37 リアおばあさんの家に間借りする。
ライは倒れた錬金術師のリアおばあさんの所に数日見舞いを兼ねながら食事を届けた。
そして商業ギルドで家を探すことにした。成人してないが商業ギルドに蓄えがあった。もうすぐ成人ということで家を紹介してくれることになった。
グレイと二人暮らしで畑になる庭と井戸があるこじんまりとした家が希望だった。
しかしギルドの紹介する家はどれもお屋敷と言ってよい家ばかりだ。商業ギルドに預けてあるお金を全部使うわけにいかない。買取にしたい。
中には貴族の愛人が住んでいたという古めかしいのにギトギトハデハデに装飾された内装のお屋敷まである。
店舗付きの家もあったが本通りに近いので結構な金額になる。
どれも随分放置されていたせいかライもグレイも乗り気にならなかった。
商業ギルドの職員はどうしても買わせたかったようだ。
まだ時間があるのでもう少しゆっくり探すと言って今回はあきらめた。
グレイは街猫に空き家が無いか声を掛けると言って出かけてしまった。この街でも街猫と馴染んでいるようだ。
そんな時リアおばあさんから間借りしないかと誘われた。ついでにライは魔力がある。薬師の資格もある。基礎ができているから錬金薬を学んでみないかと声を掛けてくれた。
薬師の世界は薬師ギルドを中心に回っている。ライの様に一度師匠に着くと他の師匠に替わるのは難しいらしい。
調剤のスキルを持った子供は12歳頃から薬師のもとで下働きをしながら下積み生活をする。みどころのある者が師匠の技術を学ぶ。
薬師の技術は秘匿されることが多い。傷薬や痛み止め熱さましなどの日常で使われるものはそれほどでないが師匠固有の技術は跡取りにしか伝えない。
そのために下働きから見習いになっても頭打ちは目に見えている。早い者は早々に転職していく。
他の薬師に紹介状は書いてもらえない。つまり薬師を諦める。自分たちの技術が盗まれるのを防ぐために慣例化していた。ライが入り込む余地はない。
薬師のお婆に貰った薬師資格の譲渡書があるから細々でも薬を作って販売できている。ライにとっては渡りに船の申し出であった。
「錬金術!凄いよライ勉強しな!
錬金術で作るパンは柔らかくて美味しい。
お菓子は砂糖が少しでも甘いんだよ。
ジャムなんか砂糖いらずでできるんだ」
なんだかグレイは他の事で乗り気だ。冒険者ギルドの宿の立ち退き期限も近いのでリアおばあさんの可愛い家に間借りすることにした。
この時はこの家を譲り受けるとは思っていなかった。
何度か泊ったこともあるので部屋や台所はよくわかっていた。台所の隣に水回りの付いた作業部屋があった。
リアおばあさんのご主人が生きていた時はこの部屋を錬金の工房として使っていた。今はほとんど使っていない。
簡単な錬金薬を作って生活をしていたようだ。錬金に必要な素材は全部購入しなければならない。リアおばあさんは錬金術師としては魔力が多いほうではなかった。
リアおばあさん一人では大掛かりな錬金は出来なかった。旦那さんが亡くなってからは台所の水回りを使って調剤していたようだ。
今回の過労で倒れたことがリアおばあちゃんには結構身に染みたようだ。
アリーリアには息子がいるが錬金には興味が無く隣町に住んでいる。いずれはこの家をたたんで・・・と思っていても錬金工房中心に作られた家を売るのは難しい。
更地にするのは簡単だが亡くなった夫が作ったこの工房を簡単に潰せない。だからと言って錬金術師で買う人はいない。
ある程度仕事が出来る者は貴族のお抱えか、大きな商会に勤めて自分に合った工房を作ってもらう。夫の様に自分の家に工房を作って街の商店に薬を卸すことはしない。
夫は貴族の三男坊として自分の食い扶持は自分で稼がなければならなかった。同じ師匠の下で錬金術を学び、縁あって結婚した。
自分たちは貴族籍を抜け平民になった。両方の親から貰ったお金でこの家を建てた。
平民の生活を知らない私たちは師匠の伝で素材を購入して商品を作り店や各ギルドに卸すことで十分に生活ができた。
家からついて来てくれた侍女が少しずつ家事を教えてくれた。夫は家事がしやすいようにと魔道具を作った。
食品を冷やす箱や洗濯をしてくれる箱・魔石コンロは工房と台所にすぐに設置してくれた。
夫に守られながら一通り家事ができ無事に子供が成人した頃侍女は高齢になって仕事を辞めて子供の所に帰っていった。侍女の給金は実家が持っていたことをその時知った。
夫に支えられながら錬金薬を作っていたが事故で夫を亡くし独り身になった。夫が残してくれた仕事を続けることで生活は困らなかった。
ただ自分だけの魔力で作れる薬は多くはない。子供たちの世話にならずにと思うようになった頃自分の体力の衰えにきづいた。
可愛いライちゃんが親身になってリアを気遣ってくれた。孤児ではあるが薬師の資格もある。さらに平民にしては魔力が高い。生活魔法と言いながらそれを超える魔法技術はこのまま薬師で終わるには惜しい。
息子の所に行くのは先に延ばしてライちゃんを育ててみたいと思った。
リアおばあさんの家は1階はリビングと台所と工房と部屋が二つ、2階は主寝室と客間が一つとリネン庫があった。
リアおばあさんは足腰が弱りほとんど2階は使っていなかった。客間の一つをライが使うことにした。
さすがに錬金術を仕事にしていただけあっていろいろな魔道具が使われていた。台所に保冷庫があった。魔石コンロと魔石オーブンもそろっている。
でも最近使われていない様だ。魔石は高い。
リアおばあさんの夫を失ってからの生活は普通の庶民の生活に近かったのかもしれない。でも台所によくある水瓶が無い。流しの横に魔石の付いた蛇口があった。
水洗トイレは外せない物だから使い続けていた。
トイレの横にあったドアの奥に小さなお風呂。さすがに多量のお湯を使うには多くの魔力が必要になる。しばらく使われていないようだった。
リアおばあさんと相談して錬金術を学ぶ代わりに家事はライが担当することにした。ライはギルドに行く時はお弁当持ちなので一緒にお弁当を作って置いた。
夜はお風呂にお湯を張りリアおばあさんに声を掛けた。
「まぁまぁ、久しぶりだわ。魔力大丈夫なの? 無理してない?」
「これが髪洗い用の洗剤液と体用の石鹸、私が作った物。使ってみて」
リアは久々に湯につかり体を芯まで温めた。ライの渡してくれた洗剤を使ってみたら潤った肌に驚いていた。湯上りに髪を乾かしてもらうとあら不思議つやつやの髪になっていた。
貴族は香油をつけたりしてお肌や髪を整えるのに、洗うだけでしっとりしているなんてとリアおばあちゃん驚いてしまう。髪乾かしは魔法の複合使用。
本来魔法は攻撃魔法。
日常生活に魔法を使うのは生活魔法のみ。生活魔法は単一の弱い魔力で起こる現象だ。
数種類も使える者などいない。さらに魔法は貴族のものであり研究機関は国の管轄。
『便利なら使えばいいのに。魔力なんて寝て起きれば元に戻っている』とライちゃんは気軽に言った。
この子を育てた薬師はなかなか破天荒な人物だったろうと思った。
若いって素晴らしいわね。今からでもライ先生に教えを請いたいと思った。
思わず笑みがこぼれた。
誤字脱字報告ありがとうございます




