50 モズ商会ファイルの言い分
商業ギルドのピエールさんは、イートンの時の知り合いだった。良かった。会議室で話し合うことになった。
基本ライは何も間違ったことはしていない。トラブルの原因が分からない。
「ここでのお話は記録させていただきます。記録係のソルートとわたくし商業ギルド職員のピエールが立ち会います。それでは双方の言い分をお話ししてください」
「こいつは契約しているにもかかわらず納品をしてこない。契約違反だ。ろくすっぽ仕事ができないくせに仕事をなめてる。違約金か継続で納品するべきだ。できなければ裁判に持ち込み二度と仕事が出来なくしてやる」
会議室のテーブルを殴るようにたたきつけた。
さすがにライより数段大きい男性の怒鳴り声に驚いてしまう。
「落ち着いてください。それでは契約書を確認しますので取り寄せていただけますか」
「そんなもんいつも持って歩いている。こいつ何処に住んでいるか分からなかったから見つけた時が勝負だ」
「ではここに提出してください」
ファイルは紺色の三つ揃いの内ポケットから四つに折られた紙を取り出した。
「こちらが正式な契約書でしょうか?」
「そうです。ここに月づき10本の初級と中級のポーションの納品をすると書かれて契約者の名前には小僧の名前が書かれている。それにモズ商会の印まで押してある。よく見てくれ。間違いはない」
ピエールは用紙を確認しながら事務机のベルを鳴らす。ドアを開けた青年にお茶の用意と二三言葉を伝えた。
「ファイルさん、モズ商会では職人との契約は紙を使われるのですか?」
「当たり前だろう。紙以外に何を使う。商業ギルドはこの契約書に文句をつけるのか!」
「いえそんなつもりはないです。ただ正式な契約書は羊皮紙に魔力印を使うことを推奨しています。ただの紙は偽造されやすいからね」
「な・何言ってる。商会の印があれば問題ないはずだ。モズ商会は大きな商会だから商業ギルドは敵にしないほうが良いですよ」
ピエールさんとファイルさんの言い合いを聞きながら書いた記憶のない契約書にライは困惑した。
「だいたいこいつは碌に仕事が出来ないのに・・・」
「私はその契約書を書いていません。それに初級も中級もBからAランクの鑑定を受けて商業ギルドに買い取ってもらっています」
「何がBランクだ。商業ギルドはちゃんとした鑑定師がいないのか?こやつの製品に騙されている。きっと師匠のリアさんの作った物を自分の名前で納品したに違いない。冒険者ギルドではないのだから薬師の資格のない小僧から商業ギルドが取引するのはおかしくありませんか?」
勝ち誇った様に薄ら笑いを浮かべるファイル
コンコンと出入り口の戸を叩く音と同時にティーワゴンを引いた青年が現れた。
「少し落ち着きましょう。お茶とお菓子でもどうぞ」
勧められた紅茶から良い香りが部屋に広がる。殺伐とした空気が少し和らぐ。ノックされた戸から
「会議中失礼するよ。わたくし商業ギルド長アルバート・コンドリアと申します。ギルドのお得意様のライ様の困りごとと伺い、突然ですが同席させていただきます」
「この小僧が商業ギルドのお得意様???」
「先日薬師の資格を取得され、高品質のポーションを50本ほど納品していただきました。すべてAランクの鑑定でして製作者確認も済んでいます。決して偽造などなされていません」
商業ギルドのAランク鑑定士はギルドに持ち込まれる物品に対して盗品確認もするべく素材から製品まで事細かに鑑定できるスペシャリストである。
大きなギルドでも一人いるかいないかの存在。高額の取引の時に立ち会うことが多い。ライが薬師の免許を取得するときも立ち会った。
「それに高額の商品の契約は羊皮紙で魔力契約が当たり前です。こちらにはこのように契約されています」
出された契約書には薬師ライシーヌのサインがある。モズ商会のライ名義の契約書より10日ほど前の日付が書かれていた。
「ライさんがどうしてモズ商会と損をする契約をするのですか。それにサインも略式では正式な書類になっていませんね」
「だ・騙されたんだ。こちらの契約の違約金を!」
「契約はしていません。
鑑定に不満があったので納品した日に同じものを商業ギルドで売買したのです。正規な評価を得られないところに商品を卸すつもりはありません。
それにモズ商会の契約日、私はこの街にいませんでした。リア師匠の街に泊りがけで出かけていたのです。確かめていただければよろしいかと」
「小僧がどんな言い訳を言おうと契約書があるからにはこちらに納品してもらうか違約金を払え」
怒鳴り散らす声が部屋に響いた。
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