21 薬師のお婆の死
ライはギルドの依頼をこなしながら、時に孤児院に出かけ子供たちと遊ぶ穏やかな日々を送って7歳の祝福を受ける時が来た。
村から出てきた時から2年経ち背が伸びた。それでもまだ体は小さいがしっかりした体つきになっていた。髪の毛は時々自分で切っている。
いつまで男の子でいられるか少し不安だ。いずれはこの街を出ることも考えている。
ボブさんからお婆が死んだと伝えられた。村にいる時から先が長くないと言っていた。本当だったんだ。
ボブさんが村に行った時お婆は家の中で倒れていた。慌てて寝室に運んだとき少し意識が戻った。『この箱をライに渡して』と頼まれた。箱を荷馬車において村長を呼びに行った。
それから村の人もワサワサ来たが誰も何もできずお婆は死んだ。村長は葬式は村でするがこの部屋にある物で売れるものがあればボブさんに買ってほしい、残った物は村で処分すると言われ部屋の中を村長は指さした。ボブさんの話にライは胸が潰れそうだった。
お婆には身寄りがないので仕方ないのかもしれない。薬師という特殊な仕事だから残されたものは村では役に立たない。
家さえ残れば次の者が使える。ボブさんは裏の畑の薬草と調剤道具と本を選んだ。
しかし村長は薬草タンスやお婆の服や日常品まで持って行ってほしいと言われた。金貨1枚で手を打ち荷馬車に乗せられるだけ載せた。あとは村長に任せ村を出てきた。ライは毎日通った薬草畑を思い出した。
もうあの薬草畑はなくなり、普通の畑になるんだろうな。
ボブさんは村を訪れるたび、ライの手作りお菓子と手紙を届けてくれた。二人はお茶を飲みながらライのことを話題にしていた。
ボブさんからライが村を出た後の話を聞いた。
2年前ライが村を出て2日後に養い親がライの不在に気がついた。お婆の所にいると思いほうっておいたらしい。
お婆は2日前からライは来ていないと伝えた。登録されていない隠し子のライを大騒ぎして探すことができず養い親は探すのを諦めたらしい。
お婆は村長にライが春に売られると言って泣いていたと伝えた。ライは売られるのが嫌で村を出たと村長は思った。子供が一人で村を抜け出しても次の村までたどり着けない。森に逃げたら魔物に食われただろう。どちらにしてももう生きてはいない。
元から隠し子として村仲間にも話していない。ライの話は打ち切りになったようだ。その後もお婆は素知らぬ顔を通したそうだ。
ボブさんはお婆の葬儀には出ずそのまま村を離れた。これからは薬売りとして村を訪れることになる。今まではお婆が薬師として村人の身近にいたから病気やけがの心配はいらなかった。
この村は離れ村の中でも最奥だから何かあっても助けに来てくれる人はいない。ライを薬師の跡取りにしておけば村は持ちこたえられただろう。
薬師がいなくなるということは思ったより大変なことなのだとライは知った。
ボブさんが届けてくれた木箱には手紙が2通入っていた。
お婆は死期を感じ取っていたのか貴重な薬草辞典や薬のレシピを残してくれていた。手紙にはライは大事な弟子だ。かわいい孫のようだったと書かれていた。
もう一通は領主様への手紙だった。きれいな木箱とともに届けてほしいと書かれていた。
ボブさんからは村長から押し売りされた薬草棚や調剤道具などを、ライが持っている方が良いだろうと無料で譲ってくれた。
薬草棚に添えられた名前の文字、一緒に調剤した道具。2年前の日々を思い出して涙があふれた。いずれはこの街を出ていくならこの手紙を届けるために領都に行こうとライは思った。
ボブさんに彼女ができた。
カレンさんという商会で働いている人。家にも何回か来ている。ある日カレンさんに『ライさんはいつまでここに居るの?』と聞かれた。
ああそうか結婚したらボブさんと一緒に暮らすのだからライがいては邪魔なんだ。ボブさんが行商に出れば知らないカレンさんと二人暮らしは可笑しい。カレンさんもライの事を、どう接していいかわからない様だ。
ボブさんは今まで通り1階でライが暮らして2階でカレンさんと暮らせばいいと言っていた。女ごころがわからないボブさん。カレンさんは少し不満に思っているようだ。
ボブさんもいい年だ。カレンさんを逃したら結婚できないかもしれない。お婆の手紙を届けるためにもライは領都に向かおうと思った。
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