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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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18 ケントと薬草採取 

 ライが村から街に来て一年たった。ライは6歳見習いF級冒険者になった。街の中の依頼を受けたことで街の人にも顔を知られるようになり、声を掛けてくれる人も増えた。グレイの見守り薬草採取も継続している。


 ボブさんはその間にも何度か行商に出ていった。ライは留守の間も部屋や庭の掃除をしている。グレイは昼はライの肩に乗って一緒に依頼に付きあってくれる。そしてライの作る美味しい食事に満足してコロコロに太っていった。


 夜はライと一緒に寝たり、夜の街や領壁の外の森に散歩に出掛けている。さらにグレイは街の猫をいつの間にか従えて、あらゆる情報を集めていた。近所のおばあさんが腰を痛めた。どこそこの子供が生まれた。夫婦仲が悪いまで知っている。


 ライは6歳になったので、領壁の外の森の奥の薬草採取の依頼を受けることにした。常時依頼の多い薬草は、採取してから依頼表を出していいらしい。ただ先に依頼表を出すと依頼表の値段で代金が払われるが、後からだと納品量が多い時は値段が下がるという。


 森奥は魔物も出てくる。貴重な薬草があるかもしれないが、まだライは戦えない。グレイ頼みだ。薬草を乾燥させて薬師や問屋に売ることもできるが、手間の割に安い。素人が乾燥させると薬効が下がるので仕方がない。劣化防止の鞄があれば解決するが、魔法カバンは初心者冒険者が持てるものではない。売ってはいるがすごく高額らしい。ライはそんな鞄が売っている店に行ったことはない。


 名の知れた薬師は、専任の採取者を雇って魔物から薬草まで必要な材料の採取をする。しかし人を雇うのにはお金がかかる。さらに時間停止の鞄を持たせなければならない。採取者の怪我や病気の責任も持たなければならない。


 結果として多くの薬師や薬屋は冒険者から薬草を買う方を選ぶ。熱さましや痛み止め、腹の薬などに使われるケンナ草・アス草・ロキ草は庶民がよく使うので幾ら採取しても問題ない。なので先に依頼表を手に取るかは個人の判断になる。


 ライがF・Eランクの掲示板を確認しているとライより少し大きい男の子が声を掛けてきた。使い古されたシャツとズボンをはいている。


「おい、お前薬草取りに行くのか。俺が付いて行ってやろうか?」


「領壁の近くで薬草採取するから護衛はいらない。金もないし」


「違う!護衛じゃない。俺ケント。俺は半年前から薬草取っているんだけど、森の手前よりもう少し奥の森の入り口近くに薬草があるんだ。一人だと周りの警戒が手薄になるから、一緒に行かないかと声かけたんだ。二人いれば交代で周りを警戒できる。小物の魔物なら俺がやっつけてやる。君も孤児だろう」


ケントは気まずそうに答えた。7歳以下で冒険者ギルドに登録するのは保証人のいる孤児ぐらいだ。


「僕はライ、6歳の孤児だ。今は知り合いを頼って街で暮らしている。僕は森の手前しか出かけていない。初めてだから色々教えてくれると助かる。角兎なら僕でもどうにかなる」


「おお任せておけ」


 肩をそらせ、ケントが薄い胸を叩いた。二人で常時依頼の薬草を確認して、背負い籠を背負ったケントに連れられ、領壁の門番に挨拶をして森に向かった。何時も採取する領壁近くの薬草を無視して森に向かって小走りする。森の手前から少し奥の木立に入った。森の出入り口が確認できる。これなら、いざとなったら森から出ることが出来るとライは安心した。


 ケントは目についた薬草をむしり取っては、背負い籠に投げ入れた。鬱蒼とした森の入口は、まだ林に近い。木々の下には下草が生え、気持ちの良い風が吹き抜けていく。ライは薬師のお婆に教わったように、ナイフで薬草の根元の近くを切り、5束づつひもでまとめて背負いカバンから出した薬草袋に入れていく。


「そんなに丁寧に取っていたら数が取れないぞ。薬草なんて値切られるんだから」


ケントの声が響く。


「ケント、それ似てるけど薬草じゃない。その草の葉脈の根元赤いだろ?」


「えっ気が付かなかった。だからこの前たくさん取った割に代金が少なかったのか。値切られたのかと思った。なんせ俺ら孤児は馬鹿にされるんだ」


 ケントは籠の中の薬草を確認しながらぼやいた。


「ギルドで売れば値切ったりしないよ」


「だって、ギルドの人細かいしうるさいんだ」


「ケント、薬草は薬になるんだから、ちゃんとした薬草が欲しいんだよ。薬草の特徴はギルドの資料室で調べるといいよ」


ライは手を休めずケントに伝える。一瞬手を止めたケントがぶっきらぼうに声を荒げた。


「俺らは字なんて読めない」


 10歳まで孤児院に居ることが出来るが、孤児院内の仕事をしているのは女の子。男の子は5歳からギルドに登録して、依頼を受けて小金を稼ぐ。寄付や街からの支援金で成り立っている孤児院は決して裕福ではない。簡単な文字の読み書きや計算は教わるようだが、必要性を感じなかったのか、ケントは真面目に学ばなかったようだ。


 ケントの背負い籠が一杯になったので、ギルドに戻ることにした。ライは、いつもより沢山取れて浮かれるケントを無理やりギルドに連れて行った。ギルドに不満のあるケントが、ぶつぶつ文句を言う。


「街の問屋に持っていった方が・・・」


「いいから見ていて。先に僕が納品するから。掲示板でヨモ草とアス草の依頼表を持っていくからね」


 納品所で5束づつになった薬草を並べていく。ヨモ草が30、アス草が35だ。


「ライ君今日は薬草の納品ね。きれいに取れているし保管も良いわね。割増しでヨモ草が35銅貨でアス草が40銅貨ですね。カードに入れますか?」


「半分カードに残り現金でお願いします。ケント籠の薬草を出して」


言われるままにケントは籠の中の薬草を出す。


 係の人が二人で選別する。最初に赤い葉脈の草をよけている。他にも薬草でない草があり、半分ほどになってしまった。


「ヨモ草が15でアス草20。手でちぎらないで。ナイフで根元を切らないから品質が落ちてる。全部で3銅貨。現金にしますか」


 選別されていく薬草。捨てられて半分になってがっかりしているケント。


「現金でお願いします」と先にライが声を出した。

誤字脱字報告ありがとうございます

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