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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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77 執事ストロング・ラシェドの訪問

 教会からかえったオズワルドは微熱を出した。一度にいろいろあり疲れが出たんだろうと寝かせることにした。小さな体に負担がかかったかと心配になる。冷却シートを薄布に包んで脇に挟む。


「ライ、女神のことは気にするな」

「うん、大丈夫。ちゃんと届けられた命でも、呪われ辛い思いをするんだなと思って・・・」


「俺には良く分からないけど、きっと人が生きるのは大変なことなんだ。地下にいる呑気そうな妖精や精霊もいろいろあるから・・・でも俺はライと会えて楽しいぞ。ライとあちこちの街に出かけて、猫仲間も増えたし。


 ライがいたから、この家にみんなが集まる。森奥の荒れ地が救われた。古竜は終の棲家を見つけた。若い火竜は自らの使命を見つけた。凄く大事なことなんだぞ。


 ライがいるからオズはきっと声を取り戻す。ライがこの地にいることを女神は喜んでいる。多くの仲間もが喜んでる」


 ライはグレイの言葉に救われた。 

 子供の力は凄い。オズワルドは翌日には熱が下がる。声はすぐに出せるようになった。言葉としての発語が上手くいかない。言葉で話すより、どうしても身振り手振りで答えてしまう。


 そこでダイアナの絵本の登場となった。文字は知っているので、ゆっくり読み聞かせをしたのちオズワルドが文字を追いながら発語をする。


『妖精猫・ミミ・少年・ライ・グレイ・リリーにジル』単語が出始めたらあとは、早かった。短い言葉が出るようになった。

『ジル可愛い・グレイ怖い・ライ好き・ご飯美味しい・ジルおいで』


「オズ、グレイ怖いは何だよ。オズは頭が良いんだからすぐに話せる。あとは自分の考えたことを伝えるだけだ」

「それが難しいのよね。絵本が読めるのだから、オズワルドの考えを文字で綴ってそれを声に出してみるのはどうかしら?」


グレイ、ライ、ありがとう。とてもうれしい。とてもたのしい。ちちとはなす。 

 オズワルドは紙に書いて部屋に戻る。ドアの向こうで練習している声が聞こえる。


 3歳なら今のオズワルドの話し方でもおかしくないが、本人の求めるものが高いのだろう。翌日には棒読みにならず言葉が出てきた。心配したのが嘘のように多弁になる。グレイに『うるさい』といわれるほどになった。


 その間も、ミリエッタ叔母様はライの家を訪れた。途中経過や商品の取引きもライの家で行った。オズワルドを助けて20日ほど経ったころ、ミリエッタ叔母様と背の高い体のがっしりした老齢の男性が一緒に来訪した。


「ご連絡いただき、ありがとうございます。ロッキング公爵家執事のストロング・ラシェッドと申します。オズワルド様を保護していただきありがとうございます。もしものことがあったらと思うと寿命が縮む思いでした。


 わたくしは、ご連絡いただくまで、オズワルド様が攫われたことに気づきませんでした。本当に恥ずかしい事です。主にはすぐに連絡を入れましたが、王都からの帰り道のためすぐにこちらへ伺えません。


 主は毎日オズワルド様を訪問していました。今回、主が長めに留守にするので、実母ローズ様にオズワルド様を託された。母親にわざわざ託すなど変だと思われますか?


 ローズ様は声を出せないオズワルド様にあまり心をかけてはくれません。それに今は第2子がお腹にいます。主はオズワルド様とローズ様の仲を取り持とうとして、留守の間を頼んだのです。もちろんローズ様だけでなく、オズワルド様の専属侍女にも頼むと声を掛けました。


 ところが専属侍女が病にかかりました。治療師のクルセが治療にあたりました。クルセはオズワルド様をローズ様に預けたからゆっくり休めと専属侍女に言ったそうです。言い訳になりますが、わたしもそう報告を受けていました。しかし、ローズ様がオズワルド様を預かってはいなかった。


 オズワルド様はまだ3歳。部屋で食事も入浴も済ませます。母親は会いに行きません。そこに付け込まれた誘拐でした。後手に回り申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げた。


「ライちゃん、理解できないでしょう。貴族では良くあることなの。政略結婚。わかるかしら?家と家の関係で婚姻を結ぶ。第一夫人の男の子が継承権を持つ。男の子がいなければ第二夫人の男の子。男の子がいなければ女の子と続く。


 平民でも、貴族でも子供は育ちにくい。特に男の子は。だからお披露目も5歳の祝福が終ってからなの。それまではほぼ屋敷内の個室で過ごすのが当たり前なの。

 5歳を過ぎてお披露目して家庭教師がつく。そこで初めてその家の子供と認められるの」


「政略結婚で生まれた子供は可愛くないのですか?」

「そんなことはないと言いたいけど・・・」


「すみません口を挟みます。ローズ様はオズワルド様が声を発しないことに大変落ち込みました。当初はとても子育てができる状態ではなかったのです。そこで専属乳母と侍女で子育てを行いました。


 政略的なことで、第二夫人のガーネット様を迎えました。すぐに男の子が生まれたのが半年前。その三か月後にローズ様の二人目の妊娠がわかりました。

 ローズ様は生まれる子が男の子で、次期当主にと願っています。もし女の子ならガーネット様のお子が次期公爵になると心穏やかでないのです」


「話せないからオズワルドは次期公爵になれない?」

「いえ、主は賢いオズワルド様を次期公爵とお考えです。お身体が大きくなったら声のことは、王都の大教会に行く予定でした。たとえ話せなくてもオズワルド様の意思を尊重することにしていました」


「オズは、迷いの森で眠らされて倒れていました。見つけた時は意識がないのかと思いました。すぐに家に連れ帰りました。翌日には目を覚まし食事をとることも出来ました。怪我はありません。この文字を読んでください。オズが書きました」


「えっ、オズワルド様は字が書けるのですか?」


「知らなかったのですか?オズは、賢い子です。話せないなら字を書いて伝えようと早くから学んだようです。侍女あたりがせがまれて教えたのではないでしょうか。オズは自分の立ち位置も境遇も理解しています。とても3歳には見えません。ともかく公爵様とオズワルドの話し合いを取り計ってください」


「ラーイ。僕も子犬か猫が欲しい。グレイは怖いけど頼りになるから。ジルは遊べるもの。古竜はおじいちゃんだから・・・僕も友達がほしいーーー!」


 深刻な話をしているのに、子供らしい声を上げながらジルを追いかけてオズワルドが現れた。目を丸くする執事のストロングさん。声が出ない。


「あちゃ・・・。オズ、グレイもジルもあげない。わたしの家族だから」


「うん、分かっている。でも時々会いにきていい?あれ?・・ストロングさん。いらしゃい」

「オ・オズワルド様お声が・・・」

「うん。ライとグレイが治してくれた。すっごく頑張って話せるようになった。ね、ライ」

「そ・そうだね。凄く頑張ったから上手に話せるようになったね」


執事の戸惑いを置き去りにして、オズはいつも通り話続ける、無邪気なオズワルドに、みんなの視線が集まる。


「ライ、のど渇いた。暑いからアイスが欲しいって。みんなが待ってる」

そう言って指を地下に向ける。一応気を使っているようだ。


「オズ、リリーに用意してもらうからみんなのとこで待っていて。リリー、食糧庫のアイスをお願い。皆様にもお茶を出しますね。とりあえず座ってください」

 バタバタとしながらお茶の準備をしてさっぱりしたレモン仕立てのアイスを出した。


「あら、これは初めて。暑いときはさっぱりして美味しいわね」

ミリエッタ叔母様が座を持たせる。

「確かに、おいしいです。口の中ですぐ溶けてしまいます」

少し現実逃避気味の執事。


「見ましたから分かりますよね。オズは凄く元気です。心配はいりません。本人もお屋敷に帰ることは理解しています。今のままではオズに危険が降りかかります。それが解決したなら安心して送り出せます。


 まずは親子の話し合いを。あとお屋敷の中で急に話せなくなった者がいたら確保しておいてください。オズの声が出なかったのは呪いです。

お腹の中にいる時から少しずつ蓄積した呪いで産声もあげなかった。今話せることはこれだけです。詳しいことは公爵様にお話しします。場所は・・」


「私の屋敷にしましょう。平民街に公爵様を呼ぶのは目立ちます」

「ミリエッタ叔母様ありがとうございます。それとオズが話せることは秘密にしてください。最初は公爵様にと思っています」

 執事のストロングさんはオズワルドが消えてった方を見てから屋敷に戻っていった。ミリエッタ叔母様にお礼を伝えアイスを土産に持たせた。


「ああぁ・・疲れた」

「ライ、よくやった」

「グレイがいつしゃべるかと気が気じゃなかった。それなのにオズが・・・」

「分かる。絶妙だった。まあ、子供らしいオズに出会えてあの執事固まってたな」

「うん、私も固まった」

ライはグレイとソファーに倒れ込んだ。

誤字脱字報告ありがとうございます


誤字、感想の返信が遅れます<m(__)m>

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