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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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79 オズはミリエッタ叔母様の所に移る

「ライ、ミケと地下で遊んでくる」

朝から元気なオズの声。ミケはオズの言葉の訓練に付き合っていたようで二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。三毛猫の妖精猫は『 ミケ 』という名前を貰ってオズとともに屋敷に移動する。

オズも名前を付ける感性はライと同じだとグレイに言われた。返す言葉がない。


 オズは次期当主の予定なので護衛騎士が付く。我が家に他人は入れたくない。公爵様の訪問もお断り。結果。ミリエッタ叔母様のお屋敷を借りることになった。困っていたライにミリエッタ叔母様が手を差し伸べてくれた。

古竜は幼いオズを心配して屋敷に守りの結界を張ってくれた。


 オズは我が儘も言わず、ミリエッタ叔母様の家に移ることを納得した。何時までもライの側にいられないことを分かっていた。オズはライを年の離れた姉のように慕っていた。


 何時頃からか『 ライねえ 』とこの家では呼ぶようになっていた。グレイはミケとともに『 あにき 』と呼ぶ。街に下りた時に聞いた言葉が面白かったのかちょっと粗野な言葉を使っている。


 オズは特に大きな荷物はない。三毛の収納にお菓子や回復薬、傷薬、熱さましに腹痛薬。ダイアナが送ってくれた本。オズに秘密のグレイとジルとミケのぬいぐるみ。寂しいときにと思ったが、頻回にグレイが出向きそうだ。


 ライの服をつんつん引っ張るモス。モスが居間にいるのは珍しい。

「ライ、モスが夫人の屋敷の庭が見たいそうだ。オズがシャボン玉で遊んだ庭がきれいだと話した。庭見たい攻撃が凄い。荒れ地に行くとき俺に乗って転移しただろ。味占めた」


「いい子にできる?他所の庭だから掘ったり、作り変えてはできないからね」

黄色い帽子がコクコク動く。本当に分かっているのか。モスの後ろでスラもうなずいている。二人で一人か⁉ グレイを見るとあきらめ顔だった。


「わー、モスも行くの?」

オズは妖精も精霊も見えるが話はできない。それでもミケの通訳でモスやスラとも友達になっている。

 人は、精霊、妖精を見ることも話すこともできない。大昔は仲良く一緒に暮らしていたと言う。町中にグレイやモスなどがうじゃうじゃいる・・・騒がしそうだ。


 ミリエッタ叔母様の家の馬車が玄関付けとなり中からミリエッタ叔母様と侍女が下りてきた。その横にキリリとした若い男の人が立っていた。


「オズワルド様、お迎えに伺いました。お荷物は?」

「お迎えありがとうございます。今日よりお世話になります」

オズは賢い。なんとしっかりした言葉。ライは感激してしまう。


「ますます流暢にお話ができるようになりましたね。荷物・・わかりました。屋敷で準備しましょう。ライ、こちらの猫は?」

ミリエッタ叔母様が不思議そうに三毛を眺めた。その後、確認するようにグレイを見る。グレイはそっぽを向いた。


「オズ・・私の猫のミケです。グレイと一緒で僕の相棒です」

「・・・わかりました。では行きましょうか」

「ライ、またね。すぐ会えるよね」

「ええ、もちろん。ジルを連れていきますね」


「オズワルド様、汚い猫を連れて行くのですか?」

「「シャー」」

グレイとミケに威嚇された護衛騎士、ちょっと驚くも顔色を変えない。


「ミケは僕の相棒なの。余計なこと言わないで。ミケの毛はつやつやできれいなのに見る目ないね」

オズ、良く言った。それこそミケの主。ミケを守れるのはオズだけ。護衛騎士、失点だね。ひと悶着あったが無事にオズは出立した。


「なんだあの護衛、ミケを虐めるかもしれない。心配になるな。ミケはまだ力が弱いから・・・」

ぷんぷんと怒ったグレイ。過保護の体勢に入った。あっという間にモスを連れて屋敷に先回りの転移をした。向こうにはオズが懐いている専属侍女が待っている。ミリエッタ叔母様に迷惑かけなければいいけど心配になる。


 夕飯前にグレイは戻った。グレイはぷりぷり。モスはにこにこ。そうだと思ったので、今日の夕飯は、ガーのから揚げ (鶏のから揚げ) 山盛り。特大プリンを用意した。食卓を見た瞬間にグレイはモスと一緒に食卓に着いた。もちろんリリーも戦闘態勢。勢いよく食事をはじめる。誰も話さない。久しぶりの静かな食卓。  


 食後モスは残ったガーのから揚げを地下のスラとスイに届けに戻った。にこにこなので心配はない。グレイをライの膝に乗せ背中を撫でる。


「あいつ、ストーン・ブリッジ。22歳。今回オズの護衛になった。その前は公爵の護衛で優秀な若手だって。執事のストロング・ラシェドと親戚。だから図体大きいし堅物、無口で性格が悪い。身体強化が得意だって。オズの守りには良いけど・・・ミケが慣れるのは時間かかる」


「仕方ない。でもオズがいる。オズはミケを守るわ」

「俺のようにはいかないぞ」

「お互い初心者。これから色々学ぶの。私は先輩グレイに助けてもらってばかりだけど」

「まあな」


 グレイが落ち着くまで背を撫でた。ゴロゴロとやや低めの音を立てて寝始めた。オズの事、ミケの事、心配事が重なって疲れたみたい。ライは静かになった居間でグレイのゴロゴロを聞いていた。


 今日からはいつも通り、朝食後に納品の薬を作りお昼前に納める。午後は錬金染めや入浴剤、グレイ希望の肉入りパンと果物のパンの試作。『錬金でできるお料理』からレシピを使って少し工夫を追加する。


 肉は以前錬金で作った柔らか干し肉をさいの目に切る。パンの種にふわふわの実、錬金でパンの素を作ったら濡れ布で包んで寝かせる。グレイが指でつんつんしている。


「空気が抜けるからそのままにしておいて。硬いパンになるよ」


 寝かせたパンの素を錬金窯に戻して細かくカットした干し肉をたっぷり入れる。ゆっくりかき混ぜ魔力を流す。良い匂いがしてきたら一気に魔力を流して焦げ目をつける。棒を2本横にして大きなパンをのせて粗熱を取る。


「ライ、凄い大っきい。いつものパンの5個分ある」

「これは好きに分けられるパン。お肉たっぷりだから腹持ちが良いよ。グレイにはこの半分のを作っておこうか?」

グレイは大きく頷く。


「これは?」

「どうせ心配なんでしょ。配達がてらオズの所行っておいで」

「そんな事ない。でもライが作ってくれたし、温かいほうがおいしいから行ってきてやる」

粗熱が取れたパンを包むといそいそと転移した。


「ねえ、リリー、グレイは素直じゃないね。リリーは果物パンがいい?・・肉パン。グレイも肉パンだよね。いいわ私が果物パンにしましょう」


 リリーの手伝いでいつものパンの大きさにパンの素を沢山作る。干し肉も沢山切る。果物は砂糖漬けしたものをやや大きめに切る。あとは錬金窯でどんどん仕上げる。お肉の香ばしい匂いから果物の甘い匂いに代わる。工房が台所のようだ。

 玄関に誰か来たようだ。出てみるとモズ商会からの手紙が届けられた。


「いつもモズ商会がお世話になっています。リチャットさんからの手紙です。これからは、わたくしアレフが商品の引き取りに伺います。お手紙を読んでお返事が必要ならここで待っています」


 慌てて手紙を開けば、リア師匠からの手紙とアレフさんの紹介だった。商品の受け取り、手紙やリア師匠の届け物を渡してもらっていいとのこと。モズ商会の商会長の孫らしい。下積みからの修行のため配送係をしている。次回の隣町の出張は20日後と書かれていた。


「あっ、すいませんこれも渡してほしいと言われていました」

チラチラとジルを見ていたアレフが慌てて声を掛けてきた。手渡したあと恥ずかしそうに顔が少し赤らんでいた。


「師匠の魔法袋ですね。確かに受け取りました。少し待っててください」

工房から肉パンと果物パンを包む。

「リチャットさんに10日後には用意できますと伝えてください。それとこれは今作ったパンです。食べてみてください」

アレフさんは丁寧にうけとり自前の鞄に仕舞った。その後頭を下げて戻っていった。


「ライ、聞いてくれ。あいつ黙っていたら肉パン半分食べた。あの大きいパンだぞ。それも無言で。オズなんてミケに後であげようと自分のを半分残したのに。本当にやな奴だ。もっと食べたそうにしてたら夫人がお菓子を勧めてた。食いしん坊だ。これではオズの分が無くなる。オズ用に別に届けないと、ミケが食べられない」


「美味しかったのかな?」

「美味しいに決まってる。俺はまだ食べていないのに。あいつ護衛だから同じテーブルには座れないといったくせに・・・・・」


 グレイの不満が続く。大きく口を開けた瞬間にリリーが肉パンをグレイの口の中に突っ込んだ。

「うぐ、美味しい。ほんとに美味しい。あいつが半分食べるのが分かる」

パンを味わいつつ不満を言う。果物パンに顔が崩れる。


「あいつには果物パンはあげない」

グレイの決意は固いようだ。明日には地下で錬金を使わない肉パンと果物パンができる。リリーとライで、レシピを工夫した。味は少し落ちるが美味しい事には変わらない。


 ミケがいなくなったのでカフェにリリーの復活。救護のお客様は少ないらしい。慌ただしかった分、今日からの静けさがリリー達も寂しいようだ。地下に集まった新鮮な果物でふわふわケーキを作ろうとライは思った。

誤字脱字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 護衛としては失格だね。
[一言] みんながみんな、かわあい
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