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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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73 グレイとミリエッタ夫人

前半グレイの視点、後半ミリエッタ夫人の視点。

 ライがいそいそと魔糸を錬金染めをする。

この間は赤だった。今回は紺色。ライはミリエッタ夫人の希望をかなえようといろいろ工夫している。ミリエッタ夫人ならいくらでも欲しい糸を購入できるのにライに依頼する。そのことにライは気づいていない。


 ライが少しずつミリエッタ夫人に心を開いているのは分かっていた。心配なのは、心許した者に裏切られることだ。過保護だとリリーには言われるが心配でならない。あの教会の祝福を受けたとき、ライは呑気に背が欲しいと願った。あまりのほほえましいことにグレイは思わず笑った。それだけなら良かった。


 あの失敗野郎(コウノトリ便の見習い神)が何をとち狂ったか神託?を出した。それもミリエッタ夫人に。何を神託したか分からないがライを見つめていることから、落とし子のことかと推察した。しかしその後何もなかったので心配しすぎかと安堵した。


 ライがダイアナの魔法指導に伺った屋敷にミリエッタ夫人がいた。出迎えた時の一瞬の驚き、すぐに出迎えの笑顔に戻った。その後は特に変わりない。

 ダイアナは全くしょうがない奴だ。叔母にフォルテスと婚約解消の話を先にしておけ。順番があるだろう。まぁ悪気がないから・・。もう少ししっかりしろ。魔法指導より先にこっちだろ!


 その後は特別なことはない。やはりダイアナに魔法は難しい。意欲だけでは成せないこともある。帰り前、ライの通いに馬車の利用を夫人が強く勧めた。とても心配している。夫人は、ライに何か言う様子はない。


 荒れ地の復興についてあれこれしているうちに時間は経ち慌ただしく荒れ地に向かった。もちろんジルにライの護衛を依頼した。まだ念話もできないジルだがいないよりはましだろう。ジルは大喜びしている。うしろ毛を引かれながら出発したのは言わずもがな。


 荒れ地から一時帰宅したとき、ライの様子は変わりなかった。ジルからはダイアナが頑張っている話しかなかった。ちょっとほっとした。そして今度は火竜を連れて荒れ地に向かった。荒れ地は古竜が長年慈しんだ土地だけあって思いの外早く回復している。大地の底力と言っていい。モス達の働き、スラの肥料、火竜の薬湯が足りない魔力を補っていた。そのおかげで古竜は治療に専念できた。古竜が思っている以上に体力がなくなっていた。


 ライのことが気にかかるも勝手に帰るわけにもいかない。ライの信頼を裏切って帰れない。悩みどころ。それでも荒れ地の復興に活躍した。


 復興の目安は付いた。あとは火竜たちに任せ帰宅することにした。連れ帰った古竜はすぐに地下の療養にはいった。ライは疲れが取れるようにとお風呂を用意してくれた。みんな大喜びしていた。俺は皆が喜ぶ気持ちが分からない。妖精や精霊は風呂に入る必要がない。俺なんて雨に濡れるのも嫌だ。


 ライは違う。風呂に入れる入浴剤?夢中で試作を繰り返してる。地下でも大騒ぎだ。良い香りがしてポカポカすると何度も風呂に入る・・・。

入浴の習慣は人族でも貴族ぐらいだ。ライはミリエッタ夫人に協力を仰いでいる。ライと夫人のつきあいは少しずつ深まっている。


夜遅くグレイはライのもとに帰った。ライに心配をかけたらしい。

「グレイ。何処か行ってきたの?」

「猫会議。しばらく留守にしてたから」

「お疲れ様。猫会議は代理で行ってあげることできない。少しは体を休めてね。今日はグレイと一緒に寝ようかな?」

「ワンワン。クーン」

「ジルはずっと一緒だったでしょ」

「ジル。今晩は俺の時間だ。ミリエッタ夫人の屋敷に行くときはジルに任せる。頼りになるからな」


 俺がいない間もジルは頑張ってライを守っていたようだ。俺のように姿を消して悪意あるものを遠ざけることができない。ライの前を歩く、横に付添う、違う道に誘導する。吠えて危険を伝える。


 グレイのいない寂しさをジルは一生懸命埋めようとしていたとリリーに言われた。グレイ自身も仲間を信頼することが必要なのかもしれない。


 ライの人生は始まったばかり。これからも相棒としてライの側にいよう。こんなに楽しい旅は初めてだ。グレイはライの腕の中でぬくぬくしながら寝付いた。久しぶりに夢?見ずぐっすり眠れた。



深夜ミリエッタの部屋に突然声が響く。

「こんばんは。まだ仕事か?」

「あなたはライのグレイ?妖精?」

「妖精猫。ライの相棒」


 ミリエッタ夫人は魔石ランプの下で刺繍をしていた。スキル持ち。話しながらも手は正確に指が動いている。


「何の御用?ライさんに近づくな?てことかしら?」

「教会で何の神託をうけた?」

「あれを神託と言うなら神託を受けました。『あなたの子供があそこにいます』それだけです」


 妖精や精霊が気まぐれであることは良く知られている。人は神に完璧像を求めるが、神は人の常識を理解していない。理解する必要はないのかもしれない。神も人も精霊や妖精も住む世界が違う。世界が違えば常識も違う。良かれとしたことが相手に失望を与えることもある。特にあいつ(ライを森に落とした見習い神)はダメだ。


「どう思った?」

「私の子は生まれる前に亡くなりました。いくら神託でも私は信じません。ライさんとは関係ありません。ライさんは商売の取引相手です。可愛いらしい年下の友人です。妖精猫が心配することは起きません。

親の名乗りを上げる。養子にする。・・そんな事しませんよ」

「・・・・」


「ライシーヌ。女の子ならライシーヌと名付けるつもりでした。同じ名を持つ女の子の幸せを願うことは許されるでしょ? 私と貴方は同じ思いを持つ同士です。貴方では守れない所を守ります。貴方が出来ぬところをお手伝いします。ライと会うことを止めないでください」

ミリエッタは針仕事を止めて、じっとグレイの目を見つめる。


「・・・人族の感情は妖精には分からない。悪意がないのは分かる。ライは悪意も善意にも鈍い子。感情が豊かではない。それでも少しずつ感情を表すようになった。 精霊や妖精には慣れても人に慣れていない。ライは人族の世界で生きて行く。俺で導けない所を手伝っていただけますか」

「もちろんです。我が子のように」


「では、帰る」

「時々会いに来てくださいませんか?情報交換?人生の先輩の貴方の知恵を教えてください」

「気が向いたら・・」



 妖精猫は言いたいことだけ言って私の前から消えた。私は言葉を上手く伝えただろうか?あの猫の目を見て話をするのは勇気がいる。嘘も偽りも見透かす目。『クリソベリル・キャッツアイ(猫目石)』。悪を寄せ付けないお守り石。物事の本質を見抜き、嘘や偽りを見破り導く。あの猫の目。


 捨て子だったライを守ると決め契約した妖精猫。妖精の時間にしたらあっという間だろうがライにかける愛情は強い。猫が愛情と思っているかは分からない。人の親以上だろう。いつもついてくる白い子犬ジルだっていつもライを守ってる。ライは皆に守られている。


 猫や犬が優しく守る親なら、私は厳しい親になる。そして友になる。ライには長い人生がある。優しいだけの人生はない。思いを込めても思いは返ってこない。愛しても愛は返ってこない。優しくしても裏切られることもある。理不尽な思いに悩んだときに助けられる私でいたい。


 夫の裏切り、子を失う。今思えば私が特別ではない。何処でも良く聞く話だ。かえって仲が良い夫婦を見つける方が貴族には難しいかもしれない。まだ幼かった。人生が終ったように思えた。死ねるものなら死にたいとも思った。

 それでも今は生きていて良かったと思う。女のわたしを守ろうと兄や義両親、年老いた執事や侍女。私も見守られていた。


 祝福で得たスキルが人生を変えた。仕事をはじめた。兄の助けがあり女一人屋敷を維持できる収入を得るようになった。失ったから今があると思えるようになった。不可能に近い魔法に夢中のダイアナ。魔法は身に付かなったけど、絵本作家という新たな道を見つけた。婚約解消など彼女の傷にならなかった。


 ライに出会った。私に流された魔力は暖かく優しかった。隠していた腰痛や目の疲れを癒してくれた。ダイアナに真正面から向き合ってくれた。

 若い二人に教えを施すどころか私が多くを教えられた。忘れてしまった人生の輝きを思い出した。


 私は人生の終わりを数えていた。でも若い二人は今を生きている。私にも未来がある。遠い先より今の出会いを豊かなものにしたい。

 ライの持ち込む刺繍糸は毎回ライの工夫がうかがえる。私の期待に応えようと頑張っている。お風呂に入れる薬?入浴剤。一日の疲れが癒される。屋敷の者に大人気。疲れが取れる。体が軽くなる。良い香りに包まれ眠れる。


 私も負けていられない。ライの糸で素敵な服を作ろう。

「ミリエッタ夫人、凄く素敵!」

と言われるように。でもその前にミリエッタ夫人呼びから叔母様に変えられるよう頑張りましょう。

妖精猫さんはきっと時々来てくれると思う。ダイアナのミミそっくりの猫。この次はあなたと会える楽しみを感じたい。


「あなたは、お話しできる猫?」

子供の頃に庭に来た猫に話しかけたのを思い出した。 

誤字脱字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優しい物語をありがとうございます これからも更新楽しみにしています
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