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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
118/176

118  盗賊の村 2

 老人が借り家から出ていったところにグレイが戻ってきた。今貰った古そうな酒をじっくり見ているエックにグレイは声を掛けた。


「いい酒を貰ったな」


「何が入ってるか分からない酒だ。それに仕事中は酒は飲まない。猫殿は酒を飲むのか?」


「酒など何が美味しい。ライの作る飯の方が美味しいぞ」


「そんな事よりグレイ、街の中はどうだった?」


「ライ、当たってたぞ。女子供が地下で密造酒を作っていた。男どもは殺されたのか見当たらなかった。でも貯蔵庫の奥に人の気配はしていた。地下で働かされてる人たちは恐怖に囚われている。禁止薬のせいで反抗する気力がないのかもしれない。粗末なものを食べ繋ぎながら黙々と酒を造ってる。誰も話さないから話は聞けなかった。そんな地下室が幾つかあった」


「それなら街猫から何か情報が入った?」


「おお、ここの街猫は食べるものがないから、がりがりで可哀そうなものだった。食料を渡したらいろいろ教えてくれた。ここは昔から酒を造って他の街に卸して栄えていたらしい。その頃は豊かな街だったと言っていた。


 しかし、数年前から大男が街を牛耳るようになると、石壁をさらに高くして人の出入りを制限した。今まで以上の量の酒を造るようになったらしい。それでもそのころは、街に商人が来たり、旅人が訪れたりしてそれなりの生活だった。


 一年くらい前から街を支配していた男どもの様子が変わり酒で暴れるようになった。街の住人に酒を造れと地下に追い立て外に出れなくなった。街を牛耳っていた大男は急にいなくなり手下が街を支配していった。それからは街の人は酒をつくることだけが仕事になった。美味しい酒など必要としていないから酔えればいい程度のものは多量に作れたようだ。


 それを街を支配している男どもが石壁を出て外に売りに行って、材料を買ってきてはさらに酒を造らせた。食料などもそれなりに買ってきているようだが、地下の人達には生きているための最小限ぐらいしか与えられていない。だから街猫まで食料が来ないから、森に行きたくても石壁が高くて出ることができない。


 粗暴になった男たちは街から徒党を組んで、盗賊になり稼いできては酒を飲むようになった。あの禁止薬は女性には興味が薄くなるのか、女はみんな酒を造る方に回されている」


「あのー、ライさん、グレイはちゃんと話ができるのですね」

「ストーンさんは直接グレイと話したことありませんでしたか?」


「ああ・・・そういえばそんな気もする」


「ストーン、俺はライと契約している妖精猫だ。今頃気づくのか?まだまだだな」


「妖精猫?ダイアナさんの絵本の?」


「馬鹿者、俺が本当の妖精猫。あれは俺がもとだ」


「もしかして、オズワルド様のミケも?」


「まあ、あれもそうだがあれはまだ若い、子供の妖精猫だ」


 ライたちはあんぐりと口を開け固まったストーンを置き去りにすることにした。酒は酒精を高めるために水分を飛ばす。そのせいで、禁止薬が濃縮されていた。酒飲みほど体に多くの毒が蓄積してしまい解毒薬が効きづらくなっている。


 グレイとエックが一緒に転移して、酒樽すべてに直接解毒薬と睡眠薬を入れることにした。街内の井戸や川の水が解毒されて本来の清水になっている。


「おい、ストーン、しっかりしろ。俺たちは出かける。ライをちゃんと守れ」


 やっと、正気を取り戻したストーンが頷く。すぐにグレイとエックは地下の人達に食料を届け、酒樽に解毒薬と睡眠薬を入れるために転移した。グレイはどれだけ王宮から解毒薬を持ってきているんだろう。グランド国の王宮の薬師たちは無理をしたから今頃は、燃え尽きてしまっているだろう。


 ザッツ国の国民性は戦闘好きと聞いていたが、300年もたてばその血は薄れて行くと思ったがそうでもないようだ。禁止薬のせいだとしても軍神を名乗る男が生まれたり、徒党を組んで盗賊や犯罪に走る男たちが多すぎる。戦いであろうが薬作りであろうが好きなことを追い求める気質なんだろう。禁止薬を作った最初の薬師然りだ。そうでなければ古書にも載ってない禁止薬を多量に作ろうとはしないはずだ。


「ライさん、入り口の戸の前に誰かいます」


ストーンは小さな声でライに告げ唇に指を立てた。ライはストーンに了承の頷きをする。ライはさもエックがいるように声を出す。


「エックおじさん、久々のお酒に酔い心地がいいのは分かるけど・・・もう寝てしまった?ストーンさんは薬でやっと寝付いてもらえたのに。そんなところで寝たら寒いわよ。おじさん!起きなさいよ」


 聞き耳を立てた者が入り口の戸から離れる。このまま朝まで放置か、それとも夜襲ってくるのか分からない。ライとストーンは、まんじりともせず夜を過ごす。


 深夜グレイとエックが戻ってきた。酒の飲み過ぎで外の男どもは、深い眠りに入った。飲み水の瓶に眠り薬を入れてある。酒を飲まぬものも水を飲むので、同様に眠ってしまった。街の中は静かになった。


 禁止薬の解毒薬は眠り薬には効果がない。禁止薬と対になるだけだ。これが済んだら禁止薬の製法は神の世界で再び厳重に管理されることになる。人の世界の記録として神界に保管される。今回のように記録の流失がないことをライは願う。


「ライさん、屈強な男たちをその細腕で動けなくするなんて、薬師はすごいですね」


「使い方次第で薬は毒にもなります。だからこそ気を付けないといけないのです。禁止薬も解毒薬も薬師が作りました。間違った探究心は、死を招くとも言われています。人の生き死を他の人より多く見ていると、中には自分が命を弄べるほどの神になった気持ちを持った人が過去にもいたそうです。どんなことでも初心を忘れず、周囲をよく見て道を間違えないようにしなければならないと思います」


「騎士も同じです。人を守るために人に剣をむける。いつの間にか力だけを求めるようになった人もいる。人を簡単に殺せる武器を手にしているだけに闇に囚われないことが肝心だと思います」


 ライとストーンが話しているところにグレイとエックが戻ってきた。


「魔法もそうだ。魔導師団の中には殺戮魔法に夢中になったものが昔いた。自分の持てる力を倍増させて、魔法の威力を高めることに夢中になって、体を酷使した。魔力暴走で無残な死に方をした人もいた。魔導師団に入る時は、民や国を守るためと志高く入ったのに人は変わる」


「人が変わる変わらないかは個人の意思だ。人は心が弱い。だから大切な人や国が必要になる」


「俺には分からない。人の世を外から見ていると人は同じことを繰り返してる。食べ物が良くなったり、国が出来たりの変化はあっても、人が進化することはない。何時の世も悩み迷いながら同じような失敗を繰り返してる」


「グレイの言葉は次元が違う。さあ、仮眠を取るぞ。朝には騎士団が来る。ここは彼らに任せて、次の街に行くぞ」


 エックは、グレイと転移しながらこの街を治める領主にこの街のことと、軍神と名乗った男の件を報告した。石壁に囲まれた街の人の保護もお願いしてきた。


 ここの領地はザッツ国の王都から離れているせいか禁止薬の効果が薄く解毒薬の効果がすぐに出たことで領政が動き出した。軍神と名乗った男は、街や村で小競り合いを繰り返しながら仲間を増やし野盗となり暴れまわった。さらに単なる徒党から組織化して拡大していった。見習い神の汚染された神玉を吸い込んだ軍神はさらに力を得た。軍神は力と凶暴さを増し国を乗っ取る勢いとなった。

 

 地方の領主たちは軍神をどう扱っていいか考えあぐねていた。国内が荒れているのに国王は何もしない。ザッツ国の成り立ちを思うと、新しい国に生まれ変わることもやぶさかではないのかもしれないが、多くの領主たちは軍神と言われた男にそれだけの価値を見いだせずにいた。


 軍神の暴れように危機感を抱いていた領主は、隣国とはいえ、グランド国の使者として現れた魔導師団副団長の話に耳を傾けた。自領の密造酒や石壁の増築による城塞化の話は、寝耳に水であった。領都の機能がやっと戻ってきたばかりでまだ自領全体に目がいっていなかった。


 領主たちは酒は酔うだけで満足していた。あの街の酒は美味で有名で、王家にも献上していたはずだ。なぜ忘れていたのかと不思議に思った。領主は慌てて取り締まりに向かうことになった。


 軍神がいないなら今が攻め時だとエックは説明した。領主は野盗?などに醸造所をダメになどされたくない。本音が駄々洩れだが作り手を護れるなら理由など何でもよい。王都が動けば地方が動く。地方が動けば国が動く。ライは少しずつザッツ国がもとの国に戻っていく気配を感じた。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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