24 コメは最高の食材だ
ライが何度目かの孤児院訪問の時シスターから声を掛けられた。
「ライ君これ畑に播いていいかしら?小鳥の餌にと頂いたんだけど小鳥が逃げ出してこれだけ余ってしまったの」
孤児院のシスターが麻袋からざるに入れてきた穀物は米だった。 これ知ってる。米だ。米は魔植物で繁殖力が高い。実がなると爆ぜてあちこちに飛んでいく。その時もみ殻と米に分かれる。だから早めに稲穂を刈って日に当て乾燥させ、麻袋に入れておくと勝手に爆ぜて米が出来る。そのまま貯めてもスープにしても美味しくないので、飼料にしていた。目の細かい深い籠の中で米を風魔法で掻き混ぜ精米して「コメ」にする。水洗いして炊くと美味しいご飯ができる。
ライは食べたことが無いが、美味しいことを知っていた。美味しいことは良い事だ。シスターに穀物を貰う。精米して大きな鍋で「コメ」を洗い、水に浸してそれを炊き塩むすびを作る。
塩むすびの美味しさはライしか分からないだろう。野菜と細切れの肉を濃い目に味付けしておにぎりの中に入れた物も作った。
「この白い丸い塊がおにぎりですか?あの茶色い飼料がこうなるのですか・・・?」
不安顔のシスターの前でライは塩むすびを食べた。口の中に広がるふっくらとした甘みと丁度良い塩加減最高だ。シスターはライの美味しそうな顔を見て勇気を出して塩おにぎりを食べてみた。
「あら・・!?美味しい。優しい味ね。とても美味しいわ」と言いつつペロリッと食べてしまった。
「シスター長に届けてもいいかしら。許可が下りたら院の食事に加えたいわ。小麦より安いし腹持ちがいいわ。素晴らしい食材だわ」
いそいそとおにぎりを届けに行くシスターを見送ると、そのすきにケントが台所に顔を出す。
「ライ新しい料理作ったの?このケント様が毒見をしよう」と言いながら一口でおにぎりを口の中に放り込んだ。
「うま、、!これ、、、、」
「食べ終わってから話せ。美味しいのは分かったから」
米の炊きあがる匂いで台所の外にいた子供たちが集まってきた。
「なに作ってるのライ兄ちゃん?あっ、ケント兄ちゃんが何か食べてる。ずるい」
「ライ兄ちゃん僕達も食べたい」
「では、皆さん手を洗って食堂で待っていてください。皆さんの分は十分ありますから慌てないで」
ケントが号令をかける。子供たちは我先に手洗いに向かった。手を洗った子供たちはケントと違い食堂のテーブルについておにぎりが配られるのを待っていた。
「これはお米という穀物で出来ています。よその国ではパンの代わりに食べることが多いようです。中にお肉も入っています。崩れやすいので優しく持ってよく噛んで食べてみてください」
一人一人にお皿におにぎりを載せて配る。
ドキドキワクワクした目でお皿の上のおにぎりを見つめる。ケントが残ったおにぎりの一つを掴んで口の中に入れる。
「うまいぞ!」
その一声で子供たちは食べ始める。
静かな食堂に子供たちの咀嚼する音が響く。年長者が空になった皿を持ってライの前に並ぶ。お代わりの催促だった。
シスター長から満足の返事を受け取ったシスターはコメの炊き方を教えてほしいと声を掛けてきた。
日にあたり爆ぜた穀物(玄米)を鍋に入れて太めの棒でつく。
それからもう一度コメの炊き方を説明した。キノコやお肉を入れて炊き込みにしてもいいしお水を多めにして雑炊にしてもいい。残ったご飯を野菜や肉と一緒に炒めても良いといくつかの料理をしながら伝えた。
2回目のおにぎりをライは冒険者ギルドのマスターに持って帰った。当然マスターは大乗り気だった。
しかし、マスターのおにぎりは手が大きいせいか、子供の頭ほどの大きさになる。みんなで大笑いをした。
四角い木箱にご飯を箱の底に入れる。その上にお肉や野菜を載せる。さらに、ご飯を載せて軽く押し当てご飯版サンドイッチを作った。ご飯に焼肉を載せることで器が一個で済む。お手軽な食事だ。
もちろん孤児院で教えた炊き込みに炒め物も伝えてあとはマスターの工夫に任せる。酒場のマスターから料理人に激変した。マスターは徹夜するんだろうなと思いつつライはコメを仕入れて帰宅した。
安価な飼料だと思われたコメの使い道に商業ギルドが食いついた。コメは魔植物でほうっておけばどんどん増えるらしい。今までは雑草の様に扱われていた。
農家に刈り取りから精米まで仕上げてもらい、商業ギルドは食べ方を広めることにした。まずは、お試しの肉入りおにぎりを試食してもらいコメの良さを知ってもらう。本腰を入れた商業ギルドは動き出した。
領都には多くの人が住んでいる。主食のパンになる小麦の使用量は当然莫大な量になる。天候が悪かったり不作が続くと小麦の値段が高くなる。
高くても量がないのだから庶民の口に入らなくなる。過去に何度かあったようだ。
昔は小麦戦争が起きたこともあったらしい。小麦の代替えがあれば緊急時に大いに助かる。炊き出しのスープにご飯を入れればそれだけでお腹が満たされる。最高だよと商業ギルドは大絶賛だった。
ライは自宅に帰り、グレイと一緒に魔物肉のカツ丼をウハウハしながら食べていた。内緒で醤油の実を使った。
グレイは色々な調味料の実を持っていた。ただ使い方を知らないものが多い。ライの鑑定レベルが上がるにつれて使い道が広がる。
グレイが共に旅をした仲間の中に料理好きな人がいたようだ。頼まれ保管した調味料の実はいつの間にか忘れられた物になっていた。まだまだ隠れた調味料があるようだ。ライは楽しみにしている。




