43 錬金薬との出会い
私の寝台横の椅子に座りうとうとしているライ。足元に丸まっている妖精猫のグレイ。部屋を暖かく保ってくれている屋敷精霊のリリー。
あたたかなシチューに甘いプリンというお菓子。姉の作ってくれた魔力ポーションの懐かしい味と魔力の回復。
これが縁なのか。あなたの愛したこの子に出会えてよかった。
息子が一人立ちした後も、夫婦で錬金薬を色々作っていた。夫頼りだったと今ならわかる。夫を亡くしてからは自分のできる仕事は少なかった。
子供に頼りたくない。夫と暮らした家を出たくない。
そう思っても一人暮らしは、張りのない生活だった。
もとが貴族であったので炊事や家事は得意ではなかった。便利な魔道具をふんだんに取り入れた家は夫が準備してくれた。
夫は器用な人で料理ができる人だった。この家に住むようになってから毎日台所に一緒に立って料理の手ほどきをしてくれた。
料理も錬金と一緒だと夫は言っていた。
必要な材料をそろえ鍋に入れて味付けをすれば良いと毎日スープとパンと果物を食べていた。時には外食に行くこともあった。
夫は錬金でパンやクッキーを焼く。楽しい日々だった。
二人の魔力の相性が良いのか錬金薬のランクが高く仕上がる。特殊な傷薬や回復薬、美肌クリームなどは錬金ギルドに登録して個別に対応して作っていた。夫は研究好きでもあったが素材採集も趣味でもあった。
出先でいろいろな素材を集めては何かに生かせないかと部屋に閉じこもる。
仕事仲間と出かけた先で事故にあい、わたしを置いて逝ってしまった。
その死を受け止められず息子の同居話をけってここに残った。
夫の残してくれた商品の登録利用料で一人暮らしは賄えた。
私一人で作れる錬金薬を細々作ってきた。
息子のところに孫が生まれたのでそろそろ本格的に同居の話が持ち上がっている。一人暮らしも潮時かと思っているところに体調を崩しライちゃんのお世話になった。
わたしと違い孤児であっても心が曲がらず冒険者をしながら自分の食い扶持を稼いでいる。読み書き計算もでき薬師の知識もある。
魔力量は平民ではありえない量を持っている。妖精に好かれることは特別なこと。妖精魔法の使い手ぐらいしか妖精を見ることはできない。
グレイはいつもライを守っている。リリーは家を整え家事をしながらライのお菓子を美味しそうに食べている。
夫にも会わせてあげたかった。だって不思議なものが大好きだったから。
幽霊が出るという屋敷の探検に行ったり迷いの森に何度も踏み込んで迷って帰ってきたりしていた。
来年には息子のところに行くことに決めた。
それまでにわたしの学んだ錬金の基礎をライに伝えていくことにした。夫の残した素材やレシピ・研究資料を託していこう。
わたしを心配してこの部屋にとどまっていてくれるライに声をかけ安心して部屋で休んでもらおう。明日は久々に開かずの錬金部屋の掃除をしましょう。
ライはいつの間にかうとうとしてしまった。目を瞬きさせながら体を起こす。リアおばあさんの手足が温まり、顔色も良くなった。
「もう落ち着いたから、ライは部屋で休め。ここは俺がいるから」
グレイに後を頼みいったん部屋に戻ることにした。
凄かった!! 魔力を流すことには慣れていたが魔力を奪い取られる感覚は初めてだった。錬金窯にヒヤリン草を入れたころから錬金窯の中が濃い青色に変わり、錬金窯の中から霧のような冷気が立ち上ってた。
リリーのおかげで部屋の中はそれほど温度が低くならなかったけど、錬金窯の周りだけは凍りつきそうなくらい寒くなった
錬金窯の中は冷気の霧で何も見えない。どんどんリアおばあさんの顔色が悪くなり支える体は冷え冷えしていった。
「ライ、リアおばあちゃん限界かも」
「魔力を流して!」
と声をかけながらすぐ横のソファーにリアおばあさんは倒れこんだ。ここまでしても錬金薬は作れていない。
リアおばあさんの代わりにライは魔力を奪い取られる。一瞬心臓がキュンとなった。氷のように青々とした色が真っ白に変わる。
先ほどまで感じた冷気は霧散した。薬壺に真っ白な錬金薬を詰める。
薬師のお婆のもとで初めて目の前で調剤を見た時と同じ胸の高まりを感じた。
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