28 ライの身内現れる
止まり木亭で昼定食を出しているときに突然声を掛けられた。
「ああああ!兄さんにそっくりだ。ライだよね?探していたんだ。辛い思いをさせたね。もう大丈夫だ」
濃い灰色の髪をした壮年の男性が目頭を押さえながらライの腕をつかんだ。配膳前の定食を落とさないように腕は取られたままライは女将さんの方を見る。
女将さんは落ち着いた様子で壮年の男性に声を掛け店奥に案内して話を聞いてくれるようだ。
厨房の奥から大将が顔を出し心配するなと声を掛けてくれた。
昼は定食が2種類しかないので注文取りも楽で女将さんが手を放しても遅い時間なので困らない。店のお客さんはライが孤児であることは知っていたが親族がいるとは思っていないのでついつい聞き耳をたてた。
壮年の男性の言うには、兄夫婦が行商に出た先で盗賊に会い夫婦は亡くなり子だけ攫われた。
実家は王都で小さな商売をしているが店を継ぐための修行として行商に出た。めったに盗賊など出ない場所だったので色々調べたが、盗賊は見つからず子供は行方がわからなかった。年を取った両親は店をたたむと言い出した。弟の自分が跡を継ぐと言い今は修行の行商の旅をしている。
たまたま入ったこの店で働くライを見てあまりに兄に似ているので少し調べたら孤児だというので声を掛けた。
孤児なのに読み書き計算ができ商業ギルドに席があるという。
きっと兄の子供だ。年を取った両親に会わせたいと失礼を覚悟で声を掛けたと涙ながらに話していた。
ただ攫われた子供は男の子。ライは冒険者の時はそれなりに男の子に見える姿で仕事をしているが店ではパンツ姿にエプロンをしている。
確かに見た目は、中性的だが女の子で通っている。年齢の割に成長が遅いので女の子らしくはない。
聞き耳をたてていたお客様。
「ライちゃん男の子を探してるらしいね。残念だったね」
「前にもおばさんが私の息子だと言って来たことがあったな。ライちゃんモテモテだね」
「でも変だよね。子供の時に人攫いにあった。孤児院で育っていた。そしてここで働いている。なんかみんな同じ話をするんだよね。ライちゃんお金持ちの子供?」
こんなことが数回あった。すべておかみさんが対応してくれる。
「お金あったら冒険者してませんよ」
「そうだよね。どうしてかライちゃんを探している人は、皆お金に困っているみたいだよ」
「あぶない。あぶない。気を付けるんだよ。よく見たら可愛いから売られないように」
「叔父さんとこの息子の嫁さんにおいで」
「お前の所の息子30過ぎだろう。犯罪だ。あははは」
小さい声で慰められた。声を出して笑いだす人までいる。みんなニヤニヤしている。定食のお皿テーブルにどんと置いてしまったのは悪くない。
厨房の奥で大将も笑っている。
何か最近身の回りが煩い。スリに会う回数は増える。人攫いぽい人がうろうろしてる。
誰かライの事金持ちだと噂したのか。ライの持ってるお金は金持ちの内に入らないのに迷惑な話だ。店に来た人は一通り女将さんが話を聞いて人違いだと話をつけてくれた。
夜グレイが街猫ネットワークで分かったことを話してくれた。
商業ギルドの受付嬢が原因だった。会ったことあったっけ?
どこのギルドでも基本個人の情報は漏らさないのが鉄則。すべては信用が一番だから。
中でも商業ギルドは大商会も加入している。さらにお金に関することは秘匿中の秘匿事項だ。
それなのに商業ギルドの受付嬢は、酒場でライのレシピによる収入が自分の給料より多い。商業ギルドの貯蓄が大金貨ぐらいあるかもって話した。孤児の癖に金など要らないだろうに。ああいう子が身内にいたら金に困らない。などお酒の勢いでべらべら喋った。
孤児なら身内の愛情が欲しいだろうからと身内候補が湧いてきた。
盛り過ぎの話に乗って上手くいったらぼろ儲けと考えた結果が今回のことらしい。
どうしたものか。受付嬢にちょっと痛い思いをしてもらいたい。それだけじゃ面倒くさい大人は減らない。どうしたらよいかと悩んでいたら女将さんが解決してくれた。
「ライちゃんね。良い子だよ。
ただね、親が借金を抱えていて子育てできなくて孤児院に預けた。その後親は夜逃げ。だから金なんか持っていない。
ここで働いて冒険者ギルドの依頼も受けて健気に働いて少しずつ借金返しているのに。嘘を言っちゃだめだよ。
いい大人がデマに乗せられて悪さしちゃだめだね。本当にライの身内ならまずは借金を代わりに返してあげてくれませんか?」
大声で身内だという人に言い聞かせた。
「えっ借金がある?ギルドの女の子はそんなこと・・・・」
「馬鹿だね。あの子はほら吹きで有名だよ。あの年で結婚しないんだから。あの子30かな・・・」
真っ青な顔をして止まり木亭の店を飛び出していった。
「今度来たら衛兵に突き出すよ」
大声で周りに聞こえるように声をあげる。
「これくらい言ったらもう来ないんじゃないかな。受付嬢に文句言ってやる」
さすが女将さんどんと構えたその姿にお店のお客さんは拍手喝采だった。
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