19 初めての友達
孤児のケントとライは、二人で森の入り口近くで薬草採取をした。
二人で交互に見張りをした。本当はグレイが魔物を追い払ってくれていた。冒険者ギルドで納品して現金を受け取ったケントをライは資料室に連れて行った。
「何でライの方が多いんだよ」
ケントは手元の現金を見ながら不満たらたらで文句を言いだす。
ライは薬草の選別と採取の初級と書かれた雑誌を開きケントに説明した。最初は文字が読めないとケントは見ようともしない。初級版だけあって絵だけでもわかりやすく書かれている。
「文句言わずに絵だけでも見なよ。知っているのと知らないのでは同じ時間薬草を採取しても、手に取る金額がこんなに違う。
わざわざ損することない。丁寧に採取すれば時間がかかっても良い薬草は割増しがもらえる。間違えた薬草を取る時間が無駄だ。
ケントが頑張ってるのは分かるけど知識があったらもっと稼げるんだ」
薬草採取の初級を眺めるケントに、絵を指しながら説明をした。ライは、ケントが自分のためだけでなく孤児院の仲間のために稼ぎたがっているのを知っていた。だから、ケントを助けることにした。
ライにはお婆が居てくれたから薬草で困ることがない。
「字が読めたら金が稼げるのか」
雑誌から顔を上げたケントはライに聞いてきた。
「そうだよ。字が読めればこの雑誌だって絵で見るより詳しく書いてあるからもっとわかりやすい。無駄に雑草毟らなくていい。
依頼書だって、読めたら自分で選べるし、計算ができたら誤魔化されない。
冒険者続けるなら魔物の弱点や、売れる部分も知らないと困る。
これ見て。ヨモ草採取のとき見つけた魔力ポーションの薬草の一つマナ草。これ5本で50銅貨になる。他にも希少な薬草も覚えておけば見つけることができる。知識と経験は自分の糧になるんだ。僕の薬師のお婆が言っていた。
ケントはいずれ孤児院を出るだろ。僕と同じで、一人で生きていくために色々準備しないといけないんだ。今ばかりを見ないで少しは自分の先を考えないと、冒険者さえも長く続けられなくなる」
ケントは握った自分の手を見た。
今日生きていればいいと思っていたが自分が孤児院を出る時期はそう遠くない。孤児の先輩は冒険者になった者が多い。
身元のはっきりしない子供などなかなか働くところはない。C級に成れた人などいない。
孤児院での勉強が役に立つなんて知らなかった。同じ時間薬草採取しても75銅貨と3銅貨。こんなに違うんだ。ケントは薬草の雑誌を眺めた。
ケントは赤子の時から孤児院にいた。親なんて知らない。字が読めなくても街で困ることはなかった。分からなければ聞けばいい。
買い物は露店だし買っても鉄貨か銅貨ぐらいで計算も必要ない。街のほとんどの人たちがしっかり読み書きできるわけじゃない。
それでも生きていける。
ライに言われるまでそう思っていた。今生きるのに夢中で孤児院を卒業してからのことを考えてはいなかった。
大方冒険者を続けるんだろうと思っていた。7歳でどんなスキルを貰えるかわからない。孤児なんて大したスキル貰えない。スキルなんてあてにならないと思っている。
それでも剣術のスキル持てば負け知らずだと思っていた。スキルは育てないと成長しないなんて知らなかった。
卒業した孤児たちは半年ぐらいは時々顔を見せてもいつの間にか訪れなくなる。生きているのか他の街に出ていったのか分からない。卒業した孤児の分だけ妹や弟が増えていく。もっと稼ぎたい。
ライに稼ぎの半分は貯めておけと言われた。孤児院を出たとき無一文ならその日から野宿になる。飯が食べられない。そんなことも考えていなかった。
ケントは今まで薬草取りで得た金額は、3銅貨酷いときは1銅貨。悔しくって仕方なかった。
ケントはシスターに謝って字を教えてもらうことにした。
誤字脱字報告ありがとうございます。