145 フラワーネクター(妖精花の花蜜) 5
ライたちは魔蟻の巣から地上に出ることが出来ました
ライが魔力切れと疲れでグレイの背に寄り掛かっている間に、魔蟻たちが「ガチャガチャ」とせわしく動き回っていた。ライはスネとグレイにもライ印の蜜玉を食べさせた。
「ライ、美味しい!これも土産にくれ!」
「静かにしろ!まったくスネは成長しないな」
スネとグレイの言い合いを見ていた女王が、ライの作った蜜玉を見つめている。いつの間にか多くの魔蟻たちがライをと囲んでいた。敵意がないのは分かっていたがこんなに取り囲まれると死んだ昆虫を運び出すアリを思い出し身震いした。
「これ、はしたないぞ。ライといったか。この度は城(巣)を奇麗にした上に結界まで補強してくれ感謝する」
「この体でかけた魔法なのでそれほど強固には結界補助ができていませんが、今回の産卵と育児が終るころまでは維持できると思います。この蜜玉が気になりますか?」
「そ、そうじゃ。とても美味しそうな匂いがする。それは地上の蜜か?」
「そうです。蜜の中にも花によって効能が変わります。他に魔蜂の蜜玉もあります。産卵期の女王さまは疲れているようですから献上します」
「良いのか?そなたの魔力は心地よい。そなたの魔力がこもったものなら、わらわの体にとって滋養になりそうだ。わらわが元気になれば子供たちにも良い影響がある」
「グレイ、どれがいいと思う?」
「魔蜂の蜜玉と滋養に良い蜜玉があるか?」
「何種類か出そうと思うがこの小さいままより大きくなって出した方がいいかな?」
ライの体が小さいと蜜玉も小さくなる。それなら先ほどの大きくなって、蜜玉を出した方がより多くの魔蟻たちが食べられると思った。出入り口を通ればそれぞれの部屋に運び込めるだろうしみんなで共有できる。なかなか良い案だ。
「ライ、蜜玉そんなにあるのか?」
「うん、グレイに持たせようと沢山作ったのが残ってるし、女王さまの分も特別に用意してあるわ。グレイはたまごボーロしかもっていかないんだもの」
「うん、悪い。良かったら蜜玉出してくれ」
スネにもう一度大きくしてもらい、まずはマイナーたちの部屋に運び入れる蜜玉を魔法カバンから出した。ここに来るまでの地下道より少し小さい蜜玉をコロコロと出して床に置くとソルジャーの指示のもと玉転がしが始まった。魔蟻は喜んできびきびと蜜玉を転がしながらそれぞれの部屋に運び込んだ。大きな保存瓶の中が空になった。入り口のソルジャーたちが一斉に頭を下げた。
地下道の環境の悪化で多くの魔蟻が体調を崩していた。食糧調達の魔蟻が動けなければこれだけの多くの魔蟻を養うことは出来なくなる。さらに産卵期の女王にもそれはいえた。産卵期の女王はじゅうぶんな食事が必要になるが子供の食事を取り上げるようなことは出来なかった。それが女王の死期を早めることになっても仕方ないと思っていたようだ。魔蟻は女王が死ねば残された魔蟻は半年から1年の寿命をまっとうすると、それぞれ徐々に欠けていく。女王のいない組織はどこかの担当が欠け始めると総崩れを起こし緩やかに消滅する。
ライはスネに体の大きさを戻してもらい、メイド魔蜘蛛と作った小さな魔蜂の蜜玉を劣化防止の付与された瓶のまま差し出した。さらに魔蜘蛛絹で包装した抗菌作用が強いギョリュウバイ、鎮静作用の効果があるボダイ、濃厚な甘みに整腸作用が強いなどの単花蜜から作った蜜玉を差し出した。
「女王さま、この瓶に入っている魔蜂の蜂蜜から作った蜜玉です。滋養効果が高い上にとても美味しいです。他にも特殊効果の強い単花蜜から作った蜜玉があります。良かったら食べてみてください。産卵期を乗り切って城(巣)を守ってください」
魔蟻の女王は感謝を込めてライの頬に手を添えながら、「○×○×△△○○」と何かを唱えた。ライに添えた女王の手が光った。
「あなたに私の祝福を授けました。慈愛と優しさに満ちた貴女に感謝します。ソルジャーこの者たちが望む地に案内しなさい」
産卵期の女王の元に長くはいられない。ライたちはソルジャーとスネと出会ったマイナー達に案内され、さらに奥の地中を進んで行った。進むにつれて地下道に水溜りができる。これが魔蟻の城(巣)の環境を悪化させた原因のようだ。ライとスネと魔蟻たちで地下道の奥にゆっくり水がしみこむための貯水池を魔蟻の部屋の様に地下道の所々に作りながら地上に出た。
「ここは何処だ」
「ここは北の地じゃないかな?茂っている木の葉が針状だから。でも本来は密集しているはずなのに随分伐採が進んでいる。グレイ、森の様子が分かるから僕を乗せて高く飛んでくれないか?」
「モ、モス、どうしてここに居るの?」
「ついてきたから」
「どうして?」
「土の中だろ。土なら僕だよね。スラ」
「えっ、スラも?」
驚いている横からライの頬をつんつんするものがいた。ライが頬に手をやるとその手をよじ登るメイド魔蜘蛛の「イエロー」がいた。
「ああぁ、分かった。ライが俺と共に土の中に入るといった時、やけにあっさりみんなが送り出したと思ったらこういう訳か」
「グレイ、何が分かってるのよ」
グレイの説明では、モスとスラは土のことなら何でも知っているからライの手助けになると考えたのが表の意味で、モスは貰ったフェアリーリリーをどうしても育てたいと願った。ライについて行けばフェアリーリリーの花畑にいずれはたどり着くとふんで隠れて付いてきた。イエローのメイド魔蜘蛛はライの状況をリリーに伝える使命を遂行するためについてきたのが表向きで、イエローは新しいことが好きな冒険者気質でモスの案に飛び乗った。
呆れて何も言えないが心強い?仲間だと諦めた。屋敷の仲間にライが元気なことが伝わるのは良い事だと思うことにした。
「スネ、俺たちを普通の大きさにしてくれ。モス、俺が高く飛ぶから森の様子を見てくれ」
スネは手のひらサイズのグレイとライに捕まったモスとスラとイエローを元の大きさに戻した。ライの周りの広い範囲で森を守る大木が倒され、大きな木株が残っているだけだった。確か北の領地は林業とリゾート地として栄えてると聞いている。グレイはモスと一緒に高く飛び跳ねた。
「ライ、酷いぞ。あちこちに大木が刈り取られた空き地になっている。迷いの大森林の大切さを分かっていないな」
「このまま放置したら土が流れ出して森が崩れるかもしれないわ」
「ライ、魔蟻たちが進んでいいかと言ってる」
「ごめんなさい。グレイ、先に魔蟻たちの案内先に行きましょう」
大きくなった(普通の大きさになった)ライは魔蟻を踏まないように気を付けて歩き出した。魔蟻たちは自分たち特有のにおいを追いかけさらに森の奥に入っていった。いくつかの小山と谷を超えたところに洞窟の入口が顔を出していた。洞窟は魔物の巣になることがあるのでライは緊張した。ライの肩にソルジャーの魔蟻が登ってきた。
「ここの奥に花があると言っています」
「えっ、声が分かる。城から離れたのに、どうして?」
「あなた様は女王から祝福を受けました。どこにいても女王の子供(魔蟻)と会話ができます。ただ我々は小さいので耳のそばまで行かないと声が届きません」
「それはそうね。お話できるのは助かります。このまま洞窟に入ろうと思いますが皆さまはどうしますか?」
「花の確認までが命令です。帰りの案内が必要なら待ちます」
「帰りはグレイの転移で帰るから大丈夫です。花の場所までお願いします」
ソルジャーは「ガチャガチャ」と音を立て指令を出すと魔蟻は一列になり洞窟に入っていった。ライは体をかがめ、魔法で明かりを灯しながら洞窟に入っていくと、空気が変わった。
「グレイ、空気が変わった」
「ライ、この洞窟は魔素が濃い」
ライとグレイは気を張りながら奥に進むと広い空間に出た。そこには青々したフェアリーリリーの花畑ができていた。誰の管理もされていないのか妖精花の花蜜(妖精花の花蜜)が根元に落ちていた。ライは魔蟻たちに小さなたまごボーロを手渡しお礼を伝えた。
「わたしたちはここに残ります。案内ありがとうございます。私の屋敷は分かっていると思います。たまには遊びに来てください」
「帰りは気にするな。俺の転移で帰る。地下に水が流れやすくなった原因ははっきりしないが無理な伐採のせいかもしれない。調べたらまた知らせる。世話になったと女王に伝えてくれ」
魔蟻たちはたまごボーロを口にし帰りの英気を養って女王の所に戻っていった。
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