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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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172  「救国の乙女」の絵姿

 ライはモスに花蜜が実らないフェアリーリリーの苗を手渡した。モスはこの花をとても気に入っていたので、喜んでくれると嬉しい。


「魔素を必要としないので屋敷の庭に安心して植えることができるからね。きれいな花を咲かせてね」


 花の苗を手にしたモスは喜びのダンスを始めた。その横でスラや周りの仲間までが跳ね踊る。気落ちしていたモスの復活が嬉しいようだ。リリーから地魔蜂の蜜を魔蟻が届けてくれたと見せてくれた。ライたちのお陰で魔蟻の巣は正常になり、慌てて転地する必要がなくなったお礼だといって届けてくれた。


 北の森の浄化と植林が進んだのは、ダンジョンが消失したお陰のようだ。ライはこの蜜をたっぷりかけたパンケーキを皆で食べることにした。


  グレイは帰宅した翌日には早く妖精村に戻るために、ジャックフロストを北に送り届けた。北の洞窟の中が素敵な部屋に変わっていたのに喜んだジャックフロストが、妖精を集めて大騒ぎになりグレイはそこで二日ほど足止めをされてしまった。


「ライ、魔力切れになるほど洞窟の模様替えに頑張るな。あいつがこれで一年中「北の迷いの大森林」で人外たちと暮らせると喜んでいた。リリーの持たせてくれたお菓子を大盤振る舞いしていたぞ。北の公爵家の調理長は忙しくなるだろうな」


 ぶつぶつ言いながら北から戻ったグレイは、次にスネを西に連れて行った。名残惜しそうにしたスネだがライのいない間に急成長していた。以前なら「帰らない!」といって泣き叫んだだろうに、今回はしっかりと挨拶が出来るようになっていた。


「お世話になりました。古竜のおじいちゃんありがとう。みんなもありがとう。ライ、たまには来てもいいですか?」


「みんなにお休み貰ったらいいわよ。西の公爵の代替わりの時は一緒に顔合わせしましょうね」


「よろしくお願いします。僕もっと魔力を貯めて自分で転移できるよう頑張ります」


 小さくなったスネはグレイにつかまり転移して帰っていった。ライは日常に戻り、各種のポーションを作り、傷薬や熱さまし、痛み止めを作っては冒険者ギルドに卸す。ライの不在中に妖精や精霊が届けてくれた多くの薬草を薬師ギルドに持ち込んだ。ライの突然の訪問に薬師ギルド長のメデェソンさんは階下の受付まで顔を出してくれた。


「お久しぶりです。お元気でしたか?」


「はい、元気にしています。少し旅に出ていたので、採取した薬草を納品に来ました」


「それは助かります。魔法カバンで在庫を管理しているので薬草が多くても困りません」


 ライは北で取れた薬草と屋敷に集まった薬草を数種類納品した。メデェソンさんはライの家から以前多量のアス草をもらい受けたことがあったので、何の問い合わせもなく受け取ってくれた。


「納品した薬草の半分は孤児院や教会、診療所に格安で卸してください」


「分かりました。夏に向けて、熱冷ましと腹痛の薬、傷薬を多めにしましょう」


「ありがとうございます」


「ところで・・少し時間がありましたら2階にいらしてもらえませんか?」


 メデェソンの話は結婚の話だった。薬師ギルドの総会でメデェソンはライの絵姿が欲しい、ライに結婚の申し込みの絵姿と身上書を沢山持たされた。ライに届けられなかったため、義理の母である公爵夫人のミリエッタに采配を依頼した。ところがライが屋敷におらず、お見合い話は空に上がったままになっていた。


 さらに近隣の貴族からの話まであるとミリエッタからの話にメデェソンは焦っていた。さらに王都では「救国の乙女」姿絵が多数売り出されたと言い出した。大小様々な姿絵をライたちに見せてくれた。


「「ぶっ、誰ですか?」」


 ライの横で執事姿のジルがライと共に噴き出した。まだまだ執事修行が足りないらしい。ライが見せられた絵姿は一枚ではなかった。清楚な薬師の姿の若い女性がいれば、妖艶な肢体をあらわにした女性、いかにも貴族の令嬢の様な豪華なドレス姿の女性に眼鏡をかけた知的な女性、冒険者の姿の女性。どれ一つライに似たものはない。


「これらの絵姿から結婚の申し込みされても困ります」


「そうですよね・・」


「私は「救国の乙女」ではありません」


「分かっていますが・・」


 ライは良いことを思いついた。多くの人はライ自身を知らないなら、「救国の乙女は結婚した」と噂を流してもらえばいい。そうすればお見合い話は収まる。ライは居住まいをただして、メデェソンに宣言をした。


「「救国の乙女は結婚しました」と薬師ギルドの総会で宣言してください」


「えっ、ライさんはいつ結婚したのですか?」


「結婚はしていません。でも誰も本当のわたしを知りません。このまま私が顔合わせしたら「絵姿と違う!」と言われます。わたしは絵姿の責任は取れませんし、毎回「絵姿と違う!」と言われたら落ち込んで死んでしまいます」


「本当のわたしを見ることなく「救国の乙女」の名前欲しさなどお断りです。それに私は今の屋敷から出て行くつもりはありません。結婚するなら準男爵の妻の夫です。そんな私に皆さまが期待する価値はありません」


 メデェソンはこの街をライが愛していると勘違いしてくれている。ライの言い分が十分わかるメデェソンは王都に出回っている絵姿をまずは間違っていることを説明しライの希望。「結婚するなら準男爵の妻の夫、住まいを移すつもりはなく、貴族としての社交などしない」と、いうことが必須であると伝えることにした。


 さらに希少薬草や鉱物を採取するために冒険者レベルならせめてBランクの腕が必要だと追加した。「愛する夫と二人で採取旅をするのが夢」と付け加えた。ライの結婚申し込みには妻の働きで楽をしたいという男も複数含まれていた。


 世の中思うようにいかない。ライの結婚申し込みは富裕層や貴族の申し込みは激減したが逆に腕の覚えのある冒険者が名乗りを上げた。むさくるしい髭づらの大男や、とても冒険者と見えない男がBランクのギルドカードをかざした絵姿に変わった。



 もともと冒険者がBランクになるころには、たとえ未婚でも35才以上になっている。親子といっていいほどの年の差がある。ある種の趣味がなければ結婚の対象にお互いならない。ライはミリエッタに相談した。ミリエッタのとこにも義母ということで申し込みが多数あり困っていたようだ。


 ミリエッタはライに貴族の流儀など無理だと理解していた。ライの幸せがミリエッタの願い。さらに屋敷は人外の住処になっているし、ライ自身がそれを受け入れている。人外を怒らせればグランド国に何の災いが起きるか分からない。女神さえライの幸せを願っている。このことを知っているのはミリエッタとグレイだけだ。


「取り急ぎ、ライが好ましいと思う男性と仮の婚約を結ぶことが一番早い解決策だね。ライのこと理解して人外も受け入れて欲張らない優しい人?いるかしら?」


 とんでもないことを言われライは、何の解決も出来ず屋敷に戻った。リリーに事の成り行きを話した。その話はジルとリリーから屋敷中に広まった。ライの屋敷が無くなるのは「迷いの大森林」の人外の問題だと大騒ぎになった、もうすぐ19才の小娘の結婚がこんな騒ぎになるとはライは思わなかった。



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