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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
124/176

124  ザッツ国からグランド国に

 ライたちがザッツ国の王宮に戻って挨拶をしたらすぐにグランド国に戻ることになった。ザッツ国王都および近郊の街の高熱病の治療はつつがなく終わり、ライたち地方に出かけた者たちの帰還を待つだけになっていた。その中でもライが一番遅かった。


「ライさんご苦労様、随分大変だったようですね」


「アーツさん達こそ王都に患者が集まり大変ではなかったですか?」


「それがね、ザッツ国の人は虫の毒に耐性があるのか、そんなに高熱にならず回復も早かったんだ」


「それに魔力が少ないので、魔力ポーションも一回少量飲めばほとんど回復してしまいます。魔力の多少について人体への影響を研究しようかと思います」


「まったくハイラは仕事人間なんだから。少しは休まないと頭の毛が抜けるぞ」


「まだ若いですから大丈夫です。ただ頭髪の再生は出来ないので大事にします。アーツさんだってこっちの医師と勉強会していましたよね。ザッツ国の国民は魔力が少ないのです。そのせいで魔法を使う治療師がほとんどいないからか、医術の研究は随分進んでいるように思いました。今回親しくなった医師たちと研究論文の交換会を開く予定です」


「随分余力が・・・」


「そうなんですよ。王宮の事務官たちが正気に戻ったら、グランド国に来たナッタ特使が中心になってあれよあれよと人手や物品を備蓄から出してくれました」


「あの方グランド国に来たときは頼りない人だと思っていましたが、自国に帰ったら目の覚めるような活躍で外務大臣に任命されていました。グランド国から高熱病の治療使節団を連れてきて、国中に蔓延した病を助ける手助けをしたことが評価されたみたいです」


「なんかもともと武を尊ぶザッツ国で異色の文官だったそうです。ここだけの話ですが脳筋だけでは国は成り立たないことを王様や大臣たちが身に染みて感じたようです」


 ライはナッタ特使の体の中から見習い神がいなくなって、本来のナッタに戻ったようでほっとした。隣国との戦争なんてお断りだ。ライとグレイはアーツやハイラの話を聞きつつこれで帰国できるんだと安心した。


 魔導師団副団長のエックが王都に戻ったことで帰国の準備が整った。ライとストーンが戻る前に王宮ではお礼の晩餐会は開かれていた。


「こんな事ならジルたちと帰ればよかった」


「そうはいかないだろう。国をまたぐにはちゃんとした決まりがある」


「分かっているけど・・・」


「それともドレスを着てストーンとダンスがしたかったか?」


「そんなこと言ってない。グレイの意地悪。特別な料理があるかな?と思ったの」


「ライは、まあそんなもんだな」


「ザッツ国のお土産買えなかった・・・」


「今はまだ王都に商品が集まっていない。欲しい物はないぞ。モスなんて森で珍しい種や苗を集めていたぞ」


「あんなに働いていたのに?」


「おお、こっちの精霊と仲良くなっていたから古竜に乗って会いに来るかもな」


「体の小さな精霊なら可能かもしれない。羨ましい」


「それにあいつをどうするんだ」


「あっ、忘れていた。ストーンさんをエックさんに預けないといけないね」


 ライはグレイと話しながらグランド国に向かう馬車に乗り込んだ。ザッツ国の外務大臣になったナッタはザッツ国の代表として、最後の挨拶をしてグランド国の隊列を見送ってくれた。ナッタの挨拶を聞いてナッタの中には見習い神はいないとライは確信した。


 グレイはナッタの体の中で生涯を孤独と共に生きていく元見習い神の存在を知っていたが、ライにはそのことを告げないと決めている。優しいライは元見習い神の自業自得でも、もっと他にできたのではないかと後悔するかもしれないからだ。人は良い結果でも、悪い結果でも満足せず悩む生き物だとグレイは思った。


 ライたちを乗せた馬車は、来た時と逆にザッツ国から迷いの大森林の交易路に向かった。あんなに虫に食いつくされていた大地は、今は緑に覆われ農地に多くの人が仕事に出ていた。気持ち良い風が吹き、明るい子供の声が聞こえる幸せな日常が戻ってきたようだ。


 迷いの大森林の交易路は行きと同じようにまっすぐ広い道が伸びている。ライたちの馬車が森に飲み込まれるよう大森林の中に消えた。馬車の周りだけ陽だまりができ、大木たちが道を広げるために動いた後の下草に小花が咲き、鳥のさえずりが聞こえる。ザッツ国に向かう時と違い森が生き生きしているとライは感じた。


「女神のお礼だな。帰りも早く帰れそうだ。俺は少し寝る」


 グレイはライの膝の上で丸くなって寝てしまった。今回もグレイは本当に大忙しだった。神界に行っては剣を受け取ってきたり、妖精や精霊を助け、リリーの料理やお菓子を取りに行ったりと、本当に良く働いた。いつもグレイはライのことを一番に考えてくれている。契約という言葉なんて関係ない。いつまでも共にいようとライはグレイを撫でながら思った。


 まっすぐな道は馬車の隊列が過ぎれば大木が移動し、細いくねくねとした元の交易路に戻っていく。隊列の前にはグランド国まで広い道が伸びていた。


「不思議だよな。交易路を通ったことないけどこんなに走りやすいなんて驚いたよ」


「こんな道普段はないぞ。今回は迷いの大森林が味方してくれたんだ」


「そんなことあるのか?」


「今回は神の神託や癒しの雨などあっただろ。聖職者でなくても神々をすごく身近に感じた」


「「「俺も」」」


「俺は王都から地方に出た時盗賊に出会って逃げ出したんだ。その時崖から馬車ごと落ちたんだ。もうだめだと思ったら、魔導師が賊を倒している最中に馬車ごと崖上に戻っていたんだ」


「俺は、馬が盗賊に興奮して暴れ出した時急に風が吹いて盗賊を吹き飛ばして馬を鎮めてくれた」


「俺は、道に迷って森に入り込んだ時、光が馬を導いて村まで連れて行ってくれた」


「誰も信じないよな。でも俺は神に守られていると感じた」


「うん、そうだな。俺はグランド国に帰ってこれないと思ってザッツ国に向かった」


「「俺も」」


「でも行ってよかった。荒れ地が緑に覆われるのを見た時は驚いた」


「夜空に星が輝く中ほうき星を見た。本当にすごかった」


「「お前見えたのか?」」


「最初はキラキラした流れ星程度だった。何度も夜空を仰いだ。そのうち光の粒が渦の様に森から四方八方に飛んでいくのが見えた」


「おお、いいな。俺は少ししか見られなかった」

「森から遠いと見えなかったかもな」


 グレイは耳を澄まし聞いていた。みんなが感動する現象が、ただお菓子で釣られた妖精や精霊だったと知ったらがっかりするだろうと思ったが、エックとストーンも分かっていても驚いていたから、お菓子で釣られたことは関係ないかと思い直した。ライは馬車の揺れにウトウトしている。今回ライは随分頑張った。それにエックとストーンがいなければこんな成果は得られなかった。ライがいるだけでこの世界は守られているとグレイは思った。


 あのまま軍神が徒党を増やしザッツ国を襲ったら、ザッツ国は滅びただろうしその勢いで、周辺諸国にも勢力を伸ばしただろう。しかし軍神に国をまとめる能力はない。誰かがあれを止めて、昔のように新しい国を作れればよかったのかもしれないが、その新しい国がどうなるかは分からない。


 軍神が邪神になればとてもじゃないが人の手に余る。殺戮だけのためにこの大陸の全ての国も、迷いの大森林をも破壊するだろう。そうして人も精霊も妖精もいなくなれば、この大陸は滅びの地になる。ライが手繰り寄せた縁が大陸を救うことになった。何も知らず寝ているライをグレイは愛しく思えた。


『ライ、迷いの大森林を抜けたぞ』

「えっ、もう?今回も女神さまの御業?」


『そうだろうな。一日かからずこっちにこられたんだから。馬車は風で送り出されたんだよ』


「ほーーー、全然気が付かなかった」


『外の風景は何も変わらないから気が付いていないかもな。御者は吃驚してるだろうけど行きが行きだから、神の御業と思ってると思うぞ』


 王都に着いたらアーツたち代表の謁見があるだろう。公爵たちはとっくに自領に帰ってる。半年以上王宮に残っているわけがない。ストーンは魔導師団に残るから帰りの心配がないが、ライは公爵と一緒に来たので帰りの馬車がない。


「グレイ、どうやって家に帰ろう?」


『心配ないよ。アーツさんたちと帰ればいいじゃないか』


「なんかしばらく残って、論文書くなんて言い出しそうじゃない」


『あり得るかもな。出発前にいた王宮の別邸で一日二日休むだろう。その間に調べておく。どうしても取り残されそうならジルに迎えに来てもらおう』


 なんてこった。最後の落ちがジルで帰るならザッツ国で帰ればよかった。ライの心配を笑うように東から来た人も西から来た人も王様の計らいで、皆転移陣を使用して帰ることになった。ライは今回も王都をゆっくり散策できなかった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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[気になる点] 誤字があり過ぎてあっちもこっちも直したくなる。
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