30 妖精猫襲われる
グレイは最近誰かに追い掛け回されている。
この間までライの身内騒動があったばかりだからライには告げていない。ライに要らぬ心配はかけたくない。
始まりは街をふらふらと歩いていると捕まえようと追いかけられることが増えた。まあ俺は妖精猫だから毛並みは良いし身のこなしもスマートでそこら辺の街猫と違うので仕方ないと思っていた。
しかしそれが一日に何度も追いかけられるとイラついてくる。さらに止まり木亭で店番してたら店の客でない男にむんずと掴まれそうになった。その時は女将さんと店のお客がその男を叩き出した。
さらにライとギルドに行った時知らない冒険者に声を掛けられた。
「君の肩にいるのは君の従魔かい?」
俺は従魔じゃない。妖精猫だ。魔物と違うぞ。それさえも分からないとは情けない。
「いいえ、従魔ではないですが相棒猫のグレイです」
「その猫ちゃん売ってくれないかな。欲しいって子がいるんだけど。お代はいくらかな?」
「えっ・・・売らないから」
不審顔でライは返事をして相手から間を置く。
売ってくれってお前金払えるのか?もちろん売らないけど。
「ただの猫だろ。金貨1枚でいいから俺に譲ってくれ。悪い話じゃないだろう」
相手は先ほどの優し気な好青年の顔からにらみを利かせた顔つきになった。
「お金の問題ではないから。グレイは大切な相棒だから他を当たってください」
と言ってライはその場を去ろうとした。冒険者の青年はライの肩に乗ったグレイを掴もうと手を伸ばす。
「ギャーーーーー」
グレイは声を張り上げひらりと青年の手を避けながら研ぎそろえた爪をその腕に突き刺した。
「痛!なにしやがる。このくそ猫」
引っかかれた手を擦りながら大声を上げた。
グレイはひらりと冒険者ギルドの受付嬢のカウンターに飛び乗った。
「ミャー」
可愛い声で鳴いて受付嬢にすり寄った。いつもは撫でられるのを嫌がる。この時とばかりにすり寄られた受付嬢たちはグレイのいるカウンターに集まり普段では味わえない柔らかな毛並みを撫でながら引っかかれた青年を睨んだ。
受付嬢を味方にした。周りの冒険者は同じように青年を睨んだ。
冒険者ギルドにおいて受付嬢を怒らせてはいけない。
女性といえど厳しい試験を受けて魔物の事から街の仕事に至るまで学ぶ。
ギルドの制度を理解してて冒険者が無駄死にしないように冒険者を守ってくれる貴重な存在なのだ。
力も技術もないのに無理な依頼で怪我をしないようにと守られた初心者冒険者は多くいる。
「何だよ。猫ぐらいで・・・怪我をしたんだ。その猫寄越せ」
「馬鹿じゃないの。猫は自由なの。貴方にグレイを引き渡すわけない。グレイはギルドのアイドルなの。
金貨1枚って何なの。誰に売りさばくつもりなの。小さい子供が必死に働いて支えあっている猫を取り上げるなんて男のすることではないわね。
どこから来た冒険者なの。ギルドカード見せなさいよ」
受付嬢のトップ金髪のアンリーナの一声でギルドフロア全体が青年の敵になった。
強面に睨まれ青年はすごすごとギルドの扉に向かって走り出した。誰かに足を掛けられドアの前で転び顔面をぶつけた。鼻血を出しながら扉を開けて出ていった。
グレイはカウンターからひらりとライの肩に乗りうつる。
「ありがとうございました」
誰にでもなくライは大きな声でお礼を言った。
冒険者たちは何事もなかったように手をひらひらと振って元の場所に戻っていった。アンリーナさんが手招きをしてライを呼んだ。
「先ほどはありがとうございます」
「いいのよ。グレイちゃんモフらせてもらったから。でもねあいつ冒険者じゃないわね。気をつけなさい。グレイちゃんは捕まることないと思うけど注意するに越したことはないわ」
今日は依頼を受けずに止まり木亭に戻ることにした。
止まり木亭でもグレイの問い合わせがあったことが判明した。その夜グレイは街の猫集会で情報を集めることにした。下手をすればライに危害を与えるかもしれないからだ。
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