53 契約詐欺(ファイル)の顛末と新しいレシピ(洗髪液)
今日はリリーのお勧めコーデで女性ライとして商業ギルドを訪問する。
冷却シートの契約についてだ。いつものようにグレイを肩に乗せている。商業ギルドに向かう道すがらお店を見ながら歩いているのだがなんか視線を感じる。
「グレイ、なんか視線感じるんだけどスリとか狙ってる?」
「ううん、悪意の視線はないよ。ただ・・・ライが女の子になったのに驚いているかな?」
「何その疑問形。もとから女の子でしょう。男だと言ったことはない」
「うんそうだね。男だと言ったことはないけど・・女の子だとも言ってない。見た目男の格好してたから誰もが男の子だと思っていたんじゃないかな。慣れるしかないよ。それにそのつやつやした黒髪が目立つ」
「黒髪は珍しいか・・・」
「珍しくあるんだけど髪が黒いほど魔力が強いと言われてるから貴族だと勘違いされたんじゃないかな」
「えーーーーーーすごい誤解 これから少しずつ髪を染めようかな」
「リリーが騒ぐよ。とりあえず外出時は編み込みしてまとめてもらったら。
リリー、ライの髪と服にすごく意欲燃やしてるから・・・・」
朝から張り切っているリリーの笑顔が浮かんだ。
「物珍しさも時間の問題だから慣れるしかない。もともと女の子だったと開き直れ。この姿で生きていくほうが長いんだから。悪意や危険は俺に任せろ」
グレイの何とも言えない助言にあきらめと脱力を感じた頃に商業ギルドに到着した。
「驚きました。この前までは少年かと思えたのに服装が違うだけでこれほど変わる。失礼しました。会議室でお話しさせてください」
ライと分かっていても見た目が違うだけで相手の持つ印象が変わる。
見た目が大切だと確認した。
ライの担当はピエールさんだがレシピ登録はなぜか忙しいはずの副商業ギルド長のアルバートさんらしい。
この間のモズ商会の件が決着した。
ファイルの契約書偽造はライ以外にも数名発覚した。ファイルの直属の上司とつるんで不正をしていたので発覚が遅れた。
さらに契約書偽造者は気が弱く文句を言わない人を選んでいた。
リチャットさんが不正に気付き調査名目で隣街の応援という形をとって内偵していた。今回は利益率の高い錬金薬に手を出してたのが間違いだった。
それ以外にも結婚詐欺まがいのこともしていてモズ商会やファイルの実家に苦情が入っていた。
結論としてファイルは免職となり実家から貴族籍をはく奪され平民となって裁かれた。違法契約によるモズ商会の損失と借金と結婚詐欺による慰謝料が重なり鉱山労働の刑になった。
モズ商会は違法契約に対しては従業員の管理不足としてファイルの払うべき損失を建て替えた。希望者には新規に契約をした。
もともとモズ商会は評判の良い商会なのでライは売買契約をすることに問題はなかった。
冷却シートは商業ギルドに使用権を売ることにした。
ライシーヌが作れる量は大したことないし派生する商品も数が多い。さらに水の魔石を粉状に細かく砕くのは大変なのだ。
水の魔石自体はクズ魔石でいいので価格的に問題ないが粉状にしてスライムの粉と混ぜ合わせるのに錬金窯が必要になる。それらを商業ギルドが管理運営してくれるのならライにとっては助かる。
ライは権利を売っても自己消費分は自作して問題ない。商業ギルドはこれを医療に役立てたいと言っていた。いろいろな形で世の中の役に立てばいいと思っている。
アルバートさんとピエールさんと記録係のソルトさん三人を前に羊皮紙の契約書に確認後署名して魔法契約を済ませた。結構な金額がギルドカードに振り込まれたが怖くて見られない。
会議室を退出する前にお世話になった三人に髪専用の石鹸液の詰め合わせをメッセージ付きで手渡した。このことが再度商業ギルドを騒がすことになるとはライもグレイも気が付かなかった。
ファイルとのトラブルの仲介に入ってくれた副ギルド長からの呼び出しで再び商業ギルドを訪問した。そこには笑顔満載のアルバートさんが待ち受けていた。
「素晴らしいです。わたくしたち貴族は髪に艶を出すために毎日洗髪して油を塗ることを繰り返しています。妻は髪に良い香油を使っていますがどうしても髪は傷んでしまうのです。
貴族令嬢はドレスや装飾品のほかに肌や髪に手をかけなければなりません。
素晴らしい効果でした。
香りの弱い方を私が使用したのですが洗い上がりが今までになくさっぱりする。乾かした後はさらさらとして艶も出て朝起きた時に妻と娘が驚いていました。仕事前にいつもの髪型にしようとするとまとまりが良くわずかな整髪油でこの通りです。
妻と娘に問い詰められ香りのよい洗髪液を二人が試したら言うに及ばず購入をせっつかれております。
これも登録しませんか?
いえぜひ登録をしてください。
私個人の問題でなく妻や娘の知り合いからも取引を求められています。私を助けてください」
「副ギルド長が使われた方は錬金術は使われていないので作るのは簡単ですが錬金術を使った奥様仕様は手がかかります。香り付けに洗浄石と清水など材料も種類も時間もかかります。
レシピは2つとも登録しますので作るのは…」
とても私一人では無理だしやるつもりもない。
「錬金術でない方をもっと良くする方法はありませんか?」
「そうですね・・・基剤の薬草が新鮮であること、油分をオリーブオイルや花の実のオイルなど工夫をすれば。香りは好みがあるからかえって無香料のものを作り見目の良い容器に入れる。どっちにしても浄化石の粉、あとは水のランクを上げるそれだけでも効果は変わると思います」
「そのレシピで一度作ってくれませんか?ヴァージンオイルと浄化石と薬草と容器は用意します。
一般用と上級品の試作品とレシピを完成してもらえませんか?
ところでライシーヌさんは商会を立ち上げませんか?自作の商品を思うままに取引できますよ。今は追随するところはないでしょうから」
とんでもないことを言い出した。
「商会を立ち上げるつもりはありません。地盤も知識も人脈もない身でですから。それより自分が作れるものを増やしていきたいです。
身に余るお金は必要ないです。レシピ使用料は低くても良いです。
できれば今まで石鹸を作っていた工房や下準備の工程を生活困窮者の働く場にしてもらえたら嬉しいです。私は孤児です。良い師匠に出会えて手に職を持つことができました。少しでも手助けできれば嬉しいです」
「わかりました。これに関してはこちらで取り回しをします。必要な材料は自宅に届けます」
ライが帰宅する頃、商業ギルドの使いが材料を多量に配達してきた。
「ライ忙しくなったね」
「まあ、色々助けてもらったからね。それに後ろ盾のない私でも商業ギルドを通すからある意味面倒事が避けられる。
グレイや地下のお友達に助けられてるからあくせく稼がないでも生活できる。まだまだ薬師のお婆のレシピ全部作れてないからね。
時間がたりない」
ライは自宅で魔力を使わず効果的な洗髪液のレシピを模索していた。
洗剤の実とアワアワの実の割合。実を細かく砕く。魔力を使えば簡単だが魔力なしにするには魔道具が必要。
浄化石も砕かないとならない。それらはアルバートさんに丸投げしよう。薬草は乾燥して粉状にしたものを使ってみたりと工夫して3種類のレシピを作り見本を添えて商業ギルドに届けた。
レシピ1 一般向けの安価な材料で作れるもの(従来の石鹸より洗いやすくパサつきがない・髪の艶が良い)
レシピ2 上級品で無香料のもの(洗い上りと髪の艶と張りを保つ)
レシピ3 上級品で香料を追加したもの(香りは個別オーダー・一般的な香料で先付けする)
あとは商業ギルドにお任せした。
誤字脱字報告ありがとうございます。




