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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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127  お留守番のリリーのお話  3

 ライがリアの家に同居したときグレイは家事精霊を迎えに来てくれた。錬金術の修行や薬草採取に出かけたりでライは忙しい上にリア師匠は家事が得意でなかった。ライは朝早く起きて家事をしていた。そんなライの大変さをグレイが心配してのことだった。


 家事精霊は初めてリリーという名前をライから貰った。リリーは名前があることで存在を認められたと思えた。リリーは家事をしながらライの仕事を見て過ごす。ライの調剤も料理もリリーは見たことがなかった。リリーは食事という概念はなかった。ライの料理はリリーの知らないものばかりで見ているだけでも楽しい。食べればもっと幸せになった。


 リリーはリアが自分に気が付いていることに気が付いた。リリーに向かって話しかけた人はライだけだった。今まで人に気づかれる事などなかったので驚いた。さらに感謝の言葉を掛けてもらえたことにも驚いた。


「妖精さん、いつも洗濯物きれいに畳んでくれてありがとう」

「妖精さん、お部屋を掃除してくれてありがとう」

「妖精さんはお菓子が好きなの?ライちゃんの手のひらのお菓子が消えたのは妖精さんが食べたの?」


 リアはライの作ったクッキーを手のひらに一枚のせて差し出した。グレイが妖精猫だと分かっているなら、もうリリーの存在はばれてることだし良いかと思ったリリーは大好きなクッキーに齧り付いた。


「わー、本当に妖精さんね。羽が生えているの?女の子?男の子?どこから来たの?お話できる?」


 立て続けの質問に慌てたリリーはその場を逃げ出した。悪い気はしなかったけどリリーの声はリアには届かない。ライだって姿は見えても声は聞こえない。妖精が見える人は少ない。さらに話せる人はもっと少ない。百年一緒にいても家事精霊に気づく人はいなかった。たまに光と認識するが幽霊や魔物と間違われ追い掛け回される程度だ。


 ライはリリーにとても優しい。話しかけてくれるしお礼も言ってくれる。この間なんて、お風呂に一緒に入った。良い香りの薄い水色のお風呂に小さな木板を浮かべ、そこにリリーを乗せてくれた。リリーの小さな足がぽちゃぽちゃとお湯の中で動く。ライが小さな板を押すとお湯の上をすーっと走るのがとても面白くて何度もおねだりした。そのうちライの顔が真っ赤になった。


「ライ、いつまで入ってる!のぼせるぞ!もうのぼせてるか?早く出ろ」


 グレイの声にびっくりして、リリーはお風呂の湯に落ちた。真っ赤な顔のライは慌ててリリーを救い出してくれた。


「リリーお湯に落ちたけど大丈夫?リリーはお湯で濡れたら服を着替えるの?髪を乾かすの?」


 真っ赤な顔のライはふらふらしながらお風呂を出て居間に移動した。柔らかな布でリリーの水気を拭きとろうとしてくれる。


「リリーは自分できれいにできるだろ。ライ、冷たい果実水だ」


「グレイ、ありがとう。ちょっと長湯しすぎた」


「リリーが初めてのお風呂で遊び過ぎたんだろう。リリー、人は長湯すると倒れるぞ。気をつけろ」

「・・・」


「グレイ、リリーを叱らないで、私がリリーと楽しくしたかっただけだから」


 リリーは嬉しかった。誰かに守ってもらうなど初めてのことだった。この家に来て、楽しい事や嬉しい事、美味しいことが増えていった。リリーのワクワクとした思いは何なのか分からない。リアにリリーの存在がばれた時リアがすごく喜んでいたと言われた。


 ライがリアとお話できるように『はい、いいえ板』を板で作ってくれた。使い方は簡単。リアの質問に『はい、いいえ』板で答える。ライがリリーのために可愛い小さな箒を作ってくれた。それを使って答える。リリーよりリアが喜んだ。


「妖精とお話できるなんて、子供の頃からの夢だったの」


 それからはお茶の時や食事の時にリアは色々聞いてくる。『はい、いいえ板』をテーブルに置いてお話したり、たりないとこはライやグレイが補ってくれた。最初は元気がなかったリアがすごく元気になってライに家を売って、息子の所で新しく暮らすことになった。


「リリーちゃんは私と一緒に来てくれない?」

リリーは『はい、いいえ版』の「いいえ」を震える箒で指示した。


「分かってるわ。この家から離れられないのね。ライもグレイも居るからリリーはここに居るのが一番だと分かっているの。でもちょっと我儘言ってみたの。ライみたいに妖精連れてるなんてかっこいいでしょ。孫に自慢できるもの」


 リリーは一緒に暮らしたリアも大好きになっていた。リリーはリアの頬に口付けをした。付いていけない謝罪と楽しかったことへの感謝を込めたものだった。今までも何百人と別れがあったが、こんな思いを持ったことが無かった。


 リアがいなくなって正式にライの家になった。庭で花や木々を育てている土の精霊が、庭をどうするかと声を掛けてきた。リリーは自分以外の精霊と話をしたことが無かった。


 黄色い帽子に黄色い服を着た若い小さな精霊モスは、黄色い帽子の先がちょっと折れているのがとても可愛い。ライのために薬草畑も作ると張り切っている。その横にはスライムがぼよよーんと跳ねている。スライムは雑草やいらない花などを食べて、土を豊かにする「肥料」を生み出すらしい。


 入り口までのレンガ道や花の配置などモスたちと色々話すのはとても楽しかった。地下室が見つかったら、ライはそこを精霊や妖精で自由に使っていいと言ってくれた。庭からの出入り口はモスが、部屋の中からはライがドアを作ってくれた。それからは地下を綺麗に飾りテーブルを置いてお茶が出来るように配置した。このころにはリリーはライのお菓子を真似て作れるようになった。ライほどの腕ではないけどモスたちは喜んでくれた。


 リリーとモスたちで作り替えた地下室はおしゃれなカフェになっていた。地下室の薬草棚の空き棚をモスの宝箱、スラの宝箱、リリーの宝箱にした。それぞれ収納の力はあるが個人の部屋を持てることがとても嬉しかった。モスの庭造りに集まる精霊や妖精はいつの間にか地下室でお茶をするようになった。


 お茶やお菓子の代金に何が欲しい物はないかとお茶に来た精霊や妖精に問われた。リリーとモスが悩んだ末に薬草棚に薬草や錬金術に使える材料が欲しいと伝えたら、精霊や妖精がこぞって色々持って来るようになった。顔見知りでもないからお茶を飲みに来られなかったらしい。本来遠慮などしない気まぐれな精霊や妖精たちでもリリーの手作りお菓子は特別のようだった。


 リリーはライが欲しい薬草をどんどん集めライに手渡した。最近は迷いの森に薬草採取に行けなくて悩んでいたから、とても喜んでくれた。ライからお礼に手作りの白いレースが付いたエプロンとお揃いのホワイトブリムを貰った。あまりの可愛さにしばらく鏡の前で踊ってしまった。リリーは贈り物を貰ったことが無かった。初めて尽くしの今の生活が最高に楽しい。


 ある日地下室にきれいな女性が訪れた。どうやら女神らしい。グレイと話しているうちに地下室のカフェの向こうに森が現れた。女神はリリーのお菓子でお茶をして笑顔で消えっていった。


「どうするんだよ。女神が勝手に迷いの森と地下室をつなげてしまった。ライに何と言おう?」


 珍しくグレイが頭を悩ましている。いつも偉そうにしているグレイの困り顔は面白い。リリーはちょっと嬉しかった。だって、女神に「とても美味しかったわ。他の子たちにも宜しくね」なんてお願いされたからだ。


 それからモスたちはカフェから森に向かう道を綺麗に整備し小川を作り小池には魚を泳がせた。地下なのに暖かな日差しが差し込みたまに雨が降ってきれいな虹が生まれる。リリーはカフェの店長として忙しい日々を送ることになった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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