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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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87 アス草と熱病 3

 元薬師ギルド長レビントレノさんとライは、公爵様にアス草の毒と熱病対策について報告。その時、オズの護衛騎士の発病を知る。ライが治療をすることになった。帰りがけ馬車の中でライはレビントレノさんに相談を持ち掛けた。


「高熱病の患者をひと所に集めることはできませんか?」

「それはどうして?」


「今回の治療法は、推測の段階です。正しいとは言い切れません。患者さんが散らばっていると、変化を見つけることも、それを伝えることも難しいです。今ならまだ患者が少ないので、集めやすいし、治療の経過もわかり易い。それに発症の経過を調査するのも、楽ではないでしょうか?


 ただそれだけの建物が必要になるし人手も欲しい。それに感染するかもしれないので、人ごみにバラバラに置かないほうが良いと思うのです」


「ふむ。そうだな集めたほうが効率がいい。医者と治療師は俺の方で手配する。アルケラには場所を探させる。あとはそれぞれのギルドから調査要員を派遣しよう。治療院の入院施設みたいなもんか?」


「行ったことがないのでわかりませんが、そんなものだと思います。寝台は干し草を布で包んだ物がいいです」


「どうしてだ?自宅から持参してもらった方が良いのでは?」


「長くても入院は10日です。最後に使った干し草は燃やしてしまいます。寝具以外の食器や身の回りの物は、持ち込んでもらった方が良いです。あと患者の家族などが、手伝ってくれると助かります」


「そういうことか。納得した。干し草はいくらでもある。シーツや布、タオルは準備する。細々したものがいるだろう。連絡係をつけよう」


 ライの家に着いた時、レビントレノさんに毒の入っていないアス草を大量に手渡した。驚いた顔をしたが何も言わず受け取ってくれた。


「ライ、大変なことになったな。大丈夫か?」


「仕方ないよ。ここまで来たら出来る事をやる。レビントレノさんが全責任を負うとまで言ってくれたもの。言い出した私が手を引けない。グレイ、お願いがある」


「なんでも言え」


 それから細かい打ち合わせをしているうちに、商業ギルドから連絡が来た。取り壊し予定の屋敷を無償で貸し出してくれることになった。貴族か豪商の愛人が住んでいた屋敷!


「リリー、あのお屋敷にリリー行けるかな?」 


「大丈夫。リリーが居なくなって管理されていないからぼろいかも。でもリリーが行けば少しは持ち直す」


「リリーあまりきれいになると貸してくれないかもしれないから、外回りはそのまま。部屋の中もそれなりでいい。ただ水回りとお風呂をきれいにして欲しい。あそこでスープ作ったりお風呂にはいってもらうから」


「グレイ、リリーを連れて転移して、必要なものはグレイが運ぶ?」

「俺か・・・」


「だって転移できるのはグレイだけだから」

グレイとリリーはすぐに転移した。


「ライ・・・やっとここにこれた」

くたくたに疲れたミケが、辛うじてソファーに横たわって現れた。


「ミケ、オズに何かあった?」

「オズが泣いてる。俺どうして良いか分からなくて・・・」


「ミケ、よく聞いて、これから馬車でストーンさんを迎えに行くから、身の回りの物を準備して。ストーンさんは薬を飲んだ?」


「いつも薬を携帯してる。昨日飲んで寝た。熱下がらない。人を寄せ付けない。オズにも会わない」


「ミケ、ここはミケがしっかりしないと。ミリエッタ叔母様に手紙を書くからそれをもって屋敷に戻って」


 ライは患者を集めて治療をすること、シーツやタオルが欲しいと書いてミケに持たせる。くたくたのミケにライは自分の魔力を流しいれる。活力の戻ったミケにミケの好きな柔らかクッキーを食べさせ、残りを持たせる。


「ミケは出来る猫なの。わたしを見て、集中してオズの顔を浮かべて、すぐ会いたいって思いを込めて転移してみて」


 ミケの手をもう一度軽く握り優しく魔力を流す。ミケはピクリとしたのち目を閉じる。ミケはソファーから消えた。転移できたみたい。これで連絡要員が二人になる。無印の公爵邸の大きな馬車がライの家の前に泊まる。


「公爵様より患者の移送の手伝いに来ました」


ライは以前着ていた冒険者の服に着替え、髪は一つにまとめる。必要なものは魔法カバンに詰め馬車に乗った。ミリエッタ叔母様の屋敷に着くと顔色を変えた叔母様が待ち構えていた。


「ライ、準備できているわ」


「ありがとうございます。公爵様のお声がかりの対応です。心配でしょうが護衛騎士をお預かりします」


「護衛騎士でなくストーンよ。頑固なストーン。必要なものがあったら連絡頂戴。ミケが動けるわ」


 叔母様の横でミケが座っていた。庭師の手を借りて、ストーンが玄関にやってくる。そのまま二人とも馬車に乗り込む。


「ライ、ストーンをお願い。僕のせいで・・・」


「オズ、この病は誰かのせいじゃない。オズは毎日女神さまに祈って。これはオズしかできない。お願いね」


 女神の愛し子のオズの願いなら聞いてくれるかもしれない。今は神にも藁にもすがりたい。静かに馬車は動き出した。高熱で息が荒いが意識はある。毒入りの薬は飲んでいないようだ。


 しばらくして木々に囲まれた屋敷の玄関が見えた。そこには荷馬車が何台も止まっている。多くの人が荷物を運びこんでいた。


「ライさん、藁の寝台を大広間に20台作っておいた。この屋敷は、思いのほか中はきれいですぐ使える。水をたくさん使うだろうから水の魔石と火の魔石を準備しておいた。


 あとうちの屋敷の料理人見習いを厨房係に使ってくれ。台所用品はここの物があるから。あっ、悪い患者を運んでくれ」


 アルケラさん、さすがに行動が早い。レビントレノさんと連絡を密にしているようだ。ストーンさんを運んで寝台に寝かせる。男手があるうちに寝台の位置を変える。中央にテーブルとイス。八方に寝台を配置。寝台どうしは十分に間を置き人が通れるように。あと2階に衝立があったから全部下ろしてもらいホール横の控室に集まったタオルやシーツなどと一緒に収める。


 ライはストーンさんに集中することにした。まずは紙に経過をメモして行く。声を掛ければ意識が浮上するので、体を起こしてもらい数滴の回復薬を入れた冷たい水を口元に持っていく。


「ストーンさん、目を開けて、オズが心配しています。まずは水を飲みましょう」


 頷く彼に少しずつ水を含ませる。むせることなく飲み干してくれた。冷たい水で体を拭く。太い血管に沿って冷却材を挟んでいく。昨日解熱剤を飲んでいるから今は薬を飲ませず二日後にもう一度飲ませる。その間安静にさせ水分を十分にとらせる。食べられたらスープなどを勧める。


 ああ・・風が気持ちいい。リリーが高窓を開けて籠った空気を押し出してくれていた。リリーにライは手を振る。心のなかで感謝を伝えた。グレイが伝えたのか、リリーは優しい風を部屋全体に届けた。


「天窓が開いているから、いい風が通る」

「空気の入れ替えは大切だから、助かるな」

力仕事で汗をかいた人たちが一息入れていた。


「私は料理人見習いです。何を準備したらよいですか?」

アルケラさんの料理人見習いは、病人の食事といういつもと違う仕事に緊張している。


「お世話になります。このお米を水だけでよく洗って、1対水10で鍋に入れて中火にかけ、沸く直前に白く煮立ったら弱火にしてゆっくりお米の粒がなくなるくらいにお願いします。塩はありますか?」


「塩も砂糖もあります。コメは扱ったことがあります。任せてください」

「あと手軽につまめるサンドウィッチやおにぎり、スープなどをここで働く人用にお願いします。台所に野菜やパンを届けてありますから。自由に使ってください。足りなくなったら声を掛けてください」


 彼は台所に駆け戻っていった。『届けておいた。食べ物は俺の手持ちがある。ライの分は分けてやる』グレイの声。頼りになると褒めようかと思ったが目の前に人がいた。


 ミリエッタ叔母様の所の庭師はそのままここに残ってくれた。男性のトイレの付き添いは、ライでは力不足と思われた。多少の身体強化ができるがトイレの付き添いは、お互い恥ずかしいから大助かり。


 それから一人また一人と高熱病の患者が運び込まれた。家族や仲間の付き添いがあったため、そのままギルドの聞き取り調査も入った。介護に残ってくれる人は、そのままライたちの手伝いに入った。患者一人一人の発病後の様子をライは聞き取り記録する。手が足りない。


「ライ、医者のアーツ、治療師のハイラ連れてきた。」


「ライさん話は聞いた。ぜひ高熱病の治療の手伝いをさせてくれ。わたしは王都で40年前に母を亡くし、あの時のことが悔やまれる。助手もつれてきた。患者記録は口頭で言ってくれれば、すべて彼女が記録する」


 アーツさんは、白髪のおっとりとしたおじさまだった。優しそうだ。アーツさんの横には見たまま事務官と言った女性が、紙束をもって控えていた。彼女は力強く頷き、すぐにライの記録を読み取り、診療録の形にしていた。凄く優秀。診療録はとても見やすい。


「治療師のハイラです。高熱病に治癒魔法は効かないが、それに付随する症状には効果があると言われています。何かお役に立てるのではないでしょうか」

背が高くやや神経質そうな男性だった。


「ここでは私が一番の新参者です。たまたま師匠の日誌で情報を得たにすぎません。わたしこそ指導をお願いします」 


 ライは深くお辞儀をした。高熱病の集中治療病室の準備が整う。医師や治療師の協力で手探りの治療が始まった。

誤字脱字報告ありがとうございます

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