58 俺は、何を間違えた (1)
俺は男爵で終わる男ではない。エドワード男爵長子フォルテス。
いつも母に褒められ、自慢の息子と言われていた。
見目も良く勉学も優れ剣術は、弟には追い付かないが当主には、必要ない。
母の言うことを素直に聞く、本当にできた息子だと手放しで褒められていた。
弟は反対で母に口答えばかりする。多少我慢すれば母は扱いやすい。
機嫌を取るのも簡単だ。それなのに弟は真っ向から母とやり合う。
弟は馬鹿か反抗期か。本人も疲れるだろうに。暇があれば剣術の稽古に
励んでいる。俺が後を継いだらあいつは騎士にでもなるつもりなんだろう。
好きにすればいい。
母のお気に入りの男児服を着て、青い髪を長めに切り揃える。
男らしくないが母は満足そうだ。母とお茶会に参加して交友を広げる。
『可愛いお子様』と言われて母は喜ぶ。
よく出かけたのが、隣の領地のカール男爵邸だ。父親同士が仲が良い。
家族ぐるみの付き合いをしてる。領地は、お隣、領地の大きさもほぼ同じ。
何だかんだと良く行き来していた。
カール男爵家には同じ年の女の子と、二つ上の跡取りの男子がいる。
本来なら二歳年上のシャープと遊ぶところだが、彼は本を読むことが好き。
暇さえあれば読書に励んでいる。
「好きな本は?」
「おすすめの本は?」
話しかけたら難しくて訳わからない。とてもじゃないけど相手にできない。
彼とは自然と距離があいた。
同い年のダイアナは、素直な可愛い女の子。その下はまだ赤ちゃん。
おのずと俺はダイアナと遊ぶことが多かった。
10歳の誕生日に俺とダイアナの婚約が結ばれた。自然の流れだった。
俺は可愛いダイアナは嫌いではないから婚約に不満はなかった。
10歳でナロン領都の学院に入学する。
学院を15歳で卒業したら王都の大学に進むか、仕事に就くか選ぶことができる。4つの領の選抜された者が試験を受けて大学に進学するため狭き門。
ほとんどが研究職か魔法職、一部のエリート官僚になる。そして国に仕える。
大学に行かない者は、優秀な成績を残して自分に箔をつけ、仕事に就く。
女子は学院にいるうちに婚約者を決め卒業後結婚するのが大多数だ。
俺はすぐに爵位を継がない。王都に出て文官にでもなろうかと思っている。
学院に入学した頃は、顔見知りはいたが少なかった。婚約者ということもあり、ダイアナと過ごすことが多かった。ダイアナはシャープの影響か、勉強ができた。クラスの女子の中でトップだ。俺よりできる。
学院は小さな社交場。厳しくもあるが刺激的。俺は要領が良い。頭も見目も良い。それを生かして交友を広げた。
中位貴族と繋ぎを作ることができた。格上の貴族の息子など大したことはない。頭は悪いし、傲慢な態度で嫌われている。爵位に胡坐をかいている。
格上の子息でも俺と変わらない。俺ならもっと上を目指せる。自分の力を見せつけてやる。俺は男爵よりもっと上を目指せると思った。
ダイアナが色あせて見えた。だがダイアナは役に立つ。勉強はできるから俺の宿題や勉強を助けてもらえる。
付き合いで必要な贈り物のセンスが抜群に上手い。それに俺に従順だ。
髪は結んだほうが良いといえば翌日にはしっかり結んでくる。俺が垂れ目の
可愛い子が良いといえば、似合っていなくても可愛い装いにしてくる。
本当に扱いやすい。妻にすれば家政は安心だが連れ歩くには物足りない。
3年に進級時、生徒会の会計に選ばれた。
下位貴族ではありえない出世頭だ。忙しい俺に尽くしてくれるダイアナの協力は、不可欠になった。
貿易業で貴族籍を買った、成金のマリアーナ。必要な金を貢いでくれる。
格上なのに色々助けてくれた伯爵家の三男ザンタック。大事な取り巻きだ。
ザンタックは三男という立ち位置に不満を持っていた。自分より頭の悪い長男が先に生まれただけで爵位を継ぐ。自分は貴族家に婿に入るか平民になるかだ。出世欲の強いフォルテスとつるむことでザンタックは大いに憂さ晴らしをしていた。
最初は小さな賭け事だった。
誰が剣術大会で優勝するか。誰が定期試験で7位を取るか。1位など決まっているが7位ぐらいだと結構変動がある。
小さな賭け事で得たわずかなお金は貴族子息にしたらあぶく銭。みんなでご飯を食べたりカフェに出かける。
男ばかりじゃ寂しいから付き合いやすい女の子に声をかける。女の子が集まればおのずと男が集まる。
多くは家の中でがんじがらめの教育を受けてきた貴族の子供は、つかの間の
自由に溺れた。その助けをフォルテスとザンタックが請け負った。
女子はマリアーナが担当した。
ある者は別れ話がこじれた。ある者は金に困る。出来ることは助け、恩を積み重ねていくことで、フォルテスは多くの手札を握った。
手札を上手に使って、さらに格上の子息、令嬢を巻き込んでいった。
その勢いに影が落ちたのは4年の半ば過ぎ。
共に遊んでいた者が少しずつ離れていった。マリアーナは口約束していた婚約を正式に結びたいとせがんだ。
マリアーナの兄が婚約して姉が嫁入りしたからだ。
俺は結婚するなら最低でもダイアナ。できることなら格上の嫁か、格上への婿入りを狙っている。確かにマリアーナは俺好みの容姿を持っているが頭が悪い。社交界で生き抜く力はない。
今、金づるを手放すわけにいかないが、適当にごまかすのも限界に来ていた。久々のダイアナのデートにも隠れてついてきたりと目に余る。
それに伯爵令嬢ジョセフィーヌと縁が出来そうな微妙な時期だから静かにしてもらいたい。
ダイアナは俺が結婚できないといえば素直に退いてくれるはずだ。
父だって男爵より伯爵を優先する。母は当然喜んでくれる。
弟がいて良かった。男爵位はお前にくれてやる。
ダイアナとのデートを中止して、マリアーナの自宅に向かった。
所詮この前まで平民だったわけだから、金をかけた屋敷でも俺は動じない。
貴族的振る舞いと言葉選びで、マリアーナとその家族を煙に巻いた。
仮の婚約書を書いたが、この婚約は無理がある。
成金貴族は分かっているだろう。
マリアーナも俺の嫁になれないことを理解してほしい。
新興貴族は貴族の社交が十分にできない。社交を制する者が貴族だ。平民上がりの女は貴族子女と違ってこらえ性がない。特にマリアーナは遅くにできた子で甘やかされて育っていた。感情がすぐに出る。礼儀作法が出来ていない。
貴族夫人など務まらない。
共にバカ遊びをした仲間が人生を真面目に考え始めたことに、フォルテスは気が付かなかった。
誤字脱字報告ありがとうございます。とても助かっています。
多くの人に読んでいただきありがとうございます。
本人はランキングにいることさえ知りませんでした。
ライを孫のように見守る一人として小説を書いています。
皆様の助言に助けながら、未熟でありますが書き続けます。
完結まで先が長いので、気長に付き合ってください。




