。発熱4日目に熱さましの薬の2回目を服用する。熱を出して5日後に少しずつ熱が下がってきた。


 熱が下がってきたのにストーンさんは、意識が少しずつ低下してきた。あれほど飲んでいた水やスープを飲まなくなった。ライは、ストーンさんが遥か高みに上っていきそうで思わずストーンさんの手を握った。


「ストーンさん、オズが待っています。向こうに行ってはダメ」


 握った手からライのわずかな回復魔法が流れた。一瞬ストーンさんが目を開きライを見た。今魔力が流れた。『魔力切れは意識を失う。死することもある。気をつけなさい』薬師のお婆の忠告が頭をよぎる。


「ハイラさん、魔力量を測る水晶玉を借りれませんか」

「簡易版の水晶がある。我ら治療師の身を守るためのものだ」


「今、回復魔法を掛けたらストーンさんが目を開けました。もしかしたら体内魔力が減っているかもしれません。この方は魔力量があるけど体外に出せないので減ることはないと思うのですが、、」


「魔力切れ、、熱だけでなく他にも症状があるのか。すぐに測定しよう」


 アーツさんが走ってきた。測定結果は『魔力低下』の赤文字になっていた。そこでもう一度ストーンさんに魔力を流し意識が浮上した瞬間に、魔力ポーションを一口飲ませた。彼はゆっくり目を開けた。


「スープが飲みたい」と呟いた。

「ストーンさん、スープでも肉パンでもなんでも作りますから元気になってください。もう一口ポーションを飲みましょう」


「ライさん、急激な魔力の増加は体に負担がかかる。測定しながらゆっくり上げていきましょう」


「アーツ、熱が下がり始めてから意識が下がった者は魔力量を測る」

「ハイラ、属性魔法が使える冒険者が2名いる。意識が下がっている」


 それからは魔力測定を追加して魔力ポーションの服用を開始した。もともと魔力量の多い人は急激な魔力枯渇を起こして意識が低下するのが顕著だった。魔力の低い人は完全に熱が下がるまでに魔力ポーション1本を数回に分けて飲むだけで、10日後にはすっかり回復した。


 魔力の低い平民なら魔力ポーションを飲まなくても、安静にしていれば時間はかかるが自力で回復しそうだ。治療室の寝台の都合で早めに回復を促すために、今は魔力ポーションの服用を進めている。


最初の人たちが回復して、それぞれ自宅に戻る。それからも、ぽつぽつと熱病にかかる者が現れるも、アーツさんたちがまとめた治療計画に沿って対応することで死者は一人も出なかった。


 ストーンさんは発病後10日で回復。ミリエッタ叔母様とオズの迎えで馬車に乗り帰っていった。ライはその後も治療に参加し最後の患者が帰るのを確認した。患者が途切れ、高熱病が収束したことを確認して、屋敷の片づけに入った。約3か月ぶりにリリーやグレイと自宅に帰ることができた。


 翌日の朝には、レビントレノさんに呼び出され薬師ギルドに向かう。そこには医師のアーツさんと治療師のハイラさんが待ち構えていた。


「今回の高熱病の治療を論文発表する。ぜひライさんも参加して欲しい」

「貴女が気が付かなかったらここまで来なかったと思う」


「貴女は治療においても、魔力枯渇に気が付いた。患者の集中管理と治療側の協力体制。我々が別々に携わっていたら今回の結果は得られなかった」


 ライは深呼吸した。ライの知識はライ個人が持っているものでない。きっと前の人生かその前の人生の魂に刻まれた記憶。決してライ自身の力でない。


「申し入れ、ありがとうございます。しかし私の知識は、旅をした私の師匠の物です。遺産として譲られた多くの書物の中にバラバラに書かれたものが、今回は役に立っただけです。


 治療の専門家のアーツさんと治療師の知識を持ったハイラさんがいての結果です。必要なお手伝いはしますが共同発表者は辞退します。その代わり協力者として師匠、薬師アリーシアの名前を入れてください。


 薬師アリーシアは、辺境の村を守る薬師でした。森で拾われた私にさえ薬師の教えを施してくれました。もし街で仕事をしていたら、どれだけ素晴らしい仕事をなしたか分かりません」


「師匠名は、載せてもらうつもりです。ライさんにもお願いしたい。貴女はまだ若い。この論文に名を連ねることの重大さを分かっていない」


「本当の意味で分かっていないかもしれません。でも自分の力以上の名は欲しくありません。身動きできなくなるのが怖いです。まだまだ駆け出しの薬師です。自由に色々考えて動きたいです」


 ライは二人の目を見て、自分の意思を告げた。異常繁殖したアス草と熱病についての論文が出されたのは高熱病が収束後の3か月後だった。


アーツさんとハイラさんの共同論文の概要

アス草が異常繁殖した時期に起こる高熱病の対策について 


 アス草の異常繁殖時、高熱の熱病を発症する。高熱は、内服、治療魔法だけでは回復しない。異常繁殖したアス草から軽微毒が確認された。異常繁殖したアス草で作られた薬は、毒の高濃度化を生む。内服すると毒による意識障害を起こし、飲食が困難になる。高熱で過剰服用すると意識を完全に消失する。さらに体内魔力の低下が追加される。そのすべてが重なって、死に至る。


 治療は毒の入ってない薬の適切な服用。高熱は続くが安静にし、身体を清潔に保ち冷却材等で体を冷やす。意識低下に気を付け、回復ポーション入りの水分を十分にとらせる。消化の良いコメのスープに塩を少し混ぜ与える。5日過ぎごろから魔力量を測定し低下がみられる者には魔力ポーションを少しずつ投与する。約10日で回復。 


 40年前の高熱病時、多くの患者が毒入りの薬を頻回に服用することで意識混濁、意識障害をおこした。高熱にもかかわらず水分補給が出来ずさらに悪化。高魔力もちは魔力枯渇も併発して死に至る。感染経路がはっきりしていない。


 異常繁殖した森に出入りしたり、高熱の患者が治療を求めて移動、治療側の対応に不備、感染拡大の一要因と思われる。  

追記 安易な薬の乱用は、薬といえども毒になる。 


薬師ギルドからの報告

 異常繫殖したアス草を詳細鑑定にて軽微毒の発見。それで作られた薬より毒の濃縮が見られた。直ちに毒のあるアス草とそれで作られた薬の回収と焼却処分。薬師、錬金薬師に注意喚起。治療に必要な回復ポーション、魔力ポーションを増産。従来のアス草による熱さまし薬の増産。

追記 薬師3名錬金薬師2名の死亡確認 ( 集中治療に参加せず自宅治療中死亡 )


商業ギルドからの報告

 高熱病発症者の集中治療のための施設の提供。患者の移送、物品(薬品以外の食料品・衛生材料等)の準備と搬入。治療介助者の募集。治療に不可欠な冷却材の増産。


冒険者ギルドからの報告

 高発熱患者の発病前後の行動調査と森の管理。各ギルドとの協力。

第一発病者はアス草の採取に入り異常増殖したアス草を持ち帰る。アス草は従来物より大きく色も濃い。本来なら良品となって、薬師に渡り薬となる。その後数回森に入り高熱を出して宿で寝込む。高熱を出して6日ほどで死亡する。他の発症者も森に入った者か森にはいった者の手当てをした者が発病している。


 異常繁殖のアス草は2か月ほどで枯れはじめ3ヶ月後には自然に消滅する。原因は不明。本来のアス草は枯れず残る。


ロッキング公爵は、王都に報告

ロッキング地方で発症した高熱病の報告 


高熱発症者約30名 死者7名 生還者23名 現在高熱病終息


原因  不明  

近接する森で軽微毒を持つアス草の異常繁殖。森に立ちいった者が第一発病者


治療  医師と治療師の集中治療と管理 

薬剤の適応服用厳守。高熱に対して、清潔を保つ。水分補給と冷却材の利用。高熱は5日ほど続く。魔力低下がみられる者はその対応をする。


総括 高熱病の原因は不明なるも近接する森で軽微毒を持つアス草の異常繁殖がきっかけとなる。アス草の異常繁殖時は森の出入りを一時的に禁止する。2・3か月で毒を持つアス草は自然消滅。


発病時は医師と治療師で、患者の集中管理と治療を行う。身体の清潔を保つことと水分補給。冷却シートの使用。魔力低下が見られたら魔力ポーションの投与。約10日で回復する。  別紙参照

誤字脱字報告ありがとうございます.

来週お休み貰いますので、連日投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死者は開始前の2名と変にプライドで受けなかった5名のみかあ本来の被害考えたら快挙よなあ
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