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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
32/176

32 グレイ誘拐事件の顛末

 ライを囮にグレイを捕まえる計画を聞いてライは考えた。

グレイは解決するまでライに隠れていてほしいと切に願った。しかしライは今まで多くの人に守られてきた。いつまでも守られているわけにはいかない。


 もうすぐ成人する。自分が冒険者だけで生きていけないことは分っていた。ライには魔物を狩ることや盗賊を殺すなどできない。十分な攻撃力も技術も決意もない。

それでも多くの人に恵まれているからこそ、甘えずこれからの生き方を考えなければならない。


 今のままでは薬師になることも夢のまた夢。嫌なことや辛いことから目をそらしてはいけない。

それも大切な相棒の危機に自分が隠れているだけでは、あまりに情けない。この気持ちをグレイに素直に伝えた。


 何百年も生きたグレイには、ライはいくつになっても幼子なのかもしれない。それでもライは成長しているし、成長していきたい。

グレイの危機をライは助けたい。ライの思いを知ってグレイだけでは人を裁くことが出来ないことも現実問題だった。

二人は夜遅くまで話し合ってある計画を立てた。


 ライは次の日から同じ道を歩いて冒険者ギルドに向かい、薬草採取をして街に戻ることを繰り返した。グレイは姿を隠してライの肩に乗り、周りの気配を探った。

 何度目かの薬草採取の帰りに、後ろからガタガタと荷馬車が追いかけてきたと思ったらライの頭から麻袋をかぶせて縛り上げられた。

ライは気を失ったかのように、麻袋の中で静かに横になった。


「親方、やっぱり子供だな。驚いて気を失ったようだ。これなら問題なく門を通過できますね」

「このまま門を通過したら商会の裏の小屋に運ぶぞ。猫が探しに来たら捕まえる」

「最初からこうすればよかったすね。この小僧はいつものルートでいいですか?」

「まあ見目がいいし子供だから好き者にはたまらないだろうから、高値で売れるだろうよ。今回は苦労した分手当も弾んでくれるだろうから楽しみにしてろ」


 軽口を叩いているうちに門に到着した。門兵にアキンド商会の木札を見せて門を通り過ぎようとした時

「ニャー、ニャー」

グレイが荷台の上で鳴き出した。


 先ほどまで猫はいなかったのにと慌てる。

門兵はグレイの方を見ながら

「グレイどうした。ライと一緒でないのか?」

グレイは鳴きながら荷馬車をカリカリと音を立てて爪を立てる。


 グレイが追われているのを知っていた門兵は、いつもの穏やかでないグレイの様子に違和感を感じて荷馬車を止めた。

グレイは門兵を導くように荷馬車の中に潜り込み、床をカリカリと掘り出した。


 床下からガタガタと音がする。よく見れば隠し扉になっている。もう一人の門兵を呼んで隠し扉を開けると、麻袋に入れられたライを発見した。


 この時点で門兵から街の憲兵に事件が引き継がれた。引き止められていた犯人は捕まり、依頼主はアキンド商会の主と判明した。しかし捕まえるにはまだ弱い。

決定的な証拠が欲しい。


 アキンド商会の馬車と木札だけでは容疑を確定できない。盗まれたと言えばそれまでだ。単なる口約束では大商会の主を問い詰めるなどできない。

 とりあえず誘拐犯を問い詰めれば、「ライを捕まえて猫を売り渡して、ついでに人身売買のルートを使ってライを処分するつもりだった」と話した。


 人身売買の組織を芋づる式に捕まえることになった。街のスラム近くの小屋にまだ売られていない子供がいることが分かり、助け出された。

 人身売買が発見されなかったのは、孤児院がかかわっていたから。優しそうなシスター長が裏で見目の良い子供を売り渡していた。

街を上げての大騒ぎになった。


 止まり木亭では女将さんに抱きしめられた。

囮になったと知ってこんこんと叱られた。

 アキンド商会の倉庫の飼い猫がいなくなった。街中のネズミがアキンド商会の数か所の倉庫に集まり、商品を食い散らした。


 屋敷でもネズミが暴走し、それを追いかけ街猫が部屋という部屋を駆け巡った。壁や絨毯カーテンなどを引き裂いた。

隠れ部屋までネズミが壁に穴をあけ押し入り、隠し金が現れた。


 ネズミが集まれば黒い悪魔が集まる。黒い体は脂ぎってギラギラし扁平な体、頭から2本の長い触覚、鋭い棘の付いた足。

ネズミでさえ通れない狭い隙間を進むことが出来る。1匹いたら50匹はいるという恐ろしい魔物だ。


 数少ない人間社会と同居している魔物。討伐は子供でも出来る。打撃攻撃だが、すばしっこい動きでなかなか討伐できない。一番の予防は清潔にしておくことだ。


 アキンド商会では、ネズミの開けた床穴から黒い悪魔が現れた。掘り起こすと、そこには白骨が幾つか埋められていた。

 調べてみれば、アキンド商会の娘が可愛がった猫や犬、子供の白骨だった。


 娘は可愛がるのは一時、飽きれば粗末に扱い気まぐれに暴力を振るっていたらしい。側付きの乳母は死んだ愛玩動物(人)を屋敷の床下に埋めるしかなかった。


 また本宅の奥座敷には、攫われた女性が監禁されていた。アキンド商会の躍進には人身売買のお金が使われていたことが分かった。

アキンド商会の家族が全て牢屋に囚われた。妻は人身売買を知っていて見目の良い男を囲っていた。娘は子供を数人殺している。


自分たちは悪くないと騒いでいるようだが、街に戻ってくることは出来ない。散々暴れたネズミも猫も黒い悪魔もいなくなる。残された屋敷や倉庫は荒れ放題だった。アキンド商会の土地や財産はすべて取り上げられ、人身売買の被害者に見舞金として配られた。


 商会長と人身売買の関係者は辺境の鉱山に、商会長夫人と娘、女性犯罪者は辺境鉱山の慰安婦としてそれぞれ違う場所に向かうことになった。

顔に犯罪者の入れ墨を入れられ、生涯抜け出すことは出来ない。


精霊猫グレイを我が物にしようなど考えてはいけない。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで商会を査察できたんでしょうか。 そこの経緯が分かりません。
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