171 さあ帰ろう
サーウス公爵家が中心になって。密輸と人身売買の捜索と犯人の逮捕を秘密裏に履行した。さらわれた者たちは救出され、犯人は捕まった。詳しい捜査は残されているが、ライには関係ない事だった。あとはその土地の者が始末をつけるだけだ。
婚約披露パーティーの翌日、スールとクレバリーは、西の公爵家に向かうことになる。スールは1年の婚約期間、クリアール女公爵から領地経営から公爵としての心得をクレバリーと共に学び、数年後にクレバリーが公爵位を継ぎ、スールはその夫として支えることになる。
捕まったバッサリーノは北の公爵家に引き渡された。レイク伯爵はバッサリーノを廃摘し、次男のキッコリーノに伯爵位を継承させ当主を辞した。そしてバッサリーノを逃がした妻と離縁した。バッサリーノは禁足地の回復資金のために、終身犯罪奴隷となって死ぬことを許されず働くことになった。
貴族として豊かな暮らしをしていたバッサリーノは、極刑の方が良かったと思う生活が待っている。レイク伯爵の妻は要領の良いバッサリーノの手の上で転がされていた。さらに夫の病状に不審を持っても何もせず、息子の悪事にも目をつむっていた。息子可愛さに目が曇ってしまったようだ。しかし領地を持つ伯爵夫人としてはあってはならない。
レイク伯爵は伯爵位を早く継承しようとしたバッサリーノのせいで、ノルデンよりより多くの毒を服用していた。そのためにレイク伯爵本人の力だけでは伯爵位を維持できなかった。レイク伯爵は自分の余命が短いことを分かっていた。だからこそ残された期間、キッコリーノを鍛えることに専念した。元レイク伯爵は一年後にキッコリーノと嫁に看取られ静かに息を引き取った。
ノルデンはダンジョン跡に氷室を作り、湖のきれいな氷を切り出し保管して、夏に氷菓子を名産品として売り出した。さらに氷を使った料理やスイーツも多く商品化し、保養地と共に夏の食の地として名を挙げた。
イルクーツク侯爵家から離籍された元長男セブテントリオーが離籍されて2年後北の領地に戻ってきた。愛人と妻が同居して上手くいくわけもない。愛人も妻も浪費癖が抜けず以前の生活を続けていた。セブテントリオーが働けど副収入がなければ生活は維持できない。借金を重ねることが増えたことで、妻と愛人の諍いが増えた。
初めに愛人が金目の物をもってセブテントリオーの前から居なくなった。そして「甲斐性無し」といって妻が子供を連れて家を抵当に入れ金を借りそれを持って実家に戻った。半年後に元妻は格下の貴族の後妻になっていた。再婚したからといって、妻の思ったような生活が出来ているとは思えない。
うまく立ち回れないセブテントリオーは王都に嫌気がさし故郷に戻ってきたが、そこに自分の居場所はなかった。街にはセブテントリオーを知っている人はいなかった。ほとんど王都で暮らし故郷を顧みなかったせいだろう。父は新しい産業、氷室による夏季の氷、製糖産業を起こしていた。母は実家からも追い出され何処にいるかもわからない。北の大森林にぽかりと空いた植林されたばかりの大地を見た時、セブテントリオーは自分の罪を自覚した。
ライとイエローとグレイは数か月ぶりに家に戻ることができた。ライの「ただいま」の言葉にわしゃわしゃと屋敷中の人外が集まった、
「「お土産、お土産」」
「あっ、忘れた・・というか買えなかった」
「「どうして?」」
「体が小さくて・・」
「「「・・・」」」
みんなが小人のライを見て納得した。そこでスネに元の体に戻してもらい、ゆっくりとお風呂に入ることにした。リリーはライの帰宅に合わせ食事やお風呂を準備していてくれた。ライは「最高だよ。ありがとうリリー」と抱き着いてしまった。いっぱい心配かけたけど元気に戻ってきたことに、リリー自身も安堵したようだ。お風呂にはイエロー以外の魔蜘蛛メイドたちが参加して、イエローの話を興味深々で聞いていた。
ライはお風呂から出てリリーの食事を美味しく食べた。リリーの満足そうな顔が見られて嬉しかった。そのままウトウトしそうになって思い出した。グレイを妖精村に一度帰さないといけない。北の洞窟で収穫した「フェアリーリリー」を届けないといけない。
「グレイ、北の洞窟で枯れる前に「フェアリーリリー」を根ごと採取してきた。魔素の多い妖精村なら育ちが良くなるのではと思って、イエローと採取しておいた」
「あの騒動の中・・ありがとう」
「一休みしたらまた村に行ってきたらいい。わたしは家で静かにしておくから」
「ああ、もう騒動に巻き込まれることはここにいればないだろう。明日にでも出かけてくる」
「お菓子準備する?」
「たまごボーロ沢山持っていきたい!」
ライとグレイの会話の横からリリーが「準備できてる。イエローから話は聞いていたからね」と声がかかった。さすが我が家の家政婦長を任じるだけある。ライは収納からきれいに包まれた「フェアリーリリー」の花株を手渡した。
「随分沢山あるんだな」
「グレイ達がいなくなった後、洞窟の奥に行くほど立派な花株になっていたからね。ダンジョンが攻略されて魔素が途切れる際に採取したの。魔素が流れ込んでいる近くはやっぱり育ちが良いのね。妖精花の花蜜は不揃いだから妖精村には持たせられないけど、スイの治療室で使えると思うからそちらに回すね」
「妖精花の花蜜は最初に沢山採取できたから十分だよ。それにライから貰った花株を育てれば数年の不足分は補えると思う。ありがとう」
グレイも疲れたのかライと久しぶりに一緒に寝入ってしまった。早朝「ライ、ライ、起きて」という声でライは目を覚ました。
「グレイが妖精村行く前に僕を西に連れて行って!」
「ライ、申し訳ないが北の領地にわしを連れてってくれ」
スネは古竜とジャックフロストの教育の成果があったようだ。西に戻ることができるようだ。それでも時々古竜が相談に乗ることになっている。いたずら小僧だったスネは随分落ち着いていた。良き師に出会うことは大切だ。クレバリーが爵位を継ぐ時は、巨大な白蛇を見て驚くだろうからスネとの顔合わせの手伝いをしようとライは思っている。
「ジャックフロスト様、洞窟を過ごしやすいように模様替えしてあります。ダンジョン跡を氷室にするようですから洞窟内は一年中涼しいと思います」
「それなら無理して奥地に行かなくても良くなるか・・ありがとう。助かるよ」
騒がしい会話に目を覚ましたグレイは、まだまだ妖精村に帰れないことを悟った。それでもスネが森守りとして成長したのは喜ばしいことだ。留守を守っている一角獣に挨拶も必要だし、西の妖精がスネを認めるかも確認しないといけない。ジャックフロストは置き去りにしても困らない。
「これこれ、グレイ、わしの扱いが粗雑でないか?」
「今俺は声を出していたか?」
「ああ、疲れているんだろう。みんなにお前の心の声がはっきり聞こえたぞ」
「うるさい。心配ごとが多すぎるんだ」
働き者のグレイは「妖精」のように気ままに自分勝手な気質だったのに、今ではライの保護者のように世話を焼いてくれる。それがさらに進化して、多くの人外を大切に思ってくれている。
「グレイに出会えて私は幸せだね」
「な、なにを言い出す」
「「「おっ、グレイが照れてる」」」
いつの間にかライとグレイの周りに人外が集まっていた。離れていた時間が長かった。それでも帰る場所があるということは、何と幸せなことだろとライは胸を熱くしながら、皆と一緒にグレイを囃し立てた。
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