57 自分らしくあるために(ダイアナの場合)
ぐずぐずと長々とダイアナの話を聞いていたグレイが切れた。
「つまり!ダイアナ君は!婚約者に裏切られた。ということだね」
「簡単に言えばそうです。えっ・・・なぜ猫がしゃべっているの?」
「そんなことはどうでもいい。ダイアナは浮気者の婚約者と続けたいの?続けたくないの?」
「ええ・・・両親が知ったら・・・世間体が・・・もしかしたら人違い…はないか」
何処か抜けているというかおっとりしているダイアナが、ライには幼く見える。
下町の子供は早ければ7歳から下働きに出る。それまでは家の手伝いをして、家族を助ける。呑気に過ごせるのはお金持ちの子供ぐらいだ。孤児院など歩けるようになればすぐ上のお姉さん女の子や男の子の真似をしてお手伝いをする。
7歳になれば女の子はシスターと同様に働く。冒険者ギルドに登録して街の雑用を受ける。10歳になれば孤児院を出ていかなければならない。
「君は!!もう少し!もっとしっかり自分の立ち位置を考えなさい。もしかしたら単なる婚約解消でなく君に非がある解消なら慰謝料か違約金を払うことになる」
「えっ!どうしてお金がかかるの?」
「貴族の婚約には契約書があるはずだ。たとえ父親同士が友人でもあくまでも家同士の婚約なら契約書がある。そこには解消に対しての項目もあるはずだ。しっかり見てみろ。いつまでもお花畑の頭なら困ることになる」
「グレイ、婚約に契約書が必要なの?」
「当たり前だ。ライだって商業ギルドでもモズ商会でも魔法契約しただろう」
「あれは商売だから・・・」
「貴族の結婚は商売と同じ。家と家を繋ぐための契約だ。庶民の好きだ嫌いだとは違う。庶民でも金持ちなら婚約解消の内容で違約金や慰謝料は出てくる。ライはこういうこと疎いから相談相手にならないな」
「婚約とか結婚とか関係ないし」
「もうすぐライだって13歳なんだ。20前に結婚しないと行き遅れ・・・」
「別に、グレイと一緒なら一人でいいもの。グレイは私が死ぬまで一緒でしょ。おっ、グレイと結婚しようか?」と答えてみた。
「ライ、違う意味で小娘と同じお花畑の頭か?」
「えっ、この子よりはしっかりしてると思うよ。婚約中から浮気する男は、結婚しても浮気すると思う。何か良からぬ事考えてるみたいだし。
有責婚約解消して慰謝料?違約金?どっちでもいいから貰って、そのお金を有効に使った方がいいね。
親は子供の幸せを願うものでしょう。親のためとか、世間体のために結婚しても楽しくない。まだ、先長い」
「大方ライの言うことは正しいと思う。ただやり方だな。ダイアナには、親を説得できるか。無理だな」
「無理かも。私学院の成績は良いんだけど・・・・」
「わかるよ。君にはこの任務は難しい。誰か親以外で君の味方してくれる人はいないのか」
「う・・・・ん、去年学院を卒業して財務部で仕事を始めた兄がいる。仕事をする前はよく勉強をみてくれたりして仲良かったと思う。でも今は仕事が忙しくて・・・」思案顔のダイアナ。
「そんなこと言ってられないよ。君が下手な婚約破棄されたらお兄さんの結婚にも支障が出る」
「それは困る。兄は格上の子爵家のマリーナさんと婚約しているの。私のせいで結婚がなくなるなんてそれはダメ」
なかなか話が進まずグレイが相手しているうちに、ライシーヌはお昼を作ることにした。ダイアナは泣きはらした目も落ち着きお腹も空いただろう。
がっつり系のランチにした。肉に塩コショウをして、小麦粉と卵、パン粉を順番にまぶして植物油で揚げてサラダとスープを添え、焼きたてパンを保存庫から出す。多めに揚げた肉と野菜をサンドイッチにしてリリーに渡した。
リリーはダイアナの話をずっと聞いていた。女の子はこういう話が好きらしい。
「お腹が空いたでしょ 簡単だけどお昼にしましょう」
物珍しそうにライの作った茶色い塊を眺めている。グレイは上手にナイフとフォークを使って肉フライを切って茶色いソースにつけて食べていく。ダイアナは真似をして一口食べて目を見張る。
「す、凄い美味しい!」
「ライの作る飯は最高なんだ。スープも美味しいし、さらにパンなんてふわふわだぞ」
さすがに貴族のお嬢さんだけあって慌てず味わって食べ切った。食後に紅茶とキイチゴにジャムとアイスを添えたミニパンケーキを出した。
「あっ、これ食べたかったんだ。スズランカフェと同じ」
「違う!スズランカフェがライのレシピを買って提供してる」
なんか偉そうにグレイが説明している。ダイアナは聞いていない。満腹になったときダイアナがポツリと呟いた。
「私がもっと魅力的だったらこんなこと起きなかったかな?・・・・・」
「魅力的な人とはどんな人?誰にとって?好きでもない服や化粧をしてもきっと似合わない。魅力的なの?」
「ダイアナ、自分の魅力は何?」
「私は彼の好きなフリルいっぱいの服を着こなして淡い色が好きな彼に合わせて…彼より良い成績を取らないようにして、、、彼の手伝いをして、、、」
「あっ!そういうの都合の良い女!」
「グレイ、その言い方」
「凄い!ピッタリ!そうか都合の良い女。彼のレポート忙しいって言うから何回か代理で書いたりした。ほかにも彼の友人へのプレゼントを買ったりもした。代金貰ってないものもある。あの子がつけていたブレスレット私が昨年の春購入したのだ。従妹にあげるのに良く分からないからと頼まれた物だった。、、、」
「あああ、、、随分前から浮気されてたね。記録付けてる」
「そういうことはちゃんとしてるわ。男爵夫人になったら家の家政を預かるんだから」
「その割にはお金貰ってないじゃないか」
「だって、彼の身内のことだから、、、いずれは自分の身内だから、、、」
「甘い!親子・兄弟・姉妹・身内だろうが友人・親友・恋人でもお金のことはきれいにしないと。お金の切れ目が縁の切れ目。貸したお金はあげたと思えだよ」
「ライ、こいつお金に困ったことないから言っても無駄。都合の良い女は都合が悪くなったらいらない女」
これからダイアナが戦えるようにダイアナを変身させて自信を持たせるのが大事だとリリーが騒いでいる。
ライでは物足りないリリーの意欲をダイアナにつぎ込むことになった。なんでも彼氏に合わせていたダイアナは普通に貴族の令嬢だがドレスも化粧も髪型も似合っていない。スレンダーなダイアナに幼げなフリルいっぱいの服は似合わない。そこからはダイアナに有無も言わせず、癒しとクリーン魔法をかけ、髪の手入れをした。
リリーの作ったドレスを着せ、今の化粧をふき取る。切れ長の目を生かさないと。ダイアナは目をつぶっているので、リリーはせっせと化粧をして髪を結いあげる。ライではできない楽しみを満喫している。
数時間後、姿見の前に立ったダイアナは、唖然とした。
鏡に映る自分は艶のある髪を柔らかく結い上げ、紺色のシルクのドレスを身に着けていた。胸元にフリルがあるが大げさでなく腰から下はわずかに膨らみがある型のデイドレスだった。わざとたれ目に見えるようにしていた化粧を落とし、薄く粉をはたいて目じりに紺色のラインを入れ落ち着いた紅をさしただけなのに大人びた自分がいた。
ああ、本当のダイアナ。今まで無理して幼く装うことで彼に合わせていた。そんな自分がいつまでもつか・・・本当の自分を知ったらもう無理だ。ダイアナは兄に助けを求め婚約解消に向かう決意ができた。夕方男爵家の迎えを待ってすっきりした笑顔を見せて帰ることができた。
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