48 秘密の地下室
リア師匠がこの家を去って1か月。
庭の薬草と畑の野菜はモスとスラでしっかり管理されていて外で買うことがない。少し季節外れでも不思議としっかり育つ。
家の中は家事精霊リリーの控えめだった仕事がライの家になったらすごい勢いで屋根裏部屋から台所、各部屋を磨き上げ点検している。
朝食とお昼はリリーが担当して夕飯とおやつはライの担当になった。リア師匠は引っ越す前にきれいに確認したようだが結構広い屋根裏は入り口付近に古い家具があったせいかその奥は手つかずだった。
リア師匠が学生だった頃の教本から錬金入門や魔法の初級本、小説なんかも見つかった。古い家具はリリーが磨き上げて各空き部屋に配置した。本などは空き部屋の一つを書斎にして屋根裏に眠っていた本を棚に並べそこに薬師のお婆から贈られた本も並べた。
一つ一つをじっくり読むことがなかった。本を並べたことに満足せず足りないものを補っていかなければならない。学院の教材はライの偏った知識を補うのに良いとグレイが助言してくれた。
他にもご主人の日誌が数冊見つかりリア師匠に送ることにした。
「ライ様、錬金部屋に地下室があります」
リリーの声に驚いて錬金部屋に向かった。魔法で隠れた棚の奥の壁に魔力を流すと薬草棚が静かに動いて階段が現れた。
この家がライの管理に入ったことでリリーの家事精霊スキルが十全に発揮された結果のようだ。
リリーが掃除をしながらライのライトで階段を10段ほど降りるとそこには上の錬金部屋と同じように何時でも錬金できる部屋になっていた。製品もいくつか名前と共に収められている。
「毒・・毛生え薬、精力剤、美白薬、美顔薬、脱毛薬、避妊薬、堕胎薬・・・これって?」
「裏の錬金薬だね。使い方によって薬にも毒にもなる。
俺が以前旅を共にした男はこういう事に長けていた。それでも人殺しまでは手を出していなかった。一時的に体調を崩す。シミやしわを隠したい人の若返り?の薬。見栄の塊の男性なら毛生え薬や育毛剤はのどから手が出るほど欲しい。望まぬ妊娠なら安全な堕胎薬は必要だ。12歳のライにはきつい現実だな」
「この家に魔法が多く使われてるのにはリア師匠のためばかりではなかったのね」
「本人が作りたくなくてもこれだけの腕があったらきっとひとり立ちの条件が師匠の仕事の引継ぎかもしれないな。貴族の出だろうから家の事も絡んでいるかもしれない」
「そういえば、旦那さんが亡くなる前になんか難しい薬を作るために自ら採取に出向いたと言っていた。特別な依頼があったのかも。旦那さんはリア師匠を守るためにこの地下室を秘密にしていた。
知っていたらリア師匠が止める。危険な薬は作らせなかった。
顧客の貴族は薬が薬だけに表には出来ない。地下室の事を知らなければリア師匠が色々顧客に問い詰められても何も出てこない。
ここに来るのは商会の者か貴族家の使用人だろう。
地下室の存在を知らない。上の錬金部屋を探るしかない。何も出ないからリア師匠を探る人もいなくなっていたんだ」
それからグレイとリリーで効力のなくなった各種の錬金薬を処分することにした。いつの間にか階段を下りて来たスラがまあるい姿から口?の様な形を作って待っていた。
毒もあるのにと心配したが大丈夫だと指?の様に丸の形を表していた。最初は土妖精モスの通訳が必要だったのにこれを成長と言っていいのか。
とりあえず少しずつスラに食べさせていくとそのたびにスラの丸いからだが軽く光る。
「この錬金薬はスラにとって御馳走なんだろうな」
「この部屋どうしよう。私は使いたくないな。錬金釜は普通に使えるから食品用と錬金薬用に使おうかな。それに時間が経っていたとしてもこの地下室があることは知られない方が良いよね」
グレイと相談していたらリリーが手を上げた。この地下室をリリーやモス、スラの部屋に欲しいと言い出した。外から魔法のドアをつけて自分たちで改装するから任せてほしい。
そういえば最近外の東屋に多くの精霊が来ているような気配がする。家の中からはライしか開けられないなら自由に使ってもらっていいかも。人の手が必要なら声を掛けてと話した。
地下室には詳しい錬金レシピがあったがこれは処分せずライの収納に保管した。毒も薬、何かに役立つかもしれない。
苦心して開発したレシピを粗末には出来ない。自分が死んだら収納スキルで保管された物は消滅する。これ以上安全な保管場所はない。
リリーは楽しそうに地下の部屋の改装に励んだ。
ライが来た時用に人間用の椅子と大きなテーブルを欲しがった。屋根裏部屋の大きなテーブルとソファーを運び込んだ。
冷たい石の床は土に覆われ下草と共に小花が咲き木々が植えられていた。ホタルブクロの花が魔道具の灯りの代わりをしている。灯りは訪れた精霊や妖精が使用料として魔力を注ぐので常時明るいらしい。
保管棚はティーセットや茶葉、お砂糖にミルク、お茶菓子が保存された。残った引き出しは個人的な私室になっている。収納魔法が使えるのになぜか自分の部屋が欲しいらしい。狭いかと思えば空間拡張しているので快適な部屋になっている。
モスは戸棚の引手に可愛い花を飾る。リリーは箒とエプロンが飾ってあり、スラはゴミ承りますの看板が付いている。まるで集合住宅のようだ。
大きなテーブルには手造りの椅子やテーブル、ブランコにハンモックなどがのっている。
ライと一緒にお茶をするために大きなテーブルが欲しかったようだ。グレイとライで地下室に行くための小さなドアを新しく作った。もちろんライのみしか通れない。
忙しく楽しく地下の改装を手伝ったのちリア師匠にご主人の日誌を送って商業ギルドに向かった。
「ライ、商業ギルドの入口の向こうにあいつがいる。今日はギルドによらない方がいい」
モズ商会との取引を中止してから1か月たった。
別にライはモズ商会と契約はしていない。今まではリア師匠の契約の流れで納品していただけだからライが納品する義務はない。
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