表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
85/176

85 アス草と熱病 1

 ライは、商業ギルドで、元薬師ギルド長のレビントレノ・クローズさんと出会った。40年前の高熱病に詳しい人だった。商業ギルド長のアルケラ・ストラードさんは当時ギルド長だった父親を高熱病でなくしていた。


 「父親は文武両道の健康自慢。病で亡くなるなど考えられなかった。当時、前触れもなく高熱病を発症しました。仕事に追われていた父は、熱さましをすぐに服用した。熱は下がらず、翌日にはさらに上がり意識が朦朧となった。父はそれでも薬を飲み治療魔法にも頼った。発病して7日で亡くなり家族は茫然自失でした」


 内服治療後も高熱が続き意識が朦朧とした。治療魔法を受けても良くならない。7日で死亡。高熱病は短期間に多くの人が亡くなり、数か月で鎮静化した。普通の熱病と何か違いがあるはずだ。


『 どんな薬も使い方を誤れば毒になる 』


 レビントレノさんはアルケラさんとライの会話を黙って聞いていた。他にも資料を集めてくるということで、5日後またここで話し合うことになった。

 ライは家に帰り、もう一度薬師のお婆の日誌を読み返した。熱病の村から3か月後の記録があった。


 『さらに奥地の村に行きつくと、そこも熱病が流行っていた。熱さましの薬を配ろうとすると


「熱病は下火になっていますから貴重な薬はいらない。この村は辺鄙ながらも自力で薬草を煎じることができます。何代も前から受け継がれた方法がある。辺境には辺境のやり方がある」


 村は森と共存している。森に近いのに各種の薬草が家々にこじんまりと植えてあった。師匠はこんな村に住みたいと言い出した。あまりに辺鄙で食料も十分でないから、これ以上村人の数は増やせないと断られていた。わたしはここまでの辺鄙な村に住むのは避けたい。


 村人は狩りや農耕で暮らしている。決して豊かでないが、貧困であえいでる様子もない。村人が煎じた薬草は庭で取れたアス草だった。普段使うものと変わりない。村人は熱病が流行ったらアス草を煎じて、白湯を飲んで熱を下がるのを待つだけだといった。何処に違いがあるのか分からず師匠と頭をひねりながら次の村に向かった。』


 アス草の薬でなく、アス草の煎じ薬、薬よか効果は劣る。庶民は、森で取れたアス草を採って煎じたはず。それでも亡くなった人は多い。一つ目の村と二つ目の村の違いは何か?


5日後、商業ギルドの会議室で二人と落ち合う。


「冒険者が一人、高熱で死んだ。治療魔法を受け帰宅して数日後のことだ」

「どうして・・・」


「二人の話を聞いて治療院に高熱の患者が来たら、知らせて欲しいと頼んだ。冒険者が何処へ出かけ、いつ発病したかは分からない。宿暮らしの一人者だ。それにこれが例の高熱病かもわからない」


 ライは恐れが背を伝うのを感じた。胸はドキドキ、思考が纏まらない。からんだ糸が解けない。頭がぐるぐるする。


「二人とも落ちつけ。わたしの方でも薬師ギルドから薬の売れ行きと発熱者の情報をすぐに集める。もしこれが高熱病なら始まりに過ぎない」


 ライは、レビントレノさんとアルケラさんに、日誌の二つ目の村の記述を開いて見せた。二人は内容を咀嚼するようにじっくりと読み込んでいった。


「同じ熱病にかかったのに、この辺鄙の村の人たちは、死者を出さず回復に向かった。違いは薬でなくアス草を煎じて飲んだことか?」


「煎じ薬なら私の所の使用人も飲んでいたが死んでいる。生きていたのは手持ちの古い薬を飲んだものだけだ」

沈黙が流れた。


「今はアス草が豊作です。薬は多量に作られています。古い薬とは?」


「使用人は手持ちの薬を飲んだ。新しい薬に入れ替える前だったらしい」


「錬金薬にしても普通の薬師の薬にしても、今回の豊作で2年分は出来ている。なんせアス草の値段が値崩れしているから。アス草が安いうちに薬にしておけば管理次第で3年くらいはもつ。薬師ギルドでは古い薬と言っても、効能が落ちているわけではない。


 新しいものが多量にできれば、売るにしても、在庫にするにしても、新しいものを当てる。入れ替えた薬はまだ十分使えるので、教会に卸している。寄進だな。街の薬師はどうしているか分からないが、元からそんなに在庫は置いていないと思う」


「商業ギルドはもともと委託購入だから、いつも新しい物を仕入れている。多くの在庫は置いていない。錬金薬も一緒だ」


「今、豊作のアス草は青々として色も濃く葉も大きいですよね。その前の普通にとれるアス草は・・・同じアス草ですか?」


「えっ、…同じではないのか?女神の恵みと騒いでいるが・・・」


「高熱病と関係あるなら女神の恵みではないでしょう。ライさん、薬草と薬の新旧を調べてみましょう。薬師ギルドに来ていただけますか?」


「薬師ギルドには入っていません」

「えっ、貴女は薬師ですよね」

「商業ギルドで認可してもらい、こちらで契約しています。冒険者もしていますので自分で薬草が取れます。まだ未熟なので強制依頼など受けられません」

「師匠は?」


「先ほど見せた日誌の師匠に手ほどきを受けましたが、事情があり半年ほどで基礎が出来たと証明書を貰い村を離れました。その後この街に来て、リア師匠に錬金薬の指導を受けたのち、推薦状をもって商業ギルドにお世話になったのです」


「薬師の師匠替えは難しい・・か。有能な者を取りこぼしている」


 薬師ギルドに入ってなくても構わないと、ライとアルケラさんは薬師ギルドに移動するよう促した。勝手知ったる薬師ギルドにレビントレノさんはずかずかと入って行く。その後ろをアルケラさんは普通に歩いて行く。ライはどうして良いのか分からず二の足を踏んだ。


「さあ、とろとろしない。早くこちらに」

 薬師ギルドの従業員、お客が一斉にこちらを見る。ライは顔を伏せ小走りでレビントレさんを追った。


 1階奥の研究所のような部屋に連れていかれる。ライが使う調剤道具から見たことない器具が多数並ぶ。壁には薬草棚が天井まである。大きな保管倉庫らしき扉が幾つも並んでいた。目を見張る規模にライは声が出なかった。


「レビントレノ・クローズ!ここは部外者を入れないでくれ!」


 大きな声が響いた。細面の気難しい顔をした男性が入口に仁王立ちしていた。『 関係者以外立ち入り禁止 』赤字で入口の戸に書いてあった。ライは思わずアルケラさんの背に隠れた。


「そんなこと言っている場合ではない。詳細鑑定の機械が必要なんだ」

「必要なら申請書を出すことぐらい知っているはずだ」


「そんな悠長なことを言ってられない」

「先日だって、勝手に薬師たちに発熱患者の情報を集めるよう指示を出して」

怒り心頭の男性の様子を目の当たりにしたライは目的を忘れてしまう。


「それで、何か集まったか」

「毎日発熱者の有る、無しの報告が来て迷惑です」


「そんなことはいい!発熱者は?」

「出ていますよ。4日で15人ほど。冬でもないのに。まあ、今はアス草が山ほどありますから薬には困りません」


ライとアルケラさん、レビントレノさんは顔を見合わせ青くなった。


「40年前の熱病が始まった」


「えっ、40年前の熱病・・王都が荒れた流行り病の熱病⁉」


 細面の気難しい顔をした男性、現薬師ギルド長メデェソン・クローズさんは一気に顔色を失った。

誤字脱字報告ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ