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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
35/176

35 ライと友達

  ウエートの街でライは順調に仕事をこなしていった。

ギルドの簡易宿泊所の台所はライの使いたい放題だった。他にも住んでいる人がいるが自炊する人などない。

 早朝から依頼を受けて稼いだお金も酒と食事で消え、宿には帰って寝るだけ。ここが最低だから早く出たいと思う人ばかりで出入りも激しい。


 それはそうだろう、部屋の掃除や洗濯は自分でしなければならない。お湯さえ沸かすことが出来ない。隙間風にぼろい部屋、隣の音はうるさい。ライ以外ここが快適だと思っていない。


 そんな生活の中でライはセリーヌという11歳の初心者冒険者に出会った。セリーヌはライより背が高いがライと同じように痩せている。とても冒険者で生きていけそうにない。ライが台所に立つと柱の陰からライをじっと見ている。自分を見ていると思ったらライの台所仕事を見ていた。


「一緒に食べませんか」

ライはセリーヌに声を掛けた。

 ヨロンの街で出会った孤児院の子供のようだ。声を出さずに頷いたセリーヌは一口食べた野菜たっぷりのスープを夢中で食べていた。



 セリーヌは働き者だった。

孤児院を10歳で出るのを人手が足りなく1年残った。11歳で卒院したのは良いけど仕事が見つからない。娼館に行くぐらいなら冒険者になることを選んだ。


 読み書きも計算もできず孤児院で子供の面倒や炊事をしていたセリーヌは冒険者の何たるかもわからない。受付の人にとりあえず1年ここに住んで世間の事や冒険者の仕事を覚えた方がいいと諭されたらしい。


 孤児院では貧しくても食事は与えられたし夜露をしのげる家もある。古くても寄付された服を貰うことが出来た。

 今は全部自分の稼ぎで賄わなければならない。買い物などしたことが無いのでお金のことも分からない。冒険者ギルドの講習を受けても分からないことだらけだった。


 孤児院上がりの男の子は冒険者になっているだろうに顔を見たことがない。助けてもらうこともできない。やはり娼館に行くしかないのか。卒院したお姉さんは最初は身ぎれいになってキラキラしていたのに目の下に隈を作り手足に痣さえ作っていった。


「ここに来ちゃだめ」

そう言ったマグ姉は死んじゃった。

 怖かった。卒院が1年延びたことに安堵したのもつかの間、1年後の生活をどうするのか不安しかなかった。孤児院の生活はそんな不安を失くすほど忙しく疲れるものだった。これが仕事というものだと言われた。


 私達孤児は貧しく辛い生活だと思っていったがそれでも守られていると知ったのは卒院してからだった。読み書きもできず口下手なセリーヌは仕事が見つからない。

身元保証人が孤児院の場合あってないようなものだ。孤児院とつながりのある冒険者や娼館、日雇い仕事ぐらいしかない。


 セリーヌは小さな袋に数枚の着替えと、卒院祝いのわずかなお金を持って冒険者ギルドに向かった。もち金で冒険者登録はできた。受付のお姉さんが心配してギルドの簡易宿を紹介してくれた。


ひょろりとした孤児と分かる女の子の冒険者登録はしたくはないがお金さえ払えば手続きをしなければならない。どこかのパーティーに誘われていつの間にか消えている。それでも生きていかねばならない。せめて夜露をしのげる宿をとギルドの宿を薦めた。



 セリーヌは真面目だった。

迷いの森など行けるわけなく街中の仕事を少しずつこなしていった。草むしりや溝の掃除洗濯や皿洗い賃金は安いがどうにか暮らしてはいける。この安いギルド宿なら・・・また1年後の不安が今度は恐怖となってセリーヌを襲った。


 そんな時鼻歌を歌いながら炊事をする女の子を見た。身ぎれいな10歳ぐらいの子供だった。

年下にもかかわらず街の外に出て薬草採取をしていた。時に角兎を捕まえてくるときもある。いつも猫と会話をしているように肩に乗せ歩いている。


 セリーヌも孤児院で炊事はしていたので多少の料理は出来る。でも魔石は高いし鍋もない。今日も美味しそうなスープを作っていた。


 ライとセリーヌは同い年で孤児同士と分かるとすぐに打ち解けた。二人とも同じ年ごろの友人がいなかったからだ。ライは町中の仕事をセリーヌと一緒に受けるようになった。

 自炊も二人で行い裏の畑も二人で耕した。お湯で体を拭いて髪を洗う。


 セリーヌは栗色の髪に同色の瞳色白のきれいな子供だった。繕い物ができるので古い服を手直しして着替えさせた。

それだけで街中の仕事がやりやすくなる。ゆっくりだが読み書きと計算を教える。ライの方が半年早くここのギルド宿を出る。それまでにセリーヌを得意な仕事に就かせてあげたい。


 ヨロンの孤児院はシスターがしっかりしていたから読み書きは教えていた。街も小さいせいか孤児に優しかったと思う。だってセリーヌは冒険者では生きていけない。

 半年近く経つころにはセリーヌは一人で街中の仕事をこなせるようになった。


 その中でも飯屋を営んでる夫婦が読み書きができる事と厨房も配膳やお金も取り扱えるセリーヌを正式に雇いたいと申し出てくれた。

 冒険者ギルドが間に入り待遇面やお給料について立ち会ってくれた。最後には養子にという申し出があった。

孤児を引き取って酷使することもあるのでしばらくは契約して働く方が良いことになった。


 もちろん入れ知恵はライだった。セリーヌは養子にという話に喜んだがまだお互いの信頼関係がしっかりできるまでは待った方が良いと伝えたのだ。

 真面目なセリーヌはしっかり働くだろうけど身なりを整えればそれなりにきれいな子供だ。

 

これでもう少し年を重ねれば・・・この先はライにもよくわからないが薬師のお婆の様に大切に思ってくれる人を見つけてほしいと思う。それが飯屋の夫婦ならもっといい。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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