6 春が来る前に家出という旅立ちをする
冬の寒さが緩んできた頃にお婆から唐突に宣言された。
「5日後、薬屋が来る。この時、薬草と一緒に荷馬車に乗せてもらい村を出ろ。よく知ってる人だから心配しなくていい。街まで一緒に行って、孤児院に入れ。炊事もできるから、邪険にはされないだろう。
7歳になったら教会で祝福の儀を受けて、見習い先を見つけるなりすればよい。ギルドで身分証を作ればどこにでも行ける。
薬草採取で食べて行けるかわからないけど、きっと今まで覚えた事が役に立つ。
これからはライ一人で生きていくんだ」
そう言ってお婆は、ライの体を抱きしめてくれた。
「ライは女の子だけど、これからは男の子になるんだ。
自分の身を守るために」
「あっ、女の子というだけで少しは高く売れると言っていた」
孤児院に入るまでは、男の子を装うことになった。
「兄達のおさがりを着ているライは、元から女の子には見えないね。今とたいして変わらない。
服を用意しといたから、村を出る時は着替えていくんだよ。村の服は古すぎて、街ではスラムの子供と間違えられるから」
お婆に礼儀作法を学ぶまで、自分が女の子なんて意識したことはなかった。
「あとはこの鞄と背負い袋をライにあげる」
肩掛けの古そうなカバンと背中に背負う茶色い袋を出した。
「薬師は、薬をもってあちこち旅をするから荷物が多い。これは見た目よりたくさん入る魔法の鞄だ。この薬草タンス以上に物が入るし、入れたものは劣化しにくい。
お婆が薬師として家を出る時、両親が持たせてくれた物だ」
懐かしむように 古い鞄を見つめている。
「お婆の大切な物を貰えない」
自分の我儘で村を出るのだ。色々準備を手伝ってもらった。お礼さえできないのに。
「ライ、私はもう年だから、ここを離れることはない。旅には出ない。
それに、私が死んだらここの物は村長の物になる。薬師でない村長にとってここにある物は、役に立たないガラクタだから、売られるか、燃やされるだけだ。
まして、魔力のない村長ではこの鞄は役に立たないからね。気にしなくてよい。
これは、わたしの側に居てくれたライへのお礼だ」
縫い針で指を刺し、血を垂らす。カバンがほわっと光った。
「ライに、魔力があってよかった。少しでもライの役に立って欲しい。
魔法鞄は貴重な物だから、人に悟られないように気を付けるんだよ。
背負い袋は、時間を止めることは出来ないけれど、容量増大と軽量化が出来る。
この小袋にお金が入っていて、この袋には薬の詰め合わせも入っている。
傷薬や熱さまし・腹痛や下痢止め・頭痛薬。ライでも作れるが、作っている暇はないね。薬師の資格が無いから、作った薬は売ったらだめだ」
そう言いながら鞄と背負い袋の中にいろいろな物を持たせてくれた。
村を出る早朝、お婆ちゃんは髪を切りそろえてくれた。ちょっときれいな男の子の服に着替え、肩掛けかばんと背負い袋を胸に抱えた。
二日前からライ以外の家族は村長の所に出かけている。
ライは、薬草買取のロン商会の荷馬車の板張りを外して、干し草の入った隙間に隠れることになっている。
「元気で頑張るんだよ」
「うん・・・ありがとう」声が詰まった。
「頼んだよ。ライは、お婆の最後の弟子だからね」
「・・・・・・」
背を押され荷馬車の板張りを外してライは隠れる。
「お婆、必ず街に届けます。安心してください。この次来る時に、ライの様子を伝えに来ます。元気に薬草を育ててください」
板張りの隙間から、お婆とロン商会の人の話が途切れ途切れに聞こえた。
「では、お婆。森に沿って街に向かいます」
「よろしくな」
商人が荷馬車の板をポンと叩いた。
静かに荷馬車は動き出し、森に向かった。息を殺して、物音を立てないように体を隙間に沈めた。
干し草のおかげで、ガタガタ揺れても体の痛みは少なかった。
時間が経つにつれて、狭すぎて体を動かせないのが辛くなる。板張りの隙間から、柔らかな朝の日差しが差し込んできた。日が昇ったんだと分かった。
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