131 エリック・エドウィン 3
ライと猫は俺の理解を超える何かを知っている。ライなのか、猫なのか分からないが、何か使命を受けていると思った。それほど不可思議なことが起きていた。
盗賊の街の日の光を奪う石壁をストーンと神の作りし剣でまるで柔らかな果物を切るように切り裂いた。この時俺はライは神の使徒かもしれないと思った。卓越した知識と行動力、妖精猫との契約。この猫はいつでもライを見守り導く猫になっている。
ライは孤児で親を知らない。5歳前から冒険者見習いをしながら生きてきた。どれほどの苦労をしたんだと思うと、ミリエッタがライを大切にする気持ちも分かる。あの時生まれていたらライと同い年、黒髪に黒目、ライが俺の子だと言っても誰も疑わないだろう。俺はこの時必ず命に代えてもライをミリエッタのもとに返すと誓った。
そんな俺の決意を試すように出会ったのが軍神と宣言する大男だった。徒党を組み王都に向かう途中のようだったが、大男は周りの男たちとかみ合っていない違和感があった。それでも軍神と名乗るだけあって求心力は凄いものだ。
「すべて殺せ。我らに仇する奴に手加減はいらない。我ら軍神の使徒なり」
「「「「おおおー」」」
雄たけびと共にまずは鎧を付けない暴徒が向かってきた。俺の最上級の雷魔法を投げつけると空から多数の稲光が落ちて、数十人が跳ね飛ばされ火傷を負って死んでいった。威力の大きさにに俺自身驚いた。これほどの威力が出るとは思っていなかった。それでも起き上がり向かってくるものもいる。尋常ではない。俺はさらに雷魔法を繰り出した。
「ライ、馬車から出るな。ストーン、ライを護れ」
ライは俺の言うことなど聞かず。ポーションを持って怪我をした俺のとこに駆け出してくる。ストーンさえライを止められない。
「雑魚など捨て置き王都を攻めなければ革命がなされない!」
「誰が革命といった。お前たちが盛り上がっただけだ」
「「そんな・・・」」
「俺の力があればこの国だけでなく、地上のすべてを荒野にできる」
「軍神様は我らの神だ!」
「「「神だ!」」」
こんな奴らを野放しにはできない。結局ストーンとライも戦いに残った。軍神以外はどうにかなったが、軍神の男は仲間の死を吸収するように大きく凶暴になっていった。最後は猫がストーンに手渡した神の剣が男の腹を貫き光る玉を破壊した。
人の体の中の光る玉は何か?グレイが鍛冶の神の剣をなぜ持ってるのか?分からないことばかりだがもう丸呑みするしかない。ライに説明を求めたいが答えてくれなそうだし、俺自身が理解できる自信がない。
俺はここまでよく頑張った。今まで経験したことがない事ばかりもう驚くことはないと思った。それなのに古竜?フェンリル?妖精?精霊?お菓子?なんだ?だよ。目の前の小さく光るのが妖精?精霊?お菓子を食べている?
白い大きなオオカミがライに飛びついた時は一瞬魔法を撃ちこみそうになった。それなのにライはまるで子犬と戯れるように抱きしめもふっていた。
古竜などストーンが目を見張り体が動かない。お前だけじゃあない、俺だって、動けなかった。ライの周りにはお伽話にしか出てこない神獣だか幻獣がうろうろしてる。
そこに大食らいの大白蛇が出た時は飲み込まれるかと思った。これが森守りだと言われても何の威厳も正直感じなかった。最後は大白蛇は小さくなった。その理由が呆れる。
『この姿の方が美味しいものをゆっくり堪能できる。ちょっと気づくのが遅かった。目覚めたばかりは頭が働かない』と言い出す始末。何年分も食べられそうなくらいお菓子を貰っていなくなった。
ライ、どこからお菓子が出てくる。グレイは何度もどこかに転移してはお菓子をテーブルの上に広げる。森の荒れ地はライの仲間の土精霊たちが花や木々を植えている。夜には満足した精霊や妖精が森から大地に飛び出して行った。夜空に光の帯が出来て四方八方に分かれて住み慣れた大地に向かって飛んで行く。何か所も森に入りライは同じことを繰り返した。ライは大地に精霊がいないといずれは荒野になるから、森に逃げて来た精霊や妖精を元の大地に戻さないといけないと言った。
「エックおじさんは火魔法が得意ですか?」
「火が一番得意だな。土も水も風も問題なく使えるが火が相性がいい。どうしてだ?」
「火の精霊がおじさんに集まってるから」
気が付いたら俺の側に光るものがいて俺は驚いた。だからか、軍神との戦いのとき火の精霊が手伝ってくれたから、火力がいつも以上に威力が出てたんだと納得した。俺は手のひらに数個のお菓子をのせた。
「戦いのときは助けてくれてありがとう」
ライのようにお礼を言えば手のひらのお菓子はきれいに消えた。精霊も妖精も気まぐれだから、いつも手伝ってくれるとは限らないが、力を借りたらお礼はとても大事とライは言った。人ならざる者に話しかけお礼を言うことなどしたことがなかった。人は人の身だけで暮らしてはいないのだとこの時知った。よく見ればライの周りはキラキラと輝きライが動けば光が追いかける。ライが人外に愛されているのが分かる。
「ライはすべての大地を癒したいと思ってるんだ」
猫は何気なく俺に話しかけた。さらりと聞いたが聞き逃せない言葉だった。なぜライが他国の大地を癒さなければならない。なぜそんな責を持つことになった。
「ライは女神の愛し子ではないが、女神の祝福を多く受けた。ライでしかできないことをライはしているだけだ。ライは女神のお願いを聞いてしまうくらい優しいのだ。だから俺がライを守っている」
聖職者でないライには個人的に神託が降りるのか?猫にも神託が降りるのか?剣を取りに行ったと言っていた。猫は神界に出入りできるようだ。猫、猫と呼んでいたが猫は猫神か?
「猫神などいない。化け猫じゃあないぞ。子供じゃないんだから、思ったことをなんでも口にするな」
俺はもう何度目かの猫の小言を聞かされた。これでもグランド国魔導師団副師団長なのに情けない。ここに他の魔導師がいなくて良かった。ストーンの周りには俺より少ないが風の精霊がいるらしい。国に帰ったらしっかり魔力制御を覚えさせ腕の先から剣に向かって魔力操作が出来れば魔剣士として新しい道が開かれる。俺には剣士の腕はないが、接近戦も遠距離戦もできる魔剣士など初めてのことになる。身体強化しかできないものが魔力を放出できることさえあり得ないことだ。
「ライを守るためだ」
猫の一言で理解した。神の御業だ。ストーンはライを守ることにかけては自分の命と引き換えでも良しとするくらいに凄い意志を持っている。それが吉と出るか凶と出るかは俺にはわからない。ストーンは王国に帰ればライと別れ訓練の日々になる。俺に出来る事はストーンを強くすることと強さや誘惑に負けない精神を叩きあげることだけだ。
まあ。失敗も良い教訓にはなる。時には俺もライに会いに行きたいが王都で転移は申請しなければ使用禁止だ。緊急でもないのに使えない。手紙を書いたら返事をくれるだろうか?たまに贈り物をしても嫌がられないかな?お菓子かな?花がいいかな?
「花はやめろ。菓子でいい。俺が運んでやる。ストーンのとこに差し入れに来るから、ついでに!」
また一人言を話してしまった。ところで盗賊村で貰った酒はどうなった。生涯飲むことのない酒をライに預けたままだった。ライに酒をくれとは言えない。悶々と悩む日が続いたエリオットだった。
誤字脱字報告ありがとうございます。




