51 ファイルの罪
モズ商会のファイルの怒鳴り声が商業ギルドの会議室に響いたとき 入口の戸を叩く音がした。
「モズ商会副会長シェント・ロックブリッジ様とお連れのリチャット・ウオークマン様が入室を希望されています」
すぐに許可され二人の男性が入室してきた。一人はリア師匠の取引をずっと受けていてくれたリチャットさんだ。
師匠の街に応援に出かけると言っていたのにもう戻ってきたのか。モズ商会の副会長とは大物が出てきた。どうなるのだろう。
「急な訪問を許していただきありがとうございます。今回モズ商会の従業員が商業ギルドに大変なご迷惑をおかけしました。
ライシーヌ様にもご迷惑をおかけしました。
ファイルが提示した契約書は偽造されたものです。
モズ商会では錬金薬に関しては金額を問わず魔法契約をしています。人の命にかかわるためそのつど鑑定士がランク確認をしています。
ライシーヌ様がリア様と納品したポーションは高ランクでした。ファイルが鑑定した記録でも高ランク。
それなのにライシーヌ様に振り込まれた金額がおかしいことに財務から問い合わせがあり精査したところ不正が見つかりました」
流れるように言葉が出てくる。
「ではこの話はモズ商会で預かっていただけますか?」
「ご迷惑をおかけしました。ライシーヌ様には正当な金額を振り込ませていただきます。また今回のご迷惑は改めてご挨拶させていただきます」
支店長のリチャットさんの顔を見てファイルは真っ青になり副会長の声を聞いて真っ白になっていた。リチャットさんの声掛けで二人の憲兵がファイルの両脇を抱え拘束しながら部屋から退出した。
「俺は貴族だ。お前たちの指示は聞かない。お前らみたいな塵は俺のために働けばいいんだ。父が許さないぞ!」
廊下で騒ぎ立てる声が響き渡っている。モズ商会の副会長は後日改めて報告に上がりますと再度挨拶して憲兵の後に続いた。
戸が閉まった瞬間に大きなため息が漏れた。
「大変でしたね。とりあえずモズ商会内のトラブルのようですからライシーヌ様は安心してください。
商会も大きくなると多少なりとも悪事を行う者がいます。不審に思うことがあったら商業ギルドに相談してください。
あっそうだ。ピエールさんギルドのティールームにご案内してあげてください。ライシーヌ様が登録したレシピを使ったデザートがあります。
食べていってください。のちほど私も下におります」
ピエールさんに案内された1階のティールームは冒険者ギルドと違い各テーブルに花が飾られ通路の間隔が広い、窓際にはソファーとローテーブルがセットされゆったりとした空間が広がっていた。
カウンターには何種類かの紅茶と本日のデザートと書かれた小さな絵が描かれた板が並んでいた。
ピエールさんが案内してくれたのは日当たりの良い窓際のソファーセットの所だった。紅茶とパンケーキセットを注文してくれた。家で食べるより華やかなお皿に何種類もの果物がきれいに飾りクリームが添えられていた。
「ライが何もしないうちに解決したね」
呑気な声がする。見ればグレイが髭にクリームをつけながらパンケーキを頬張っている。とりあえず解決したようなので気を取り直してグレイからフォークを取り上げパンケーキを口に入れた。
「美味しいですよね。このパンケーキが持ち帰れたらいいのに。妻と娘にお土産にできるのに」
とアルバートさんが声をかけながら向かいのソファーに腰を掛けた。
「このままは無理だけど工夫すればできるのではないですか?」
「どのように?」
食いつくように話を聞くピエールさんが怖い。
「このパンケーキのままでは無理です。果物は水分が多いのでベタベタになってしまうからドライフルーツと硬めのクリームをパンケーキにサンドする。
このような冷却シートを敷いた箱に入れれば少しの時間なら持つのではないですか?お土産にできるのでは?」
ピエールさんの目がきらりと光った。
「この冷却シートは?」
それから冷却シートの作成方法と使用方法を説明した。
冷却シートはスライムの粉から作るからごみとして畑や花壇に埋めると土にかえる。さらに布に塗布すると発熱時の冷却にも使える。
ライが妖精のティータイム用に作った物だ。精霊も妖精も夏に冷たいジュースや氷菓子が好き。
「これは素晴らしい。冷却庫で保管すればパンケーキがお土産にできる。それに冷水で冷やせば人にも使える」
「暑い季節には布にくるんで首に巻くとひんやりして過ごしやすいです」
「登録しましょう。これからの季節とても助かる人が多いでしょう。素晴らしいです」
興奮したアルバートさんに手を引かれまた2階の会議室に戻ることになった。
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