12 冒険者登録
ナロン領ヨロンの街に着いたライとボブは西門で検問を終え街に入った。
西門を抜けるとまっすぐ伸びる大きな本通り。左右に色とりどりの看板が並んだ店屋が軒を連ねていた。
見たことないほど沢山の人が歩いている。笑う声や話声、馬車の音、物売りの声など多くの音がする。
冬の草原は茶色か枯草色。村は緑と土の色で、鮮やかな色彩を見るのは初めてだ。
ボケっとしているライを連れてボブさんは、大通りをゆっくり荷馬車を走らせた。しばらくすると2本の剣が交差した紋章を掲げた看板が目に入る。
大きなガッシリとした石造りのその建物の前に、荷馬車は止まった。
「ここが冒険者ギルドだ。今回ライの身分証を兼ねてギルドカードを作る。買い物したり宿に泊まったりするには、街の住人でない場合は身分証が必要になるからな」
ライの肩に乗ったグレイが話しかけてきた。
「ライ、街は村と違って人が多い。スリにあったりしないように貴重品はポーチに入れておけよ。俺はちょっと散歩してくる。ライがどこに行っても分かるから、あとで会おう。じゃあな」
グレイはライの肩からするりと降りて、軽々と荷馬車を跳ね降り、雑踏に消えていった。
「グレイは心配ない。妖精だから人に捕まることはない。ここがギルドだ。入るぞ」
ボブさんは重そうな木戸を押し開ける。頭の上でカランカランと鐘がなった。
中にいた多くの人が一斉に入り口を見る。視線が集まった。ビクンと胸がはねた。ボブさんの後ろに隠れてしまった。
そんな事お構いなしにボブさんは正面のカウンターに向かう。
「メリーさん。新規登録をお願いしたい。ライはオックオック生まれだ。5歳だから俺が身元保証人になる。あといつもの納品をお願いしたい」
慣れた様子で受付カウンターに声を掛けた。その後ろにくっつくようにして、ライはボブさんを追った。
受付の人は栗毛色の長い髪を持つきれいな女の人だった。
「ライ君だね。この用紙に名前と年齢・特技を書いて持ってきて。代筆しましょうか」
「いえ 字は書けます。まず名前・・・」
「名前はライでいい。特技は別に書かなくていい」
横からボブさんが声をかけてくる。
「これお願いします」
記入した用紙をメリーさんに手渡した。
「ライ君5才ですね。このカードに血を一滴垂らして」
魔法カバンと同じだ。ライはポーチからナイフを出す。
「ちょっと待って!ナイフでなくてこの針で刺してくれるかな。ナイフ仕舞っておいて」
魔道具を通して出てきたのは鉄色のFランクカードだった。
「これは君の身分証になるから失くさないようにしてください。
1年間に一度も依頼を受けていないとギルドを除籍になりますので気をつけて下さい。再取得には1銀貨かかります。紛失でも1銀貨です。
あとライ君は5歳なので魔物の討伐依頼は7歳まで受けられません。本来ギルド登録は7歳からです。
それまでは魔物討伐以外のFかEの依頼を受けてください」
「僕でも依頼を受けていいんですね」
「ライ、慌てなくていい。ゆっくり街に馴染んでから依頼は受ければいい。ギルドで初心者教育を受けて冒険者の事を学んでからだな。
メリーさんありがとうよ。あとは俺が話しておく」
ボブさんに掲示板の所に連れていかれた。
「ライはここのFとEランクの依頼を受けることができる。FやEランクは冒険者の見習いみたいなもんだ。ゆっくり学んで魔物に負けない力をつけるんだ。
今日はこの薬草を30束納品すれば1年間は依頼受けなくても大丈夫だ」
1枚の依頼票を手にして受付の左奥に進む。
「ここに依頼票とカードと薬草を出すと、ギルドカードに記録されてお金が入金される。現金が欲しい時は、現金でと言えばいい。
依頼を受ける時は受付に依頼票を出すだけだ。街の仕事なら、依頼完了のサインを貰って受付で出せばいい」
何も知らないライのためにボブさんの説明が続く。
依頼票と薬草をもって納品所に差し出す。
「おっ、ボブさん。久しぶり。子連れとは珍しい。坊主が採取した薬草か?採取の仕方も保存状態もいい。少し上乗せだな。
この用紙持って隣に行けばお金をくれるぞ」
ボブさんの知り合いらしい。
「ヨナ草30で10銅貨です。カードに入れますか? 現金にしますか?」
「現金でお願いします」
10枚の銅貨を小袋に仕舞う。初めての依頼を完了した。
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