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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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123  森に隠れた精霊たち  2

 迷いの大森林は広い。馬車で移動しながら所々で、隠れ精霊に声を掛ける。お菓子の補充のためにグレイはリリーのもとに転移を繰り返す。モスは無残に開墾され放置された森の荒れ地にスラの肥料と木々の苗を仲間と共に植えていく。


 エックとストーンも枯れた株や大岩を取り除くのを手伝ってくれている。二人には見えない妖精や精霊たちが二人の周りに集まっている。エックの魔法に手を叩き喜び、ストーンが大岩を砕く剣技に驚きの舞を踊る。精霊や妖精が見えるライやグレイから見てると二人は精霊や妖精に気に入られたようだ。


『こんにちは、古竜さん。こんなところまで出張ってきたのかい?』


『白蛇ではないか。奥は若いものに任せたから、森の淵を手伝っているんだ』


『なんか森が騒がしいと来てみたら、楽しそうに歌って踊っているね。何かあったのかい?』


『そなたはザッツ国の事件を知らないのか』


『しばらく寝ていたからな。森がうるさいから起きてきたばかりだ』


『そなた森守りの仕事が出来ていないぞ』


『そうか?森など何もしなくてもどうにかなるもんだ。長く寝ていたからお腹が空いた。皆は美味しいものを食べたんだろ。聞いたぞ』


『腹空きでここに来たのか?リリーの飯はうまいぞ』


 古竜と大きな白蛇が向かい合って話している。念話が分かるライとグレイたちから見たら呑気な会話だが、エックとストーンにはライの仲間の竜が巨大な白蛇に襲われているように見えていた。


「ライ、こっちにこい」 エックの声に緊張が走っている。


「ライさん私の後ろに」 ストーンはライをかばうように手をライに出した。


「大丈夫です。白蛇さんも森守りらしいけど寝て過ごしていたから今回の件を知らなかったんだって。お腹が空いたから何か食べたくて起きてきたみたい」


「「・・・・」」


 グレイが大きな木株にリリーの料理とお菓子を広げると、大きな口から長い赤い舌を出しぺろりと料理を巻き取っていく。『美味い、美味い』とつぶやきながら食べつくしていく。もう何回目かのお代わりにグレイが怒った。


「いい加減にしろ。お前は今回何の働きもしていないんだぞ」


『あれ?妖精猫?怒らないでくれ。腹もいっぱいになった。向こう200年は古竜の迷いの森も守るから古竜に取り成してくれ』


 グレイに叱られた白蛇は恐ろしげな姿に似つかない気弱な声を出して、巨大な白蛇の姿から手に乗るほどの大きさに縮まってしまった。


『この姿なら美味しいものをもっとゆっくり堪能できたのに気が付かなかった。目覚めたばかりは頭が働かない』


 何処まで食いしん坊な白蛇だ。小さくなった白蛇はグレイと古竜に小突かれ、お土産を貰って森奥に帰っていった。なんとも人騒がせな白蛇だった。本当に森守りの仕事が出来るのか心配になる。今は満腹になったから昼寝をしてしまいそうだ。森に隠れた精霊や妖精にも気が付いていない。まだまだ寝ぼけているんだろう。古竜が頭を振って呆れている。


 エックとストーンは、古株の古根を掘り出し焼いて灰を作り、ライは水を撒く。そこにも精霊たちが集まる。エックの服を引っ張ったり、ストーンの髪の毛に入り込む。精霊や妖精の悪戯好きは変わらない。二人は少しずつ慣れてきたのか、やりたいようにさせていた。


「エックおじさんは火魔法が得意ですか?」


「火が一番得意だな。土も水も風も問題なく使えるが火が相性がいい。どうしてだ?」


「火の精霊がおじさんに集まってるから」


「どこどこ」 エックはきょろきょろと自分の周りを見るも昨夜ほどの輝きの塊ではないからエックには見えない。


「このお菓子を手の平に乗せて前に出してみて」


「こんな小さな砂糖菓子を手の平に乗せて、前に出すのか。おっ、消えた。どんどん消えてく」


「魔法使う前や使い終わったら『ありがとう』と言ってご褒美を上げてみて。気が向いたら力を貸してくれる時もあるかも」


「精霊や妖精にそんな力があるのか?それじゃ契約?してしまえばいいのか」


「精霊や妖精は気に入れば側にいてくれるし、親和性が高くなれば、近くにいる精霊が助けてくれる。だからと言って使役するものではないわ」


「おお、そういうものか。この年になっても知らないことがあるもんだな」


「ずーっと昔は人と精霊はとても仲良しで、見える人も多かったと聞いています。ともに助け合って生きていたんですって」


「ライさん、僕の周りにいますか?」


「ストーンさんの周りには風の精霊がいますね。頑張れば風を操れるかもしれません。ところで今更ですがストーンさんどうしてここにいるのですか?」


 ストーンは顔を赤くしながら話してくれた。魔導師団がザッツ国に護衛で出向くから、ストーンの訓練まで手が足りないと訓練は中断になった。自国にいてもしょうがないので、ライがザッツ国に向かうなら護衛に出たいと申請を出したら許可が下りて、魔導師団付きで護衛として参加したとライに伝えた。


「ライさん、無茶はするし、とんでもない男に迫られるし「とんでもない男!」」


「エックさん割り込まないで下さいよ」


「ストーン、詳しく話せ」


 いつの間にかエックとストーンが西の領地での事件の話で盛り上がっている。あれはライがもてたという話でなく、ライの功績欲しさの行為だった。ストーンの勘違いな話に盛り上がる二人の横にジルが側にいる。ジルは聞き耳を立てているようだ。


「ところでそこにいる白いオオカミは、あれからずっと付いて来ているがいいのか」

「ジル?ジルは私の護衛のフェンリルなの」


「フェンリルって神獣、幻獣・・。なんかライに凄く懐いているように見える」


「それはそうよ、一緒に暮らしているものね」「わん、わん」と吠えながらジルはライに抱き着く。


「凄く尻尾振ってる」


「ジルは護衛ではストーンさんには負けないって言っているぞ」


「こいつも話すのか?猫と同じか」


「ジルはまだ子供だから念話が出来るようになったばっかだ」


「わん」と一声吠えて、ストーンに目を向ける。


「本当だ。会話になってる。ストーン、子供に喧嘩売られてるぞ」


「僕は騎士です。喧嘩などでこの剣を使いたくありません」


「グレイ、鍛冶の神の渾身の剣は壊れて粉々になったけど、試作品はどうするの?」


「ストーン、何気に体で隠すな。魔剣でないから貰っていいんじゃないかな?」


「ほ、ほんとですか?グレイ様」


「ちゃっかりしているなストーンは」


「エック、ストーンは邪気がないから鍛冶の神の魔剣を使えたんだ。さすがに神の剣は邪気だらけの人には扱えない。それに邪神化しそうなほど汚れた神玉を人が砕くには、ストーンの様な奴が魔剣を扱うしかなかったんだ」


「それも神の思し召し?」


「いやそれは奇跡だな。ライの縁だ」


「エックが騎士だったら邪神化の神玉に飲まれて、魔法が使えるから軍神の代わりに魔王の子供が生まれていたかもな」


「俺の心はそんなに汚れていないぞ」


「どうだか?昔を振り返れ」


「・・・返す言葉もない」


 ストーンは返すつもりでいた剣を大事そうに抱えていた。グレイの言葉なら鍛冶の神の打った剣はこの世で手には入らない。清き心根のものが生涯大切にすることが大切だ。


『ライ心配するな。悪しき心に囚われたらあの剣は、ボロボロになって剣として使えなくなる。ある意味人生を縛られる』


「人生を縛られる?」


『人はだれしも無垢なままの子供では生きられない。時に欲望に負けたり甘言に流されることもある。その失敗を繰り返して成長していくらしい。


 それに失敗しない人生などない。おれだって、何度もあの時ああすればよかった。あの時欲を出さなければと思うことはある。失敗や後悔を乗り越えて新しい生き方が出来るんだ。それなのに欲を持たず甘言も聞けず、実直に真面目に生きることだけに縛られたら楽しくはないだろ』


「そうだね。ご褒美が呪いになっちゃうね」


『だから俺はストーンに何も言わない。剣が使えなくなった時ストーンが、何を思いどう行動するかだ。何もなければそれはそれでストーンが満足した人生だと思う』


 ライたちは復興していく街や村、森を見守りながらザッツ国の近くの森に着いた。ここに来るまでに何か所も宴会をしては隠れていた精霊や妖精を森から大地に帰していった。これ以上はジルも古竜もついて行けない。魔導師団の副団長の仕事をいつまでも放棄してはいられないエックは、一足先に王宮に戻った。護衛はストーンとライの仲間がいるので心配はなかった。森や村がキラキラと輝くものたちに包まれて、荒れ地が消えていく姿を目の当たりにした驚きと感動は言葉にできなかった。エックは誰にも伝えることができない経験をライに感謝した。


 『ライといたい』とジルがライに縋りつく。


「ジル、ジルは分かっているよね。ザッツ国の森がもとに戻ったのはみんなのお陰だから、とても感謝しているの。でもね、ここはお隣の国だから、東の街のようにはいかないの。ジルが人に追われたり襲われるところは見たくない。モスやスラを連れて先に帰っていて。リリーは家から離れられないの、お願い」


 しぶしぶジルはモス達精霊や妖精、スラをのせて迷いの森の中に走り出した。


「大丈夫だ。ジルは我が儘言ってみたかっただけだ。古竜の爺さんが面倒見てくれる。それより早く王都について帰国しよう」


 グレイの言葉を合図にライを乗せた馬車はストーンに操られ王都に向かった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

猛暑お見舞い申し上げます。

最高気温33度と聞くとほっとするようになりました。

慣れって恐ろしい。

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