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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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83 ロッキング公爵オードリアンの苦悩 2 二人の妻

 翌日公爵は、ルペライトを訪ねる。子供の髪はとても青いとは言えなかった。教会の個室を依頼し、ルペライトと子供と出かけた。たまには外に出て買い物をしながら教会に向かうと伝えてある。


 息子の髪が毎日少しずつ色変わりしているせいか、もともとの性格かルペライトは息子の髪色の変化に気づいていない。お付きの侍女は、髪色に気が付き不審に思っても何も言えない。ルペライトの周りは、実家から連れてきた者ばかりで固められていた。


 その上、ルペライトは癇癪もち。一見大人しく見えるが部屋の中では我が儘。欲しいものは実家の母に届けさせるぐらいだ。公爵夫人としての予算では足りないらしい。息子に対してもローズと同じで興味がない。次期当主の駒としか見ていない。


 教会で親子判定された時、息子の髪色は、一気に薄茶色になった。さらに、魔力の色がまるで違った。実子でないことは明確だった。


「あなた、これは間違いだわ。息子はあなたの子よ。髪だってあなたそっくり・・・」


「分かっているだろ。この子は君が火遊びしたあの治療師の子供だ。治療師は子がお腹にいる時から色変わりの魔法をかけていた。ほぼ毎日、彼は君の所に通っていたはずだ」


「彼は妊娠中毎日、私のお腹に治療魔法をかけていたわ。お産が軽くなるようにだわ。不義などしていないわ。うちの侍女に聞いてください。もしかしたら茶色の髪になる魔法をかけた」


「それはないね。教会で魔法は解除された。茶色に変える意味がない。お産が終っても、先日まで毎日君のとこに通っていた」


「えっ、知っていたの?産後の体調が悪かったから、彼の助けが必要だったの。貴方に心配かけたくなくて、黙っていたの。誤解しないで。この10日ほどは来ていないわ」


 ルペライトは本当に子供が公爵の子供だと思っている。子供の顔をよく見れば鼻も目も全然違う。それに気が付かないルペライトと自分(公爵)に呆れる。


「子供の瞳も髪も彼と同じ茶色だ。何を言っても無駄だ。教会が証明書を発行した。不義の子だと証明された。これを持ってモウゲンドールに戻りなさい。

 同時に離婚も成立している。一度は息子だと思った子だ。警部部門には届けないでおく。せめての思いやりだ。荷物と侍女は後で送る。二度と顔を見せるな」


 托卵は、貴族家略取の罪で、死罪となる。実家さえその影響は大きい。泣き崩れるルペライトを置いて俺は屋敷に帰った。ルペライトにも子にも未練が無かった。自分は冷たい男だと思い知った。


 ルペライトと離婚したことを聞いてもローズは怖いほどに変わらなかった。自分のお腹の子を守ることしか考えていない。


「ローズ、オズが誘拐された」

「えっ、そうなの?でもこの子がいるから」

「君は・・」

俺は言葉が出なかった。


「あっ、そうそう今度は実家で子供を産むわ。いいわよね。明日父が迎えに来るから。それに子供がしっかりするまで2、3年実家にいます。オズワルドに会わせたくないの。大切な次期当主だもの大切に育てないと。疲れたから、もう部屋に戻るわ」


 ローズを変えたのは俺か?オズを次期当主にすると言ったことに何の不満がある。初めてローズを憎いと思った。ルペライトの離婚理由さえ聞かない。ローズにとって俺さえも、公爵家次期当主を産むための駒にしか見ていない。ローズは、次期当主を産むことだけが生きがいのようだ。


 翌朝本当にローズの両親が迎えに来た。義母は挨拶を済ませるとローズの所に向かう。通いなれた様子だった。義父のアストリック伯爵は、すまなさそうに頭を下げた。女性の支度は時間がかかるので応接室で話をすることにした。


「申し訳ない。ローズの我が儘で出産を実家でにすることを決め、許可を出してくれ感謝している」


「許可も何もない。わたしは昨夜聞きました。もう妻の中では決定事項でした」


「えっ、貴方様が今度は、ちゃんとお産を済ませるようにと進めてくれたと」

義父は驚きを隠せない。


「オズのことを言っていますか?ローズが男の子を生んでもオズが次期当主に変わりありません。本来貴族のお産は子の血筋を確認できるよう嫁ぎ先でお産をします。


 さらに専属乳母や専属侍女たちと母親が育児をすると心得ている。まして、2、3年実家で育てるなど論外。母親の体調が悪ければ、子供だけでも婚家に戻す。常識ではないですか。確か長男のお子が生まれますよね。実家に帰るのですか?」


「も、勿論。我が家の嫁は里帰りなどさせない。もうすぐ生まれるが乳母やメイド等の準備は済ませている」


「なぜお義父様がお許しに?」


「・・・俺が言ったんだ。オズが産声を上げなかった時、『 この次はちゃんとした子を産め 』と。いたわりの言葉を掛けずに・・」


「お義母様は?」


「また、子供を産めばいい。第二夫人など気にするな。勝手に押しかけてきただけだと。今回こそは完璧な世継ぎを産みなさいと、励ましていたはずだ」


「同じ孫なのにオズに愛情はないのですか?」


「声の出ない子など役には立たない。失礼した」


「初めてオズを抱き上げた時、わたしは、オズを当主にするとその時決めました」


「なぜ?」


「貴方たちはオズを抱き上げましたか?オズの瞳を見ましたか?今は空色の髪に瞳ですが成人すれば私と同じロッキング公爵家の特有の色になります。わたしがそうでした。


 瞳にはしっかりとした知性の光がありました。周囲の騒めきにも泣かない。強い子です。3歳にして侍女に教わり読み書きができ、自分の意思を伝えることができます。オズに何が足りないのですか?」

この人もオズのことを何も知らない。


「貴方がたが愛さなかったオズを、私の唯一の子として育てていきます」

「腹の子は・・・」


「お義父様は、他家で生まれた子を信じますか?貴方は自分が信じられないのに、わたしには信じろと?王国四家では許されません。ローズはオズを一度も抱き上げたことがない。オズはローズを『 ろーずさま 』呼んでいる。これが何を意味するか分かりますか」


「オードリアン様、オズなど廃摘すればよいのです。それが無理なら病死に」


「「ローズ!」」

「ローズ!そんなことはここで言ってはダメよ」


 突然ドアを押し開けローズが叫んだ。追いかけてきた義母の言葉。息が止まる思いだった。義父さえも驚いて声が出ない。


「だって、完璧な子が生まれるのにオズはいらない」


「ローズ、私がいつ完璧な子が欲しいといった?」

さも当たり前のように俺を見てローズは話し出した。


「あら、オードリアン様、貴族の娘は何処に嫁いでも完璧な子を産み育てることが使命です。そうですよね、お母様。お母様は完璧な私やお兄様たちを産み育てた。わたくしもそうありたいのです」


「それならなぜ実家に帰る?確実な血の継承にならない」


「あら、そんなのオードリアン様が分かっていればよいことでは?それにオズがいるだけでこの子に良くありません。オズが片付いたら迎えに来てください」


『 もう帰ってくるな 』と言えたらどんなにいいか。


「妊婦の貴女と言い合っても仕方ありません。お義母様、この方を連れて帰ってください。荷物は後で送ります」


「荷物・・・どうして」


「完璧なお義母様ならこれが異常だと分かりますよね。お義父様は理解しています。わたしがオズを廃摘することは決してありません」


 項垂れる義両親はローズを連れて帰っていった。治療師がやらなくても、ローズがいずれオズに手を出していた。悪魔のささやきは最初は小さい。それを受け入れた瞬間から心を蝕んでいく。


 三月ほどたってローズは女の子を産んだ。

『なんで女なの。お兄様の子供と変えて頂戴!私がロッキング公爵夫人になれない』と騒ぎ、生まれたての女児を投げつけようとした。慌てた両親が赤子をローズの目から逃がした。


 女児はオズと同じ空色の髪と瞳を持っていた。赤子だけ引き取ると連絡をすると義父が離婚届と子を連れてきた。深々頭を下げて帰って行った。


 新しい乳母に抱かれて空色の髪に空色の瞳をくりくりさせいる。顔を覗き込めば私に手を伸ばす。乳母から手渡された子は暖かく、壊れそうなほどに繊細だった。女の子とはこういうものかと感じた。


 その後ローズは我が子だと叫び兄の子に手を出した。驚いた兄嫁が実家に戻った。ローズは何人子供を産んでも納得はしないだろう。最初から完璧な子供などいないから。思うように育たなければ子供を捨てる。子供は人形ではない。


 家のごたごたを片付けながらも私は、オズに会いに出かけた。オズに負担になるかと危惧したが、ローズのことも納得?気にかけなかった。それより赤ちゃんの名前を考えるのに夢中になった。


 オズは最初から赤子を引き取ると思っていたようだ。情けない私の傷心をミリエッタ夫人が檄を飛ばす。この年になって、妻たちに捨てられ、猫に諭され、息子に励まされ、赤子に癒される。激動の半年だった。

誤字脱字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ローズさんも犠牲者のひとりではないかと思いました。 「完璧さ」を異様に求めるのは、それが当たり前だと 自分の役目だと、おそらく幼いころからずっと両親にそう 言われ教え続けられてきたせいなん…
[一言] 公爵ちょっとかわいそう ここから挽回していけ
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