4 家出には 準備が大切! 2 魔法が使える!凄い!
ライは毎日朝早くから夜遅くまでお婆の家で過ごすようになった。
文字の読み書き・計算・薬草の採取・薬作り・街の事の勉強・炊事・森歩き・小動物の狩りと解体・自衛の訓練。今までしたことないことがどんどん追加される。
お婆は薬の師匠に連れられて、あちこちの街や村を回って歩いたことがあるらしい。
希少な薬草を探すために知らない森を歩き、山も谷も越えた。
野宿すれば、狩りをして食べるしかない。
お婆の薬の師匠は名の知れた人だけど破天荒で、気の向くままあちこち出かけたらしい。薬に対しては厳しい人だけど生活力はなかった。
お婆は師匠について行くために薬以外なんでもできるようになった。
だって師匠は薬の事しか考えない人。でもお婆のことは気に入っていたので、あちこち連れまわした。
今までは、お婆の邪魔をしない良い子でいる事が一番だった。
でも、今は違う。出来る事が増えるのがこんなに楽しいと思わなかった。ワクワクしてとても楽しい。
ちびが家出を考えてるなんて、養い親たちは微塵も考えていない。
野良仕事もできない。役に立たない、いらない子供。
「今日もお婆の所でいい子にしていな」
今日も追いだされている。養い親にとって、必要な時は村長さんが読んだり書いたりしてくれるから、
ライが字の読み書きや計算ができても関係ないんだ。
村長はもうすぐライの人頭税が必要になるため、いつまでもライを隠しておけない。その前にライの処遇を考えなければならず、
ライが売られるのは必然だった。
ライはお婆ちゃんが魔法が使えるなど知らなかった。そもそも魔法という言葉さえ知らなかった。売り飛ばされるということより、ライには衝撃的だった。
基本庶民は魔力持ちが少ないので魔法を使えないし、使おうとは思わない。さらに魔法は教わらないと使えない。
庶民に魔法の使い方を教えてくれる人はいないし、使えても魔力が少ないから大した魔法が使えない。
ライは村長さえ使えない魔法を使えるようになることに夢中になった。
魔法は貴族の特権らしい。だから貴族でも魔力が少ない子供は、蔑ろにされる。お婆は、魔力が少ないから薬師で身をたてたと話していた。
お婆は元は貴族というものかもしれない。
『今は、田舎の薬師をのんびりとやっているように見えるが、苦労をしたんだぞ』と皴皴の手をさすりながら話してくれた。
「ライの中に魔力が眠っていないかちょっと調べてみよう。
コップ1杯の水でも、種火でも出せたら 旅はとても楽になる」
お婆の手から水が出た。指先にろうそくの灯がともってランプの様に明るく周囲を照らす。
お婆は、ライの両手を左右それぞれ握る。
「お婆の手から魔力を右手に流すよ。痛かったり 気分悪かったらすぐ言うんだよ」
目を閉じて、お婆の右手に気持ちを集中させる。
「あっ ピリピリする」
「ピリピリがどこに行くか、追いかけて」
「お腹の真ん中が温かい」
「そうだよ。そこに魔法の素がある。そこに集中して、薬草を揉むようにしっかり力を入れる。ゆっくり動かして左手に流す」
「無理!動かない」
「出来なくてもいい。毎日寝る前にお腹の魔力の素を意識して、動かしてごらん。出来たら儲けものだと思うくらいでいい。
体の中をぐるぐる駆け巡るようになるといい」
魔力があるんだから、必ずできるとお婆は言った。お婆の言葉に嘘はない。
魔力を指に集めれば、小さな火・コップ1杯の水・そよ風・身を清めるクリーンなどの生活魔法が使えるようになる。
それができるだけで、生きていくのが楽になる。
「お婆が一人暮らしができるのは、生活魔法の助けがあるからだ」
毎晩布団の中でお腹に手を当てて、ぐるぐるさすりながら魔力を動かす練習した。少し動けば右手に向けて魔力を流す。
魔力の塊は動きづらいが線の様に少しなら動かせた。それならと 体中に炭で一筆書きの線を描く。
指を線に沿って動かしながら、魔力の線を動かした。
指も体も炭で真っ黒になって、川で体を洗う羽目になった。でもとても分かりやすかった。秋の終わりには、少しの水と火種用の火花・小さな明かりを灯すことが出来た。
「ライ、魔力は人によって塊の大きさが違う。使いすぎれば頭が痛くなったり、吐き気がする。意識を失って、魔力枯渇で死ぬ人もいる。
生活魔法ぐらいなら心配いらない。
お婆には、ライの魔力量も生活魔法以外が使えるかも分からない。
だから街に出て誰かに教わるまでは無理をしてはいけない」
生活魔法が使えるようになって、水汲みが楽になった。火起こしが簡単で炊事も楽だ。
冷たい川に入らなくても、体をきれいにできた。洗濯物が早く乾く。今では、街での暮らしが楽しみになっていた。
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