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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
56/176

56 ダイアナの事情

 街の広場でよからぬ男に声かけられそうな女の子をライは助けた。

家に連れ帰った。ライは俯き重い足取りの女の子をどう慰めようかと思案していた。女の子はまだ涙が止まらない。


 泣きぬれて落ち込んでいた女の子は、ライの家の前に着いたら目を全開に開いて家と庭のあちこちを眺めた。庭に作られた小さな池の魚を覗き込んだりと先ほどのうなだれた姿が‥‥何処に行ったのか。


「このお魚ドレスを着ています。赤色や黄色や白色のドレス。初めて見ました。ここは花畑?妖精の森?子供の頃に読んだ本の風景そのまま。

素敵です!」興奮が止まらない。


「庭はいろいろな手が入るから気が付いたら池ができて魚が泳ぐ。季節の花が咲くように工夫されてる。この池の魚は森の奥に住んでいて珍しいみたい」

苦しい言い訳。


「ライ、この家に師匠以外人が来たことなかった」ポツリとグレイの声。

「あっ、そうだね。あの子たちが自由に庭を造り変えても困ることなかった」


今更困っても女の子を連れてきてしまったのだから仕方がない。でもこの女の子は大丈夫そう。不思議な出来事は不思議で納得してしまいそう。

 とりあえず家の中に招き入れお茶を入れることにした。泣きはらした目元をタオルで冷やしながら女の子の事情を聴くことにした。



 私はカール男爵長女ダイアナ14歳学院の4年。卒業後を待ってエドワード男爵長男フォルテスと結婚する予定だった。父同士が友人で家族ぐるみの付き合いで幼馴染。年齢も合うことから婚約するのは自然の流れだったしダイアナ自身不満はなかった。


 二家の男爵領は隣同士であり、事業などの提携も頻繁に行われていた。子供の頃は両家の領地を行きかうことも多かった。

 それが領都のタウンハウスに移り学院に通うようになるとお互い忙しくなり会う機会が減っていった。


 学業や友人との付き合い(人脈づくり)、男爵位を継ぐまでの間フォルテスは文官になる予定で就職で忙しいと言っていた。ダイアナも領地から領都に出てきて新しい友人ができた。母親に連れられお茶会に参加したりと社交を学んでいた。

 学院で顔を見れば彼は気安く手を上げほほ笑みかけてくれていた。会話はなくても程よい距離を保っているとダイアナは信じていた。


 今日はダイアナの誕生日。

以前から人気のカフェでデートの約束をしていた。朝から侍女にしっかり磨いてもらい彼の好きな柔らかいフリルの多いドレスを身に着けた。

 スレンダーなダイアナには似合っていないと思っても彼が好きなドレスを身に着けたいと頑張った。


 髪はハーフアップにしてドレスと同色のリボンで飾り付けた。心待ちにした彼は、すらっとした体に白いシャツ、紺色のラフなジャケットを羽織り、白のパンツがまぶしい。男爵家の馬車で迎えに来てくれ父に挨拶する。


『娘を頼む』と言う父に凛々しく挨拶をする彼が頼もしく彼の婚約者である幸せをかみしめた。彼のエスコートで馬車に乗り込んだ。


「ダイアナしばらくぶりだね。とてもかわいいよ。僕の天使」

ささやき手を握ってくれた。久しぶりの逢瀬にダイアナは舞い上がっていた。今思えば最初にお誕生日のお祝いの言葉が出てこないことを不審に思わなければならなかった。花束もプレゼントも準備されていなかった。

そんなことに気づかずダイアナは舞い上がっていたんだと思う。


 街に下りついて、カフェに向かう。道行く女性が彼を見る。自分の事のようにちょっと誇らしい。人気のスズランカフェに予約を入れておいたのでスムーズに奥の席に案内された。


 スズランカフェは今、女子に大人気のカフェなのでふらりと寄ったら待ち時間が長い。ダイアナは学院で忙しくしている彼が疲れないように予約を早い時期に入れておいたのだ。

彼はコーヒーに甘味抑えたブラックパンケーキ、ダイアナは紅茶とフルーツとアイスの付いたパンケーキを頼み、来るまでの間も今までの時間を埋めるように会話を楽しんだ。そんな時フォルテスが急に立ち上がった。


「ごめん 知り合いが外にいる。ちょっと席を外すよ。待っててくれるかい」


嫌とは言えない。我がままだと思われるのが嫌でにこりとほほ笑んで承諾した。彼が店の外に向かう。

ダイアナは窓を背にしていたので振り返り彼を目で追った。彼はダイアナを窓越しに見ることない。フォルテスは笑顔のまま窓から見えなくなった。

ダイアナは彼の笑顔が頭から離れなかった。


 出されたコーヒーと紅茶が冷めた。パンケーキのアイスが溶けた時ダイアナは何も食べずに店を出た。そして彼が通りすぎた方向に足が向かった。


 カフェの周りは木陰を作るように木々が植えられベンチがいくつか置かれていた。人目につかないベンチに黄色のドレスと彼が履いていた白のズボンが見えた。彼ではない。でもささやく声は紛れもなく彼の声だった。彼のベンチを背にして聞き耳を立ててしまった。


「だから言っているだろ。僕が愛しているのは君だけだ」

「だって・・・今日だってデートでしょ」

「仕方がないんだ。僕がちゃんと就職出来たら婚約は解消して君と結婚するつもりだ」

「でもお家の人が許さないでしょ。私は来年卒業なのよ。このままじゃ家の進める結婚を拒めない・・・」

「わかった。とりあえず一度君の両親にお付き合いの挨拶に向かう。僕の事情を話して僕の誠意を認めてもらう。

そうすれば無理矢理見合いや婚約はないと思う。僕はこれでも男爵を継ぐ。君の両親も先を考えれば僕との結婚を考えてくれる。僕に任せてくれ」

うそでしょ?


「マリアーナ嬉しい。今日来てくれる?」

「そうだね。君の不安を取り除くことが僕の務めだからね」

「でも今婚約者とデートでしょ。大丈夫?」

「大丈夫だ。今日は急に都合悪くなったといえばダイアナは『仕方ないわね』と言って許してくれる」

「そんな優しい婚約者と解消できるの?」

「僕は真実の愛を知ったから親の決めた結婚はしない。その辺は俺が上手く動くから心配しないでくれ。

婚約解消なんて相手に非があれば簡単だよ。非がなければ作るだけだ。ダイアナに断りを入れてくる。愛しているよ」

「私もよフォルテス・・・」


二人の会話を耳にしても現実味がなかった。抱き合う二人を残し慌てて店の入り口に戻った。


「ごめん遅くなった。生徒会のことでもめ事があるようだから急だけど学院に出向くことになった。店から家に連絡して迎えに来てもらってくれ。

この次はゆっくりとお茶しよう」

言いきらぬうちに走り出して先ほどのベンチのほうに消えていった。


 それからダイアナはどう歩いたか分からないが店から少し離れた広場のベンチに腰掛けていた。

フォルテスの『婚約解消』という言葉がダイアナの頭の中を巡った。


『非がなければ作ればいい』


どういうこと?これが誕生日プレゼント? 

 幼いころ領地で兄たちと一緒に遊んだ彼を思い出す。学院で手を振ってくれる彼。話さなくても繋がっていると思っていた。

流行の『真実の愛』という小説のようなことが起きているとは思わなかった。


どこが悪かったの?私が可愛くないから?燃えるような感情がないから?私ではだめなの?何が?何が?と思うだけで答えは出てこない。

あの時怒鳴り込めばよかった?

彼に彼女の前で拒絶されたくなかった。ああぁもう答えは出てる。


両親にどう言ったらよい?落胆される⁉家にも帰れない。


 そんなことを悶々と考えていたら涙が溢れてハンカチで目を押さえなければせっかくのドレスが汚れてしまう。

あああ・・パンケーキ食べておけばよかった。

そんなこと考えていても涙は溢れる。

誤字報告を沢山受け、反省と驚きです。

知らぬ間にブックマーク数が増えていたのです。

読んでいただく方の感想や助言に追いつかないことも多いと思います。

懲りずにこれからも付き合っていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割と言えるのは真実の愛とか言ってるの普通に浮気あるいは不倫だしそこ許容するにしても貴族としての義務をこなしてからだよなあ
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