47 ライの独り立ち 濃いい一日
今日はライが初めて自分で錬金薬を納品に行く日だ。
12歳の大人となって迎える初めての仕事だと昨夜からドキドキしていた。今までは師匠のお使いとして納品に出かけていた。支払いは師匠から渡されていた。
今日からは自分で仕入れから商品の売買・税金に各ギルドとの正式な取引をしなければならない。まずはいつもお世話になっているモズ商会に回復薬を納品に向かった。
「ライちゃん今日から独り立ちだね。リア師匠からしっかり学んでよい商品をこれからも納めてください。
これからライちゃんの担当をするファイル君。彼も鑑定ができるから心配しないでくださいね。
本当は私が担当したいのですがリア師匠の転居先に追いかけてというのは冗談ですが向こうに欠員が出たので一時的に応援に行くことになりました。
ライさんの門出を見てから向かおうと待っていました。
会えてよかったです。リアさんに良き報告ができます。では後を任せたよ」
そう言って顔見知りの担当者が去ったあととんでもないことになった。
「今までリアさんの顔を立てたかもしれないけどそんなことでは君のためにもならないから」
そう言い出して納品の初級、中級ポーションは出来が悪いと以前の半値。ほかの錬金薬も軒並み値下げされた。自分で製品の鑑定ができるライには納得できなかった。
「来週も同じものを納品してください。もう少し腕を上げていただかないと困りますね。このままでは取引を続けるか考えさせていただきます。甘やかされていたんでしょうね」
ムカつく! 肩の上でグレイが毛を逆立てている。
ここで喧嘩をしても勝ち目はない。向こうはきっと貴族だろうから とりあえずここは引くことにする。
「ご指導ありがとうございます。申し訳ありませんがまだ半人前のためしばらく納品は控えることにします」
ライは控えめな声を出す。
「お前だって生活が懸かっているだろう。この程度の品を買ってくれるところはない。死に物狂いで働けばいいんだ。
甘えたことを言っているな。うちの商会に歯向かって商売できると思うな」
とりあえず次回の納品を受けずに帰宅することにした。
モズ商会とまだ正式な契約はしていない。今日の納品の後に契約する予定だったがファイルが忘れたのかわざとなのか契約しなかった。
以前はリア師匠の契約で仕事をしていたので納品の義務があった。ライには関係ない。
3か月前からは回復ポーションの8割はライの製品を納品していた。今になってランクが低いと言われても納得できるわけがない。
ただリア師匠の弟子だけではライにはまだ実績も力もない。怒り狂うグレイを宥めこれが大人への試練と思うことにした。
ライは薬師のお婆にリア師匠、ボブさんと良い人に恵まれていた。そしてグレイがいる。孤児が良き相棒に恵まれ仕事につけて家まで持てたのだから驚きを越して奇跡みたいなものだ。
今思えば森で捨てられたライを拾ってくれ売ろうとしてくれた村人に感謝かもしれない。誰にも束縛されたり命令されたりせずに生きることができる。
家族となった精霊たちとグレイを守るのが今はライの大切なことだ。大切なことが分かっていれば嫌な奴に一時的に頭を下げるなど簡単なことだ。
それからライは商業ギルドに向かい薬師の資格の申請をした。
本当は薬師ギルドに登録すれば早いが薬師ギルドの制約が結構厳しい。納品先の制限やランクの制限、商品によっては買値が高くなることもあるが強制依頼もある。
リア師匠は夫婦そろって登録していたが旦那さんが亡くなって強制依頼が消化できなくて薬師ランクを落とされ同じ商品でも買値を叩かれたことがあって自由度の高い商業ギルドで登録しなおした。
ただ薬師ギルドには薬草が潤沢にあるので自分で薬草をそろえられない薬師はどうしても登録せざるを得ない。
薬草採取ができる薬師など少ない。また希少な薬草も取り扱っているうえに薬師ギルドは国中にある。冒険者ギルドと同じで組織のつながりが広いのも強み。ライは自由度が高く繋がりのある商業ギルドのほうを選んだ。
薬師のお婆の資格書とリア師匠の推薦状で大きな問題がなく資格を取ることができた。これからは自分で商業ギルドや冒険者ギルドに正式に取引ができる。
今までも冒険者ギルドに納品はしていたが薬師のお婆の資格書で臨時扱いだった。薬の欲しい冒険者に少しでもと簡易手続きを許されている。
正式な薬師が冒険者ギルドに納品するには一時的に薬師ギルドを通すため高値になる。まあもともと薬草の取り合いで仲は良くない。
薬師の資格を取ってのち商業ギルドにモズ商会と同じ品を売ることにした。買取専門の部屋で二人の鑑定人が確認して取引をした。さすがに商業ギルド七三に髪を撫でつけ三つ揃いの制服を着た紳士が現れた。
「いつもお世話になっています。商業ギルド副ギルド長アルバート・コンドリアです。薬師資格取得お祝い申し上げます」
丁寧な物言いに驚いた。
その後砕けた口調で話してくれた。以前住んでいたヨルンの街の冒険者ギルドの筋肉モリモリの酒場のマスター、マックダラスの知人らしい。酒を飲むたびにうちのライが新しい料理を教えてくれる。美味しいんだといったらしい。
レシピや使用調理器具などヨルンの商業ギルドに登録が多くされている
「ぜひこの商業ギルドに新規レシピの登録をお願いします」
言われてしまった。自分の所でライのレシピの新規登録していないのは悔しいとまで言われた。
もちろん納品した錬金薬のランクも十分で回復ポーションはAランクに近いとほめてくれた。これからも良い取引をと挨拶して帰宅した。
濃い一日だった。
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