68 ダイアナの風魔法と絵画スキル
今日はダイアナの最後の魔法の講義の日。
ダイアナはシャボン玉に風をぶつけることで風魔法?だけを発現した。他には何も発現できず落ち込むかと思ったとライは心配した。
「ライ見て ふわーと風よ、花の上を走れ」
ミリエッタ夫人の中庭の花が奇麗にお辞儀していく。花は左右に振れ良い香りが舞い上がる。得意げに笑うダイアナ。風の勢いも強さもないが優しい風が動くのが分かる。
「風よ ライのスカートをまくれ」
「えっ!」
ライは慌ててスカートを抑える。ふわりと抑えたスカートの裾が揺れる。
「ダイアナ!だめじゃない。悪戯して!」
「ごめんなさい。でもね。悔しかったの」
苦笑いのダイアナ。嫌なことがあったようで、庭の腰かけ椅子に座って話し始めた。ライは話を静かに聞くことにした。
ダイアナが叔母様の所に来てライの魔法指導を受けているが芳しくない。グレイにも無理だろうと言われていた。それでも、ダイアナは魔法を学ぼうと真剣だった。
魔法の指導を受けて、初めてわずかに風を起こしシャボン玉を噴き上げたあの瞬間の感動を忘れない。きっと生涯の宝物。青空にキラキラ輝くシャボン玉は何より美しい風景だった。
シャボン玉を空に噴き上げるライの姿はきれいを越して現実のものでなかった。
ダイアナは絵にしようとするも上手く描けない。透明なシャボン玉。虹色に輝くシャボン玉。ライを取り巻くシャボン玉。空の彼方に消えるシャボン玉。
ダイアナは何度も描き直してを繰り返した。それでも納得することが出来ない。思うように描けない苛立ちが募った時にスカーレットに会ってしまった。
従妹のスカーレットは、父の弟の子供。ダイアナの2歳下だった。学年も違うので親しくはなかった。ミリエッタ夫人の所にスカーレットがドレスの依頼に来た。
「あら、ダイアナお姉様。こんなところで何をされているの?婚約破棄!お辛いでしょ。傷者になって落ち込んでいると思っていましたの。家にいられなくなって、叔母様の所に逃げてきたのかしら?自暴自棄?」
「あちらの有責で 婚・約・解・消 自暴自棄になっていないわ」
「あら?強がり言って。お母様が『ダイアナは生意気だからフォルテス様に捨てられた』と言っていたわ。お茶など入れてるのはどこかに侍女に出るのかしら。わたくしがお母様に頼んであげても良くてよ」
ダイアナは両親に恵まれ、学友にも恵まれていた。婚約解消の影響をあまり感じてなかった。たまにヒソヒソ話されたりすることはあっても面と向かって言いに来る者はいなかった。学院では彼の失態が広がっていたから。
ミリエッタ叔母様は最初は驚いたけど、ダイアナの行動を批判することはなかった。スカーレットのように間違いを織り交ぜて批判されるのは初めてだった。ついダイアナの怒りに小さな火がついた。
「頼まれても我が儘なスカーレットの所にはいきません」
「行き遅れ!になりますわ。侍女ぐらいしかお仕事ないでしょ」
「あと一年学院に通います。行き遅れと言われる筋合いはない」
スカーレットも怒りに火が付いた。きっと大火事。
「頭が良いからって、なに! 結婚したらそんなこと関係ない。フォルテス様は次期当主。婚約解消をダイアナが願い出るわけない。わたくしの方が良かったのにダイアナにするから・・」
えっ、スカーレットはフォルテスが好きだったの? ほとんど一緒に遊んでなかったと思うけど?
「どうぞ、スカーレットとフォルテスは相性良いと思うわ」
「ほんとは悔しいくせに!
叔母様( ダイアナの母 ) も気が強いから叔父様( ダイアナの父 ) が苦労するのよ。お母様が心配していたわ」
「家のことを心配していただき、ありがとうございます。でも、うちの両親は仲が良く、できた兄がいますから心配には及びません。大丈夫です」
「それは良かったわ。何かあれば、お父様が本家を継ぐと言ってたもの」
「あらぁ?お家乗っ取り?」
「だって、お祖父様の我が儘で、叔父様を当主にしたんでしょ。元に戻るだけよ。私ならあなたより立派な貴族夫人になれる」
最後は大声を上げたスカーレット。親戚付き合いは両親がしていた。我が儘なスカーレット姉弟は兄もダイアナも好きでなかった。
「スカーレット。淑女は大きな声を上げない。ダイアナは学年休暇を使っていろいろ学んでいるの。貴女が口を挟まないの」
「叔母様だって子ができない『石女?』でしょ。『離婚されても仕方ない』とお母様がいってたわ。あまり偉そうにしないで」
スカーレットはまんまる容姿の女の子だった。甘いものが大好き。顔や背中にぶつぶつが出来ている。決してフォルテスが好きな容姿でない。頭も良くない。ダイアナの中で何かが切れた。
『いぼカエル』ひっくり返れと思ってしまった。その瞬間スカーレットのドレスがまくり上がり太い脚が丸見えになった。
「ギャーー何するのよ」
「風のせいでしょ。下着が丸見え。声もいぼカエルみたい。はしたない」
「う・煩い! 帰る! こんなとこでドレスなんて作らない!」
注意したそばから大声を上げ、どすどすと足音を立てて出て行った。
「ダイアナ。仕方がないけど魔法はいたずらに使ったらだめでしょ。でも痛快だったわ。お義姉様はスカーレットにどんな教育してるのかしら?」
言葉は優しかったけどミリエッタ叔母様は傷ついた様子だった。
ダイアナは詳しいことは知らない。ミリエッタ叔母様は婚家の当主夫妻に惜しまれつつ事情があって、離婚したとは聞いている。こんなに素敵な叔母様を失って今頃、元の旦那様は後悔していると思う。
叔母様は離婚後実家に戻らず婚家が持っていた準男爵位を譲り受けた。この屋敷を本家 ( ミリエッタの実家カール男爵 )の別邸を購入した。
そして、ここに服飾の工房を作り知る人は知るドレスメーカーを立ち上げた。
その日はお茶のお菓子はなしになった。これは淑女として、侍女見習いとして反省を促す罰だった。甘い罰だとダイアナは思った。反省は必要。
ダイアナの風魔法は感情に左右されることにダイアナは気が付いた。突風になるほどの力はないので一応心配ないとミリエッタ叔母様が言った。淑女はいついかなる時も感情的になってはいけない。母と同じ小言を言われた。
感情を抑えながらもダイアナは両親に家のことやミリエッタ夫人に対するスカーレットの言動を伝えた。お父様 ( ダイアナの父 ) が同じ考えなのか心配になったからだ。
両親、特に母と兄はスカーレットの生意気な言動に怒ってしまった。いつも『 貴族は怒りを抑え笑顔で対応するのよ 』と言っていた母の笑顔が怖い。母は凛とした人だけど言動で人を批判しないから心配はないと思いたい。兄の方が危ない。父が兄を抑えてくれることを祈る。
嫌なことは嫌と言えない。なんて堅苦しい世界だろ。ライと出会ってダイアナは世界が広がった。どちらの世界も違いがあるだけで悪い、良いと分けることはできない。それでもダイアナはこの世界で生きて行く。ライの笑顔を思い出す。ライに出会わなければ、別の世界があることさえ知らなかった。
ダイアナの絵画スキルが素晴らしい成長を見せた。ダイアナが描いた数枚の絵、『少年ライと妖精猫ミミ』『風に舞うシャボン玉と妖精猫ミミ』前回の風景にグレイが居た。ダイアナにとって力作だった。
ダイアナは何度も描き直しているうちにある時急に思い描く景色が鮮明に頭に浮かんだ。そ・そう、こんな風に描きたい。ペンが思うように動く。絵筆さえ色の濃淡も迷うことがない。夜も寝ずに描いた。気が付いたら朝日が昇っていた。
「ダイアナ、今回は許したけど徹夜はいけません。お肌に悪いです。魔石は高いのよ。絵を描くほどの光は特にね」
魔石ランプ・・・。夜なんて気にならなかった。ダイアナは叔母様の気遣いに気が付いた。
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