14 ヨロンの街は猫にも人にも優しいらしい
ボブとギルドとの売買が終わった。取引が終わりにお茶を飲む。
「ところで ボブさんはお弟子さんでも迎えたのですか。見習いになるにはまだ早そうですが」
「いや、身内がいないので薬師のばあさんに頼まれて街に連れて来たんだ」
「ライといいます。捨て子なので村に残れないので、街で自立したいと思ってます」
「小さいのに大変だな。ボブさんと一緒に行商に廻るのかい」
「一度孤児院に・・とも思っているがまだ思案中だ。小さい村にいたから街の生活に慣れる方が先かもしれないな」
「まだ冒険者として森には出られないからな・・・見習いになるしかない。仕方ないか」
そう言って鑑定師の人は次の仕事に向かうために席を外した。
「ライ、俺はしばらくこの街に居る。慌てずいろいろ考えて決めよう」
ボブは街に、遺産分けで小さい家を購入していた。ボブは行商に出ることが多いから空き家に近いが根無し草にならぬようにと実家の親に家を持たされたらしい。ボブは独り身なのでライが一緒に暮らしても問題ないと言ってくれた。問題はグレイだ。
グレイがライのご飯が大好きで、毎回現れては食事をねだっている。妖精の食べ物は森の草、花や花の蜜、果物、魔素などの自然食らしい。ライの魔力が入った食事はグレイには格別に美味しいらしい。
夜はライの懐で グレイは寝ている。グレイを誰かに見られてはいけない。孤児院に入るにはグレイが目立つ。グレイがライから離れないだろう。早く街に慣れ一人立ちできるようにするしかないとボブは考えているなどグレイは気が付かない。
ボブとライは冒険者ギルドを出て荷馬車で本通りをゆっくり進む。
「ここは主要な道路だから、大きな商店・武具・洋服・雑貨・宿屋 ・飲食店・各種ギルドに役所に騎士隊詰め所などが立ち並んでいる。
あそこの看板を見てごらん。ご飯と布団の絵で宿屋。ご飯と酒樽で昼は飯屋で夜は酒場。字が読めなくても分かるようになっている。文字の読めない者も多いからだ」
本通りの奥の通りは道は狭い。そして露店なんかはそこで商売する。日常の買い物は、第2通りを使う。値段も手頃だ。その奥に住宅街が並ぶ。東の高台が領主館でその下は大きな屋敷が並ぶ。
貴族が住む貴族街、そして富裕層が住む高級住宅街。南はこの街の食を支える農村や酪農地区になっている。東門は基本出入りは厳しい。西門は森や村への出入りが主になる。北は隣街に続く大門。南は壁むこうの農耕地の出入りに使われている。
庶民の住むところは、所々広場があり屋台や出店が並んでいる。仕事帰りや冒険者の腹を満たす安くて美味しい物が並ぶ。農家の野菜や果物も売り出されている。村の家の中しか知らなかったライにとって目新しいものばかりだった。きょろきょろしている間に馬車が停まる。
「夕飯用に串焼きとパンと果物でも買って帰るか」
ボブが屋台で串焼きとパンと果物を購入した。本通りから3通り目の通りに入った。こぎれいな庭付きの小さな家が並んでいた。
「ライここが俺の家だ。留守にすることが多いから街になれるまでここで暮らせばいい。台所もある。グレイの望みもかなえられる。安心して過ごせるだろう」
庭の隅の馬房に荷馬車を取り外し馬をつなぐ。ライは木桶に水を出し干し草を準備する。ボブさんが荷物をかたづけているうちに馬のブラッシングを済ませる。
「ライこの街はなかなか良い街のようだ。街猫が自慢していた。街猫が住みにくい街は、人も住みにくいんだぞ」
ライの肩に突然グレイが現れた。グレイはアポの実を馬に差し出した。馬は美味しそうに齧り付いた。グレイはライの肩に乗りながら街の様子をライに語る。ライは、グレイの話を聞きながらボブさんの家に入った。
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