7 初めての荷馬車の旅 ボブさんと一緒に
昨夜はさすがに村を出ることに興奮して、寝られなかった。日の明ける前に起こされて荷馬車に乗った。
ガタガタ揺れて狭いながらも、干し草のベッドが気持ち良くていつの間にか寝てしまっていた。
「おい、ぼうず、板を押し上げて出てこれるか?
もう村からだいぶ離れたから安心しろ」
突然の声に驚いて、頭を上げたら思いっきりぶつけてしまった。そっと板を押し上げる。御者台で養父より若い男の人が荷馬車を操っていた。
「こんにちは、ライと言います。お世話をお掛けします」
体にくっついた干し草を叩き落としながら声を掛けた。
「おぉ。薬師の婆さんのお願いだからな。街まで連れて行くよ。
見ればわかるけど、村が見えないだろ。随分離れたから安心しな。
そうそう、これ薬師の婆さんからだ。村を離れたら手渡してくれって。
ライは、字が読めるのか?」
「うん。お婆に教わった」
「そうか、書くこともできるのか?計算は?」
「難しいのは無理だけど読み書きと計算はできる」
「良かったな。ゆっくり読みな」
片手で馬の手綱を持ち、もう一方の手で胸ポケットから少し皴になった手紙を手渡してくれた。
木箱の上に手紙を広げる。少し薬草の香りがした。荷馬車の中で揺れる文字を追っていく。気が付いたら文字が滲んで見えなくなった。
お婆の几帳面な文字が並んでいる。今朝まで一緒にいたのに、もう会えないことを咬みしめてしまった。
手紙の上に乗せた手に涙が落ちた。淋しい、会いたい、感謝、思いが溢れて、涙も溢れた。今まで、泣くことも笑うこともなかった。
売られること以外は、穏やかな生活を送れていたのかもしれない。
手紙にはライが拾われた時の事、おくるみと添えられた手紙があったこと。他に旅用の調剤道具セット、女の子の服と靴まで用意したと書かれていた。
最初にお婆がライを見つけていたら、薬師にして跡を継がせることが出来たと、お婆の力がないことが悔やまれると書いてあった。
お婆が居てくれたからライは、食事に困ることもなく、病気をしても薬を貰うことが出来た。小さいライを育て、生きる術を教えてくれた。
お婆のおかげで、売られることなく村を出ることが出来た。村にいた頃はいつも一人だったけれど、お婆から離れて本当に一人ぼっちになったと体が震えた。
冷たくなった指先で、手紙を鞄に仕舞う。
村から出た荷馬車は、抜けるような青空と先の見えない草原をカタコト音をたてながら走っていた。道らしきものがずっと続いている。
村の先がこんなに広いなんて知らなかった。空もこんなに青く高い。村の近くに森があったが今は何処にもない。
見たことのない風景にも不安と怖さを抱いた。
誤字脱字報告ありがとうございます。