144 フラワーネクター(妖精花の花蜜) 4
ライとグレイ、スネは魔蟻の女王と対面する
メジャー、サブメジャー、マイナーの魔蟻達は一瞬にして情報を受け取った。メジャーの魔蟻が代表してライたちに声を掛けた。
「失礼した。わたしたちの探索と食料調達にマイナーたちが出かけた先でご迷惑をかけたようです。助けていただきありがとうございました」
「マイナー?」
「説明します。わたしたち魔蟻は一人の女王を支えるために多くの魔蟻が組織化されています。マイナーは一番多い働き魔蟻、それを小隊として指揮するサブメジャー、そのすべてを数人のメジャーが管理しています」
「凄いですね」
「人族も同じでしょう。魔蟻を存続させるために最適化した社会構造です」
「驚いた。うちの村に取り入れたいよ。ゆるゆるのだらだらだからな」
「ところで今回はどうしたのですか?人族がこんなに小さくなってきたのは何か訳があるのですよね」
グレイは端的にフェアリーリリーを探していることを伝えた。グレイが話している間も「ガチャガチャ」と音を立てながら情報を共有している。
「あの花の蜜を女王に献上しようと見つけてきたようだが、女王の体質には合わなかったようだ。北の方の森から見つけてきた。もしよければマイナーに案内させる」
グレイはソルジャーの言葉に感謝した。マイナーについて行きスネの力で地下道を作りながらライとグレイは簡単に移動できる。今すぐ出かけたいと思うグレイにライが声を掛けた。
「グレイ、マイナーたちが落ち着かないから、ソルジャーは私たちを早く追い出したいみたい。マイナーたちの奥から湿った悪臭がしてこない?」
「言われてみれば」
「ソルジャー、フェアリーリリーを探している私たちには願ってもないお言葉です。感謝します。そのお礼に何かできることはないですか?わたしは薬師です、わずかですが魔法が使えます。城(巣)の移転先を探すのはこの湿った空気のせいですか?」
「ガチャガチャ」とメジャー、サブメジャー、マイナーの魔蟻達は長い事話し合いをしていた。助けられたマイナー達がメジャー、サブメジャーを説得しているようだ。しばらくしてソルジャーが話し出した。
「女王さまがお会いしたいそうです」
ソルジャーが奥に向きを変えてライたちを誘導するように歩き出した。後ろに控えた魔蟻たちが両壁に分かれ、道を作る。ライはスネを小さくして抱きかかえグレイと共に奥に向かっていった。魔蟻の地下道には通路から上向きに部屋が作られている。入り口付近は雨水などで通路が崩れても、奥にまで水が浸入しないように工夫されていた。多くのマイナーたちが休む部屋であり、女王を守る門になってるようだ。
ライたちが進む地下道が少しずつ上向きになった先に大きな門があり、両脇に護衛の魔蟻がずらりと立っていた。今までの様子を見ても女王に対する魔蟻の忠誠心は非常に高いようだ。人の世界のように出世欲とか人を嫉妬するとかの悪心ない世界なのかもしれない。妖精村も争いのない穏やかな世界だとグレイは言っていた。
大きな門を通り過ぎるとそこは地下とは思えぬほどの広がった空間が現れた。先ほどまでの湿った悪臭はしない空間だった。その中央奥に大きな天蓋の寝台が見えた。他の魔蟻の4倍ほどの大きな女王魔蟻が大きなお腹をして横たわっていた。
寝台の右壁に沿って白い卵が一つ一つ個室に収まっていた。卵の世話用の個室では魔蟻が卵を磨いたりくるりと動かしたりと働いていた。その反対の壁には卵からかえったばかりのまだ薄茶色の小さな魔蟻が何かを食べさせてもらっている。育児部屋のようだ。卵からかえった魔蟻はマイナーたちより小さかった。寝台の女王がライたちを見て鷹揚に声を掛けた。
「仲間を助けていただき感謝する。今は産卵期のためここから動けぬ。失礼をするが許せ」
ライはグレイがしゃべる前に、大きな組織の頂点に立つ女王に敬意を表すことにした。
「突然の訪問にご迷惑をお掛けします。此処にいる森守り見習いの白蛇と妖精猫はわたくし人族の友であります。フェアリーリリーを探す旅をしています」
「すべての魔蟻がわたくしの子供であり配下だ。子供が世話になったなら礼をするのが親であろう。子供たちは私の世話をして寿命が尽きる。わたしは女王として子供たちを守り、魔蟻の子孫繁栄のために力を尽くす義務がある。だからこそ恩は恩で返そう」
「女王さま、フェアリーリリーの探索に協力いただくこと感謝申し上げます。お礼に何か困りごとがあれば出来る事でしたらお手伝いしたいのです。わたくしは薬師で魔法が使えます。女王の部屋はきれいに整えられていますが、やや湿り気が多いように思います」
「分かるか。そうなのだ。快適だった我が城が住みにくくなり城(巣)替えをしたいのだが丁度産卵期で動くことができない。この部屋はまだよいが地下道の部屋など雨水で浸水していないのに苔などが生え弱る子供が増えている。一応私の結界が作動しているが、今は力を産卵に使っているので結界の力が弱っているのだ」
「わたくしは妖精猫のグレイという」
「妖精か?子供から聞いたが妖精は小さな体に羽が生えたものだと聞いたが?」
「妖精にも種族が沢山あります。わたしは猫の形をした妖精です。いえ違います。猫が私たち妖精猫の真似をしているだけです」
「グレイ、なに言ってるの?今はそんな事いいでしょ」
「むぅぅ、そうであった。女王さま、今城(巣)替えできないならライの魔法で城を住みやすくしてもらえばいい。城(巣)替えは産卵が終ってからでもいいし、俺たちが急に城(巣)の環境が変わった原因を調べ、それを改善すれば城(巣)替えをしなくてよくなるのではないですか?」
「そうか、そちはそこまで考えてくれるか。よほど探している花は大切なんだろう。我には合わなかったが滋養の詰まった蜜玉だった。確か残りはあったはずだ。子供がわれのためにと集めてくれたものは粗末にしない」
女王の声と共に妖精花の花蜜が運び込まれていた。普通の蜜玉と違い白い透明感のある丸いものが10個並んでいる。
「これを使えるなら持って行くがよい。苗は枯れてしまったからここにはない」
「ライ、頼む。この妖精花の花蜜で助かる猫がいる」
「女王さまの好意に感謝します。妖精花の花蜜を収納させていただきます」
「面白いの。蜜玉がソナタの手からどんどん消えている」
「わたくしは収納魔法が使えますので保管には困りません。女王さま、まずはこの卵の空き部屋に魔法を掛けます。これで良ければこの部屋全体に魔法かけます。空気を清浄にして、湿り気やこびりついた埃や汚れを奇麗にします。「クリーン」」
ライの魔法をかけた部屋は小さく光ると作りたての卵の世話用の部屋が現れた。
「おお、凄いの。子供たちは良く働いてくれるが、この時期は生まれた卵の数も多く育児にも手がかかるのでそこまできれいに掃除ができぬ。いずれは城(巣)替えするもまだ早いのだ。できれば全部頼みたい」
「今の大きさでは一度に数部屋しかできないので、少し大きくなっても良いでしょうか?」
「そなたは伸縮自在なのか?」
「いえ、わたしでなくこのスネの魔法です。スネ、体が大きいほうが魔法が広範囲に使えるから今度も慎重にこの部屋より少し小さいくらいに大きくしてください」
「女王さま、迷いの大森林の一端を預かる見習い森守りの白蛇、スネです。伸縮自在の魔法は私がかけます」
スネはライたちの真似をして丁寧に挨拶したのち、ライの体に巻き付き慎重にライを大きくしていった。先ほどの5倍ほどの大きさでライの髪の毛が天井近くにあった。
「スネとても上手くいったわ。ではこの部屋全体に魔法をかけます。「クリーン、クリーン」」
ライは体の向きを変えしゃがみ込んで、先ほど通ってきた地下道に向け「クリーン」数回に分けかけた。その後ライは女王の結界にこのまま保持が続くようライの魔力を付与した。さすがに本来のライの大きさではないので体力も魔力も大分消費された。スネに元の大きさに体を小さくしてもらいグレイの背に寄り掛かった。
「そなた大丈夫か?」
「ライ、妖精花の花蜜を食べろ」
「これはグレイにとって大切なものだよ」
「俺のために頑張ったんだ。ライが倒れたら探しに行けないだろ。この妖精花の花蜜 はおまけの様なものだ。気にするな」
そう言ってグレイは妖精花の花蜜をライの口に押し込んだ。まだできたての小さな妖精花の花蜜は、小さくなったライの口にはずいぶん大きかったがどうにか入った。ライの口の中ですぐに溶けたが、涼やかな甘さを感じるかと思えば苦みを強く感じた。
薬と思えば我慢できるが好みが分かれる味だと思った。その後ライの体中に力がみなぎる感じがした。魔力も魔力ポーション以上の回復力を見せた。
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