143 フラワーネクター(妖精花の花蜜) 3
ライとグレイは白蛇のスネに案内され地下道を進む。
グレイとライは白蛇が作った土の中の道を暗闇のまま滑り落ちていった。ライは体が小さくなった実感はなかったが体が濁流に流される小石のように感じた。暗闇の中の滑り台は時に左右に曲がることや蛇のとぐろの様にぐるぐると回ることもあった。
「グレイ、目が回る・・・」
「先が明るい。もうすぐだ。足に身体強化かけておけ」
どのくらい滑り落ちたか分からないがライは薄暗い出口?にやっとたどり着いた。そこは小部屋ほどの大きさの広場になっていた。すべすべとした土壁にほんのり光る苔が灯り代わりに光っていた。小部屋と言っても小さいライの感覚なので決して実際は広くはないようだ。ライが周りを見回している間にグレイは白蛇に小言を言っていた。
「こんなに地中に深く滑り落ちるなら先に言え」
「えっ、普通でしょ。魔蟻の巣は雨や地中の魔物から自分たちの巣を守るために地中深く固い地盤に巣を作るんだ。巣を作っても脆弱な地中では雨による水害や土砂崩れで巣が埋まってしまうからだ」
「グレイ、白蛇の話が分かる」
「おいらの魔法がかかってるからだ。これでライと直接話ができる。だから・・僕に名前つけて!」
「えっ、森守りに名前なんて付けられない。名前つけるとなんか影響が出てしまうからダメ」
「そうなの?ジルだって、グレイだって、リリーだって名前があるだろ?」
「白蛇、名づけはそれなりに意味がある。森守りは人に飼われてはいけないんだ」
「グレイ、失礼ね。私は誰も飼ってはいない!」
「違う、言い方が悪かった。森守りは森を守るために特別な繋がりを個人的に持ってはいけないんだ」
「森守り辞めたらいいの?」
「白蛇さん、それはダメでしょ」
「白蛇、帰ったら古竜にしっかり教育してもらえ。それだけの力を貰っているんだ。自覚が足りなさすぎる」
「だって・・・」
「じゃ白蛇さん、愛称はどうかしら?白蛇だから・・・蛇はスネークだからスネは?」
「あいしょう?スネークのスネ?」
「遠い異国では蛇のことスネークって言うんだって」
「白蛇、スネは良いぞ。拗ねてばかりいるからスネだ。ぴったりだ」
「グレイはうるさい。ライの方を採用してこれからスネって呼んで。仲間になったみたいで嬉しい」
スネは体は巨大な白蛇だが精神はまだ子供に近いのかもしれない。スネに森守りの引継ぎが上手くできなかったことも大きく影響している。森奥の奥の火竜も若いから、スネにはしっかりしてもらいたいがライには何もできない。古竜に任せるしかない。
「スネ、ここからどうするの?」
「う~ん、どうしよう?ここで魔蟻と別れたんだ」
「スネ、魔蟻をここに送って来たのか」
「うん、そうだよ。待っててって言って向こうに行ってしばらくして戻ってきたんだ」
「スネは魔蟻の匂いが分かるか?」
「うん、わかるよ」
「それなら、ここからスネの鼻を頼りに奥に進もう」
「お、俺がリーダーか!?」
「違う。案内人だ。さっさと案内しろ」
「・・・」
「グレイ、スネにもう少し優しくしてあげて」
「仕方ないだろ。勘違いさせたら暴走するぞ」
「そうね。スネ、土の中はスネの得意分野だからとても頼りにしているの。でもね、戦いに行くわけではないからゆっくり静かに進みましょう。グレイは慌てても花は見つからないから落ち着いて」
「分かった。村の方は長老に任せて、俺の出来る事をする。ライと同じ大きさって新鮮だね」
「うん、肩に乗せていたのが嘘みたい」
スネが匂いを拾いながら少しずつ奥に進んで行く。普通のアリの巣は、通路から枝分かれをした部屋がいくつもあるから、この道をたどったら魔蟻のどこかの部屋に行きつくかもしれない。
しばらく進むと「ガサガサ」と音が聞こえる。ライは「ライトの魔法」を弱くかける。暗闇に慣れた目に普通のライトは眩しすぎる。スネが通り過ぎた直後、ライとグレイの前に土壁を破って鋭い爪が目に入った。慌ててライとグレイは後ずさりをした。
「スネ!気を付けて」
土壁を崩しながら丸い頭に尖った鼻、退化した小さな目、ずんぐりとした胴体に短い四肢が現れた。モグラだ。小さくなったライとグレイと同じ大きさだから黒褐色の毛もくじゃらで鼻先と手足が紅色のモグラを目の前にして驚いてしまった。庭園ではモスがモグラ除けの玩具を庭に差し込んでいるのでめったにモグラと出会うことはない。
モグラは目が見えないので紅色の鼻を動かして奥のスネの方の匂いを嗅いだ。モグラは急にぶるぶると震え地下道の中で暴れ始めた。
「あっ、モグラの天敵はスネだ。スネ奥に進め」
「モグラさん暴れないで、スネ、蛇はあなたを食べないわ」
ライはモグラの鼻先に干し肉を投げた。モグラは尖った鼻先をすぐに干し肉に向けた。もぐもぐと干し肉を食べている間にライは以前作った木酢液を取り出した。
「あなたには罪はないけど地下道を壊されたら私とグレイは生き埋めになるの。だから自分の巣に帰って」
ライは「ライト」の灯りを強くし鼻先に木酢液を吹きかけた。美味しく干し肉を食べたモグラは急なライの攻撃に慌てて後ずさりし、平たい前足で土をかき分け逃げ出した。モグラも蟻の様に土の中に道を作り用途に分けて部屋を作っている。こんな深さに巣は作らない。餌でも探しに来たところのようだ。モグラの出す音が聞こえなくなった頃スネが戻ってきた。
「俺がやっつけてやったのに」
「ここで暴れたら地下道が潰れるでしょ。私とグレイを生き埋めにするの?」
「ああ、そ、そんなことしない」
「むやみやたらに争いは起こさない。特に自分の立ち位置が弱い時はね」
「スネ、おまえだって地中ではモグラの方が動きがいい。数で襲われたら勝てないぞ。それにこれほどの深さなら巨大化は上手くいかない」
「そ、そんなことない」
「スネ、今は確認しないで。スネ、前に進もう。木酢液で匂いが分からなくなっていない?」
「うん、ちょっとね。でも大丈夫だよ」
ライは明かりを弱くしたまま地下道を進んだ。「ガチャガチャ」音がしてきた。灯りを奥に向けると二つ揃った赤い光が沢山光っているのが見えた。
「あっ、魔蟻だ。お~い!」
「待って!スネ!」
が呼び止めるのも聞かずスネは奥に駆けだした。仕方なくライとグレイもスネの後を追った。スネの前にひときわ大きな魔蟻が立ちふさがった。
「お前たちは何しに来た」
「こ、言葉が分かる・・」
「ここは地中奥深い我らの女王の城になる。何しに来た」
「ライ、魔蟻の女王は魔力が高いから自分の城を特殊な結界を張っているんだ。今は産卵期だから巣(城)全体が緊張しているみたいだ」
「僕はスネ、以前働き魔蟻を助けたんだ。ここの巣(城)の仲間ではないかな?匂いが似ているんだ。出来たら会いたいんだけど」
メジャーと名乗った魔蟻は女王以外の魔蟻の指揮官だった。「ガチャガチャ」魔蟻同士が話していると奥から一匹の魔蟻が前に出てきた。メジャーの許可を貰い魔蟻がスネに話しかけた。
「こんにちは、以前は助けていただきありがとうございます。言葉が通じるのは嬉しいです。今回はどうしたのですか?」
「あのね、僕の後ろにいるのが妖精猫で、もう一人が人間のライ」
「人間がこんなに小さいわけない。嘘をつくな!」
メジャーの目の色が赤黒く変化した。周りの魔蟻までが一気に戦闘態勢に入った。
「メジャー、サブメジャー、マイナー達も待って。この白蛇は今は小さいけど迷いの大森林の西の森守りなんだ。そうは見えないけど本当だよ。僕と一緒に出掛けた働き魔蟻に聞いてみて」
魔蟻は各巣(城)ごとに特殊な匂いを持っている。この匂いで巣から遠く離れたところに出かけても戻ることが出来る。そしてこの匂いで仲間との意思疎通ができるようになっていた。働きアリの数は多い。匂いで言葉を伝達するので何千という働きアリが一瞬にして同じ行動が出来るようになっていた。
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