141 フラワーネクター(妖精花の花蜜) 1
白蛇の話を聞いてグレイはすぐに地下に向かおうとした。
「グレイ、慌てないで!魔蟻と面識のある白蛇に案内してもらった方が良いと思うけどどう思う?闇雲に地下に行くにしても道はどうするの?グレイはモグラじゃないから穴ほり出来ないでしょ?」
「これにか?」
「分からなくもないけど、地中に転移したらグレイ生き埋めになっちゃうよ」
「む・・・」
しかめっ面のグレイもなかなか可愛いとライは思った。グレイはライと白蛇を眺めてどうしたらいいかしばらく考えた。
『グレイ、森は俺がしばらく見守るから白蛇を連れていけ。あれは幼いが磨けば光る子だ。だから次代の森守りになったんだ。あんなんだけどいいやつだ。土の中はいつ崩れるか分からないから、白蛇は役に立つ。白蛇なりに精霊や妖精を助けてくれたことに感謝しているんだ。白蛇から何をお礼したらいいか相談を受けていたんだ。白蛇を連れていけばライも一緒に行けるぞ。お前ひとりだと暴走するからライと一緒の方が上手くいく』
「そんなことない!ライを連れて行くなら大穴が必要になる。無理だろう」
『大丈夫。俺は伸縮自在の魔法が使える』
「伸縮自在の魔法?」
『俺は自分の体を小さくできるだろ。それと同じでライやグレイを小さくできる。それにグレイの大きさの穴をあけたら地面がへこむぞ』
「ライの体に支障はないのか?」
『大丈夫。守護の魔法がライとグレイには掛かっているから心配ない』
「守護の魔法がなかったら?」
『潰れる。だって自分用の魔法だから。だからこれを使うときは森の魔物相手の時だけだな』
「・・・・大丈夫か?」
『任せておけ。魔蟻はライの手のひらくらいだから、ライもグレイもその大きさになってもらう』
グレイと白蛇の話からグレイは白蛇と二人でフェアリーフラワーネクター(妖精花の花蜜) を探しに行く積もりのようだった。ライはグレイが何時も難問の解決に付き合ってくれていることに感謝している。
「白蛇さん、私も連れて行ってくれたら帰りにケーキ丸ごとお土産にできるよ。蜜玉は魔蜂の蜜でリリーが沢山作ってくれるし、向こうの精霊や妖精用のお菓子も準備できるけどどうかな?」
『わ、忘れてた。お土産頼まれたんだ。ぜひ一緒に行きましょう』
「ライ、お菓子で白蛇を誘うな!」
『でも、俺このまま森に帰ったらみんなに怒られる・・・』
「それもそうだ。随分楽しく過ごしていたもんな。精霊の連絡網で伝わっているな」
『えーーー古竜のおじい?本当に?怒られるじゃないか』
グレイの白蛇いじりを待って、地中に出向く準備を始めた。ライやグレイの身につけたものや持ち物は白蛇の魔法で小さくなるから、なるだけ必要なものはすべて魔法カバンに詰め込む。リリーの作った汚れ防止を付与した冒険服が大活躍する。リリーは残念そうだがライは動きやすくて大好きだ。
魔蟻は社会性を持つ虫系魔物である。魔物の中では小さくか弱い生き物に見えるが、実は虫の中ではかなり強い捕食者として存在している。毒液(酸性毒)を出して体表に付けたり飛ばしたりする。蜂の様に針を持って毒を注入することもできる。稀に嚙みつくこともあるし集団行動が得意で大きな魔物も多数で襲えば殺してしまうこともできる。
魔蜂同様、1つの巣に対し女王は1匹だが、種類によっては女王が多数存在するものもあり、春から夏にかけて繁殖する。そのために働き魔蟻がさきがけとなって、新しい巣を作る場所を探したり、食料を求めて旅に出る。その働きアリをライの屋敷の救護室が助けた。
白蛇が出会った魔蟻は全体が赤褐色で、腹部は黒がかった赤色。雑食性で、花蜜や種子、他の虫、場合によっては小動物なども捕食する魔蟻の中でも穏やかな種類のようだ。それなら木の実や甘い果物も持っていこう。あともし攻撃されたら酸に弱いからレモン水を作って噴霧すればいい。あとは魔蟻は冬は動きが鈍くなるので、氷魔石で凍らせるほどの風を送れる魔道具を作ろう。
土の中ではライたちは圧倒的に不利な状況なので殺したりしないで、平和的な解決の方が良いような気がする。グレイ一人なら転移ができるがライが小さくなってもグレイも小さいからライを連れては無理だろう。
「ライ、生き埋め防止のテントを作れ」
「あっ、それいいね。しっかりした柱で、布地も破れにくい防刃布がいい。生き埋めにさえならなければそこに立てこもればしばらく暮らせるね。あと毒に溶けない様にもしないと」
準備する物を精霊たちやリリーと相談してテントはリリーと精霊たちで作成に取り掛かった。ライは濃い目のレモン水を多量に作り噴霧器も準備した。ライたちは防衛と攻撃の準備はしたが友好的になるための準備を忘れていた。魔蟻の中で卵を産むことができるのは女王魔蟻だけだから何か女王魔蟻に贈り物の準備をしなければならない。働きアリは数が多いので量がいる。
「ライ、魔蟻は特有の分泌物を出して仲間を識別したり、その分泌物を出しながら歩いて餌を見つけた場合魔蟻がそれをたどって歩き沢山の魔蟻で餌を集めることが出来る。その分泌液に近いものを用意したらどうか?」
「それだと魔蟻の仲間と認識されるから種類の違う魔蟻から攻撃受けるんじゃない。それにその分泌液って何?」
「そうだよな。何ってなるよな」
「グレイ、焦りすぎ。今年の分は花蜜あるんでしょ。「急いてはことを仕損じる」と前にグレイに言われた言葉をグレイに返すよ」
「悪かった・・・俺らしくないか?」
街猫を含め妖精猫風邪の予防や治療薬になるフェアリーリリーのフラワーネクター(妖精花の花蜜)を探すことにグレイは焦りがあった。他の妖精猫も村に戻ってきているだろうから、グレイ一人が背負いこまなくても良い事だ。
グレイが500年ぶりに帰ったら、長老が年を取っていて驚いた。色々世話をかけた長老の困り顔につい自分でフラワーネクター(妖精花の花蜜)を探さないと焦った。ライはいつもグレイに見守られ、助けられて事をなしてきた。だからこそグレイを手助けしたいとライは思っている。焦るグレイを落ち着かせ地中探検の準備をすすめた。
「白蛇、一度森に帰って、仲間に旅に出ること伝えてこよう」
『なぜ?200年寝てる間も黙っていたけど』
「そこがダメなんだよ。森守りとして留守にするときはちゃんと伝えるし連絡方法を考えておかないと森守りとして認められないぞ」
『えっ、俺森守りとして認められてないの?』
「当たり前だぞ。森の異変に気付かず寝過ごす。お菓子は横取りする。勝手に森を離れる。この三つだけでも森守り失格だからな」
『一度森に帰りお土産のお菓子を配って、地中探検に行くから留守をすると伝えればいいんだな?』
「古竜、こいつに森守りさせても大丈夫か?戻ってきたら古竜がちゃんと教育しろよ」
『白蛇、先の森守りから教えを受けなかったか?』
『教えを受けたような受けなかったような・・・』
『散々寝てたんだから帰ってきたらしごくからな!』
『・・・』
白蛇はライたちの旅の準備の間にグレイの助けを借りて転移していった。古竜は白蛇の先が思いやられるとぶつぶつ言いながら白蛇のいなくなった寝床に入っていった。
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