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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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84 美肌化粧水か熱病か

 ダイアナに依頼された、羊毛で作るぬいぐるみの仕事が終わった。孤児院と工房に作り方を教え独自の制作にはいってもらう。


 孤児院は子供たちが好きな動物を作りバザーで売り出した。うさぎや鳥、リスに馬、犬や猫など多種類作られた。多少の形の不ぞろいはかえって、個性になって喜ばれた。孤児院の収益になり、子供たちの自信になればいい。


 工房は絵本の人気に合わせ、増産体制になったようだ。絵本の登場人物が増えるほどに大変になるだろう。やっと落ち着いた時、グレイに声かけられた。


「ライ、アス草が森で異常繁殖している。古竜が落ち着かなかったのはそのせいだ」

「熱さましが沢山作れる?」

「そうなんだけど異常なんだ。森で目につく薬草が全部アス草なんだ」

思案顔のグレイ。アス草はよくある薬草だが、他の薬草を覆い隠すほど繁殖はしない。ライは何か引っかかる。


「アス草のい・じょ・う。薬師のお婆の日誌にそんなこと書いてあった。調べてくる」


 ライは、慌てて2階の自分の部屋に戻る。お婆は師匠と10年ほど、一緒に旅をしていた。お婆の旅の日誌を取り出し読み返す。アス草は普段よく使うので、気になったところだ。


『西の森にアス草が多く生えている。珍しい。師匠が今年は熱病が流行るという。 原因は分からない。『金持ち病』と言われているらしい。色も濃く葉は大きいけど、アス草に間違いない。


 しばらくして村に下りた。多くの人が発熱している。熱さまし薬を与えても良くならない。体力のない者は死んだ。早くに熱さましを飲んだ村長は、まだ若く体力もあったのに死んだ。村長の周りには死亡者が多い。金持ち病と村人は言う』


「グレイここ見て」

「あぁ、そういえばそんな事あった。何十年ごとにあったか?妖精は罹らないからな。良く分からん」

「この記録も40年ぐらい前かな?こういうこと調べるのは薬師ギルド?商業ギルドにもあるかな?」


「古い事だから、年寄りの医者や薬師もいいんじゃないか?」

「そうなんだけど知り合いがいない。突撃してもなんて言っていいか分からない」

「そうだな。今はまだ推測の段階だから」


「明日にでも商業ギルドに行って、ピエールさんに聞いてみる。『金持ち病』?金持ちはすぐに熱さましの薬を飲むよね。効かなければ治療魔法をかける。それでも良くならないで、死ぬ?調べないと分からない.ことばかり」


「必ず熱病が発生するとは限らない。思い込みは、判断を誤る」


 言われてみれば、グレイは正しい。ライはなんでも一人で解決しようと動く癖がついている。二人の師匠とボブさん以外に、相談を持ち掛けたことがない。オズのことだって最初はライがオズを育てようと思った。


 でもそれは間違いだった。それぞれの事情を理解しミリエッタ叔母様の助けがあってオズは父親の所に戻れる。


 商業ギルドに行ったとき聞いてみればいい。それより傷薬より肌に手軽につけて、負担が少なく保湿の高いものを考えないと。貰ったレシピの中に何かあったか?女性が肌で悩むこと。


  しみ。しわ・色素沈着・たるみ・キメの粗さ・張り・・・


 まずは健康であること。健康とは心も体も穏やかなこと。病気でないこと。

心も体も満たされる?無理だ。満たされないことの方が絶対多い。今だって不満があるから肌の化粧品を欲しがる。長期に使ってよいもの・・・。


 薬でなく、日頃のお手入れに使える物?手荒れの薬から炎症を抑える薬草を少なくして、軟膏の基剤をもっとさらっとしたものに変える。軟膏より水物の方が良いのか。ライは頭の中で、いろいろ考えていた。


「ライ、また、きれいになるための物か?人は大変だな。髪の毛にお肌。ライの身長と同じで解決は難しいな」


「グレイ、淑女に失礼ね」


「どこにいる?淑女とはおてんばなダイアナやライのことか?根詰めるな。薬師が考える事じゃない。どんな薬も使い方を誤れば毒になる。作った者の責任じゃない。使い方を誤った者の責任だ」


「そうだね。女神さまじゃないから永遠に若くてきれいでいるなんて不可能だね。それに、火傷痕の治療と違うんだもの。止めた。なんか流されてる気がする」


「ライが納得できることに取り組むといい」


 グレイは凄い。ライが悩んだとき、答えを出すのでなくライに答えを出させるようにしてくれる。独り立ちしてもまだまだだ。グレイは頼りになる。


 ミケは自分でオズについて行った。火竜は森守りを継いだ。モスとスラは庭に邁進。ミリエッタ叔母様のとこまで進出している。リリーなんてミリエッタ叔母様と布や糸、アクセサリーの話で盛り上がってる。ダイアナは絵本作家。


 みんなの成長に焦りを感じていたかもしれない。グレイは変わらない。だから頼りになる。相棒なんだから頼っているだけじゃだめだと思うが、500年に追いつくことはない。


 深呼吸だ。師匠たちが言っていた。『 急ぐ時こそ深呼吸して歩みを止めろ 』焦っても、慌てても、欲張ってもライが変わるわけじゃない。


 ライは一番気になるアス草と熱病を調べることにした。グレイじゃないけど取り越し苦労ならそれでいい。商業ギルドに納品に行きながら過去の熱病に付いて記録がないか聞くことにした。


「お世話になってます。納品に来ました」

「ご苦労様です。いつもありがとうございます。ワンちゃんのお使い。とても楽しみでした」


 ライが忙しいときの配達をジルとグレイに頼んだ。グレイもジルも街では人気者。可愛がってもらえて嬉しい。街に馴染むとはこういうことの積み重ね。


「熱さましの薬の流れが分かる方法はありませんか?熱病とかの流行り病についても知りたいです」

「最近ですか?」

「40年前ぐらいのものが欲しいです」

「40年前ですか・・上に聞いてきます」

突然高齢の男性に声をかけられた。


「失礼、わたしはレビントレノ・クローズという。君は今、熱さましの薬、熱病と言わなかったか?」


「薬師のライシーヌと申します。アス草の大繁殖が気にかかり、勝手に調べてるとこです。なんの確信もありません」

「ちょっと時間があるか?少し話を聞きたい」

ライはどうしたらいいか分からない。受付嬢を見るも彼女も困っているようだ。


「私は元薬師ギルド長をしていた。そこの君、ギルド長を呼んでくれ」


 そのままライはティールームに連れていかれた。しばらくして商業ギルド長が来たが、レビントレノさんに指示されて書類を取りに戻った。


「私がなぜ君に声を掛けたかというと、40年前、王都を中心に熱病が流行った。貴族を含め多くの人が死んだ。短期間だったが(まつりごと)が滞った。なくなった者が政に欠かせぬものが多かったからだ。


 彼らは薬も治療魔法も十分手当てできたのに亡くなってしまった。病の原因もわからず、治療方法が分からなかった。反対に平民の方が助かる者が多かった。後に『 金持ち病 』と言われた。その頃薬師ギルド長をしていたわたしは、治療薬を探したが何の手掛かりも得られなかった。


 その最中、友人の薬師から西の森でアス草の大繁殖。村での熱病のことを知らせてきた。友人は多量にあるアス草を送ろうかと言ってきた。気になって調べたら王都の西の森から熱病が発症する前にアス草が大量に収められていた。


 薬師はこの時、熱さまし薬を増産していた。そのおかげで熱病の時に熱さましの薬が足りなくなることはなかった。だが私の頭の隅に、答えの出ない引っ掛かりが生まれた。それから40年熱病は発症していない」


「知らせてくれた薬師は、私の師匠の師匠かもしれません。これは私の師匠が若いころ、師匠と村を巡りながら薬草探しの旅をしていた時の日誌です」


「もしかしてアリーシア?優秀な弟子が出来たと手紙に書いてきた。読んでも良いかい?」

師匠の日誌を呼んだあと、レビントレノさんはため息をついた。


「君はこれを読んで気になったのかい?」


「はい、アス草が平常より大きく色も良く、豊作ということが不思議に思いました。あと『金持ち病』という言葉が気になりました。だってお金があったら良い薬をすぐに使うし、治療魔法も受けます。熱さましの薬は多量にあったし薬を買えなくても豊作のアス草を煎じれば薬効は弱いが平民でも使えます」


「書類を持ってくる商業ギルド長の父親は熱病で死んでいる。当時のギルド長だった。彼も急な代替わりで大変だった」

レビントレノさんは当時を思い返しているようだった。

 

誤字脱字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
レビントレノさんですか……。 それなりにシリアスな展開の中でのおふざけネーミングとは、なかなかやりますね。 でもハチロクマニアが読んだら怒るかも。
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