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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
162/176

162  南の公爵地  クレバリーとの再会  4

 荷馬車の揺れの中で図太く寝入ったライとイエローは、荷馬車から絨毯ごと持ち上げられたときに目を覚ました。目の前に赤い色の毛足の長い糸の世界が広がっていた。ライは目覚めた瞬間一瞬何処だと思ったが、イエローがライにしがみ付いていることで現実を思い出した。貴重品の納品ということで両手で持ち上げてくれているのでライとイエローは滑り落ちることはなかった。


 アブクゼン商会の執事と公爵邸の執事の長い挨拶ののち、絨毯は公爵邸の人に渡されどこかに運ばれた。公爵家次男の婚約祝い品は沢山届けられているようで、特別に部屋を設けているようだ。さすがに公爵邸の使用人は、無駄口も聞かず大きな絨毯も丁寧に扱ってくれ、部屋の隅に収めた。絨毯を運び込んだ者が、部屋の戸を閉める音を確認して、ライとイエローは絨毯から這い出した。


「イエロー、大丈夫?」


「大丈夫。グレイは公爵邸に来ている予定」


「リリーが連絡くれたんだね。グレイに会ったら叱られるわね」


「なぜ?」


「急にいなくなったから心配してるから」


「元気、心配ない」


「元気でも仲間が急にいなくなったら、心配して怒るんだよ」


「心配?怒る?・・分からない」


「そうだね。私はイエローたちが好きだから危ない事したら心配するし、あぶない事しないでと怒るね。人の感情は難しいね。嬉しくても泣くし、悲しくても泣く、嬉しくても笑うし、悔しても笑う。精霊や妖精はその点純粋だよね。楽しいことに特化だから」


「リリー、イエロー怒る」


「リリーはメイド魔蜘蛛の事をとても可愛がっているのは分かる?だからこそ危険な事したら怒るの。イエローもいつか分かるときがくる」


「イエロー、危険分かる。ライは危険。リリー怒る。イエローと同じ」


「そうだね。先ずはグレイとクレバリーを探さないと。さすがにアブクゼン商会の屋敷ほど無警戒ではないわね」


 ライは部屋から出られないのでクレバリーの特徴を説明して、イエローがクレバリーの部屋を探すことにした。廊下側の高窓が小さく開いているので、イエローはさっさっと壁を登り高窓から消えていった。残されたライは祝い品の山を上り詰めることにした。綺麗なリボンや布に包まれた物は何だろうかとうきうきしてしまう。


 よく見ると山は二つに分かれている。ライの昇っている山はシックな色合いのリボンや布が多い。もう一つの山は女性らしい華やかな色合いのリボンや布が多くつかわれている。大輪の赤い薔薇の鉢植えが絹の布に覆われていた。その横にも見たことない鮮やかな花の鉢植えがある。花は花束にして送るものだと思ったが鉢植えもあるんだと驚いた。


「届いた花は一度お部屋に届けてから配置するように」


 廊下から聞こえる声にライは慌てて祝い品の山からリボン伝いに滑り落ち、赤い薔薇の植木鉢を包んだ絹の布の中に滑りこんだ。使用人二人が部屋に入ってきた。


「どれを運ぶんだ?」


「そうね、バラは婚約者の部屋に、他は出迎えの玄関にしましょうか?」


「昨日運んだのにまだ花が来るのかな?」


「当たり前じゃない。それぞれの自慢の鉢植えをお祝い品にするのは南の風習よ。ここで見栄えの良い花と認められれば、そこでのお茶会に箔がつくわ。どこも良い庭師をいつも探しているもの」


「そんなもんかね。俺は食べるものがいい」


「そんなんだから彼女ができないの。スール様は学院で婚約者様を見初めてからは花攻めにしたんですって、有名よ」


「あんないい男から贈られたら雑草だって浮かれるぞ」


「まあ、そうね。長男のシュード様にご子息が生まれたので、西の公爵家のお嬢様との婚約のお披露目になったの。あそこも色々あったからしっかりした婿が欲しかったのよ。スール様なら気遣いができるから上手くいくわ。いずれは西の女公爵を支える存在になるわ」


「スド殿は妻を支えるなんて無理だな。あれは妻に手綱を握ってもらわないと飛んでいきそうだ」


「スド様はまだ若いから仕方ないわ。それじゃ私が薔薇を運ぶからあとはお願いね。向こうに持っていけば色合いを見て指示が出ると思うわ。お花が届くのも今日が最後だわ、頑張りましょう」


 二人の会話を聞いていたライはバラの鉢植えを女の使用人が運び出すのに驚いた。思わず薔薇の茎にしがみ付いた。


「さすがだな、身体強化か?」


「当たり前でしょ。スール様の婚約者の護衛も兼ねているのだから、これくらいはたいしたことないわ」


「あんたさんも凄いよ」


「うふふ、あら?お祝いの山の一番上のリボンが解けているわ。誰かひっかけたのかしら?直しておかないと」


 女の使用人は、ライが解いたリボンを直し薔薇の植木鉢を運び出した。ライは贈り物の山から下りるのにリボンの端を掴んでスルスルと滑り降りたのだ。慌てていたのでリボンを直すことまで考えていなかった。大騒ぎにならなくて良かったとライは胸をなでおろした。


 護衛ができる女の使用人に薔薇の花ごとライは運ばれていることに緊張してしまった。気配を最大限に消し、薔薇の茎にしがみ付いた。棘を切り落としてあるので安心してしがみ付ける。しかし植木鉢はほとんど揺れることなく階段を上りどこかの部屋に運ばれた。


「クレバリー様、お祝いの薔薇の花をお持ちしました」


 中から侍女がドアを開け花を受け取ろうとする。


「重いですから、置く所を指示してください。あと五つほど他の薔薇があります。続けてこちらにお持ちします。他の花はお出迎えの場所に配置します」


「ありがとう。日当たりが良いとこがいいかしら?窓辺の近くに置いてください。南は花を送るのが習慣なんですね。薔薇の鉢植えは香りが随分良いようだからその一鉢だけでいいわ。あとは公爵邸の皆様にお任せします」


「分かりました。西に帰るまで大切に管理させていただきます」


 静々と薔薇の鉢植えを窓辺近くに置き、女使用人は部屋を出ていった。ライは安堵したが次の声に驚いた。


「お嬢様、植木鉢の絹の覆いを外しましょうか?」


 だ、だめ。今外したら侍女にばれる。「トントン」ドアを叩く音と同時に「クレバリー入るよ」と声がする。薔薇の覆いの絹布を外そうとした侍女は、ドアを開けに向かった。入ってきたのは婚約者のスールのようだ。


「あれ?薔薇の花がある」


「いま届けてもらったのよ。重いのに女性が一人で運んできたわ」


「ああ、彼女は護衛を兼ねているからね。身体強化が使えるんだ」


「わたしのためね。スール、ここは公爵邸よ。心配しすぎよ」


「そんなことはない。君はいずれ女侯爵になるんだから、その身を守るのは俺の務めだ」


「ありがとう。こんな素敵なご子息を婿に出してよいのかしら?」


「僕が君の側に行きたいんだ。弟のスドは南の領地が合っている。俺ぐらい領地を離れても大丈夫だ」


 侍女が「お茶の準備を・・」と席を外す。ライはこんな風な甘い雰囲気になれていない。静かになった部屋の中で何が起きてるのか想像するだけで自分のことではないのに耳まで赤くなってしまう。


「ま、またあとでお茶に誘いに来るから、バラの覆いを下に降ろしておくね。こうすれば帰る時持ち出しやすい」


 ライは真っ赤になっている隙に薔薇の植木鉢の覆いをスールが、雑に解き鉢の周りに巻き付けた。スールの顔はクレバリーに向いている。ライはわずかに残った絹の覆いに隠れた。ライの心臓は恥ずかしいのと驚きで早鐘を鳴らした。


「ありがとうございます。お茶のお誘いをお待ちしてます」


 クレバリーの声掛けにスールは嬉しそうに部屋を出ていった。今しかない。ライは大声を上げた。

誤字脱字報告ありがとうございます

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>ライは真っ赤になっている隙に薔薇の植木鉢の覆いをスードが、雑に解き鉢の周りに巻き付けた。スードの顔はクレバリーに向いている。 スードって誰ですか?
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